飛鳥Ⅱ 2025年世界一周クルーズ第39日 テネリフェ・トラム
アルストム社製 シタディス302型トラム 起点のインテルカンビアドール停留場にて
アフリカ大陸西岸、スペイン領カナリア諸島のテネリフェに到着した。前夜から自キャビンではYoutubeで大瀧詠一の 『カナリア諸島にて』を聞き、充分気分を盛り上げての入港である。テネリフェと云えば、ヨーロッパの人々にとっては避寒地として有名で、街を歩いているとフランス語やドイツ語の観光客が多数歩いているのを見かける。彼らにとれば、東京の人間が熱海や伊豆の温泉にやってくるような感覚なのだろう。この日は港町のサンタ・クルス・デ・テネリフェからトラムに乗って、世界遺産に登録されている古都ラグーナを訪問することにした。船からラグーナまでの有料連絡バスもあったのだが、こちらは僅か15キロほどの距離を往復するだけで、一人174ユーロ(2万7500円)もする。いくら飛鳥料金とは云えども、これは法外だと思っていたところ、昨年この船で当地へ来た友人から、「 トラムに乗る方が安くて便利 」と船内で聞き、自力で行くことにした。
トラムに乗るには、まず港から徒歩で行ける最寄りの停留場でチケットを買う必要がある。外国で公共交通利用をする際は、目的地至近の降車場はどこか、乗り換えがあるのか、切符をどこで買うのかなどけっこうハードルが高いことがあるが、ここでは港近辺から目的地ラグーナにあるトリ二ダッド停留場までのトラム1号線は12.5キロで乗り換えもなく、やってくる電車はすべてが終点まで行くので乗り間違いもないことが分かった。旅行者が乗車するには各停留場にある券売機で、ユーロの現金かクレジットカードで全線均一料金の乗車カードを購入する必要があるが、券売機の表示がスペイン語のみなのがちょっと面倒なところではある(その後撮影した写真から英・仏・独への言語切り替えボタンがあったことが判明)。仕方なく無人の券売機を前に、何となくヤマ勘で往復用の「2回または2人」の画面表示にタッチし、そのカードを2枚買うことにした。往復で一人2.7ユーロ(約400円)だから、船からの連絡バスといかに値段が違うことか。
平日の昼間とあって、トラムは5分から6分おきに次々とやって来る。どの車両も結構人が乗っており立ち客も多い。LRT ( LIGHT RAIL TRANSIT ) やトラムと呼ばれる軽快電車、路面電車の見直しが世界中で起こっており、日本でも宇都宮で新しい鉄道が開業しているが、ここテネリフェでも大昔に廃線になった路面電車を、2007年に全面的にリニューアルし再開業したそうだ。行き交う車両はどれも最新式の低床式連接車で、5両の車両を3つの台車で動かしている。さっそく乗車して購入した乗車カードを出入口のカードリーダーにかざすと、画面に赤でペケ印の使用不可表示が出て、一瞬買い間違えたかと焦る。カードの裏表が逆か、などと何度かトライしていたら、地元のオバちゃんが機械の下部に読み取り装置があるから、下からかざせと身振り手振りで教えてくれた。その通りやってやっとOKの表示が出たが、外国の公共交通機関を初めて利用するときの”あるある”現象を今回も体験することになった。
ボックスシートとベンチシートが混在する車内の仕切り板には、”ALSTOM”との表示が掲げられ、日本でもアルストム式台車などで知られる、仏の鉄道総合メーカー製車両であることが分かる。シタディスというブランドの同社のトラムシリーズは各国に輸出され、今や世界で1800編成以上が使用されているそうで、ここテネリフェではシタディス302型と呼ばれる全長32米、幅2.4米、 1435ミリ標準軌の車両が活躍しているのである。驚いたのは、1号線の港近くにある始点インテルカンビアドール停留場から終点のトリニダードまでの約12.5キロの間には標高差が500米以上あり、平均すれば勾配は40パーミル以上であるのに、乗車したトラムは行き(上り)も帰り(下り)も最高速度50キロで急坂を実に軽々と走ることであった。小さな車輪にパワフルなモーター、回生ブレーキの他に台車を見れば電磁吸着ブレーキも装備しているようで、さすがアルストム社のベストセラー車両だとその快適な乗り心地を楽しんだ。車内ではスマホの電話の声がうるさいものの、老人や体の不自由な乗客が乗ってくれば、若者たちが率先して席を譲っている光景が幾度も見られ、矢張りここは南欧なのだと感心することしきりだった。
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