「 日本外交の劣化 」 山上信吾・著(文芸春秋社刊)
反中姿勢を露わにするトランプ政権の誕生で、戦狼外交もこのところホンの少しおとなしめだが、覇権国家として西側の民主主義国家に牙をむくのがお約束のシナである。台湾情勢も今後どう展開するか分からぬ中、元外交官の評論家たちを交えて情勢を分析をするテレビの政策番組も多い。尖閣の例でも明らかなように、彼ら評論家らの討論を聞いていると、シナに関しては一応「ケシカラン」との声を挙げながらも、相手の言い分も忖度し、我が国の過剰な反応を諫めるかの融和的な物言いに落ち着く発言もよく聞く。そんな中、最近テレビやネットで、一貫してはっきりとした反中を貫く意見を繰り返しているのが、前オーストラリア特命全権大使で、現在は外交評論家である山上信吾氏である。外務官僚上がりに似合わぬ明快、かつ小気味よい主張を繰り出す山上氏のことを注目していたら、昨年彼の新著「日本外交の劣化」が文芸春秋社から出版され、これが評判となっているらしいので購読してみた。
総じて日本の外交は問題が生じた際に事なかれ主義で、ややもすれば相手国に押され気味であり、外務省は国益をどう考えているのかと日ごろ私は心配していたのだが、山上氏が本書で指摘する外務省の実態をみれば、「やはりそういうことか、役人はそんな考えで動いているのか」と合点がいく箇所が非常に多い。曰くロビイング能力の劣化、気概の弱さ、外に出て行かない内向き志向、規律の弛緩、政治家との不適切な距離、チャイナスクールの視野の偏り、国益に背く行動など、いまの外務省の内部に巣食う宿痾を氏は本書で舌鋒鋭く批判する。自分の上司たちを実名で論評したかと思えば、総合商社のトップから中国大使となって注目を浴びた伊藤忠の丹羽氏(と思われる人物)も批評しており、読みながら勇気ある発信に感心することしきりである。東大法学部に入る前は桐朋学園でピッチャーだったというだけあって、全編忖度なしで「おいおい、ここまで書いても大丈夫なのかい?」と心配になるほどのスポーツマン的ド真中の豪速球直球の内容であった。
本書の後書きには「本書は、外交官としての私の遺言である。遺言である以上、かつての先輩、同僚、後輩との人間関係に遠慮して行儀よく丸く収めることは、とうにあきらめた。むしろ、今後の日本外交のために、歯に衣着せず、敬称を略して語ることとした」と氏は覚悟を披露しているが、こんな直言居士的性格のため、本人としては人事的に今一歩報われなかった口惜しさも随所ににじみ出る文章だ。しかしものごとをソフトに収めるのが「大人」のような世の風潮のなか、国益や後輩を思えばこそ歯に衣を着せず黒白はっきりと意見を通す氏の姿勢には好感がもてる。第2次トランプ政権の誕生で世界のパラダイムは大転換するであろうに、相変わらずグローバリズム追従かつ媚中の石破政権をバックにするのが今の外務省だと云える。内部崩壊の韓国、無法のシナやロシア、ロシアに歩み寄る北朝鮮など激しく移り行く国際情勢から目が離せない中で、外務省の重要性は一段と増している。山上氏のように保守の心情に立脚しつつ、日本人の矜持を持って国益を追求する人材が、今の外務省に多数いるのだろうか。読めば読むほどそんな心配を想起させる「日本外交の劣化」であり、氏が苦言を呈する人事・教育の適正化を同省に望みたいところである。
最近のコメント