海に眠るダイヤモンド
TBSテレビの日曜ドラマ「海に眠るダイヤモンド」全10話が昨日完結した。黒いダイヤモンドと持て囃され、我が国の重工業化の一翼を担ったのが石炭である、これは石炭掘削の島、長崎市沖の端島(軍艦島)を舞台にした物語で、島に暮らす人々を描いた人間ドラマであるとともに、石炭産業従事者の実態をかなり忠実に表現しようとしたセミ社会派ドラマでもあった。端島には2017年4月に訪問したことがあり、コンクリートの塊となった島の有様を眼前にしたが(リンク:セレブリティ・ミレニアム日本一周春色クルーズ(4)軍艦島)、ドラマでは国内石炭産業が活況を呈した時期の生き生きした島の様子が、CGなども交えて再現され、毎週興味深く画面を見ることができた。「海に眠るダイヤモンド」は1960年代に端島の食堂の娘であった朝子(杉咲 花)と、老婆になって現在の東京で生きるその後の彼女自身(宮本信子)、それに朝子と結婚するはずだった島で働く若者の鉄平(神木隆之介)と、彼にそっくりな現代のホスト稼業の玲央(同)の2組が、それぞれ2重になって進む同時並行ストーリーで、時代考察や状況描写もきっちりして安心して見ていられたが、一方で昨日の最終回を見終ってストーリーの展開に些かの疑問が湧いて来たのも事実である。ということで見終わった余韻が消えぬうちに勝手な我が感想を書いてみたい。
反社組織から大金を持ち逃げして端島に来た謎の歌手リナ(池田エライザ)を護るために、一味のヤクザ者を射殺した鉄平の兄(斎藤 工)だが、その兄は炭鉱事故で死んでしまう。あとに残ったリナやリナと兄との間にできた子(鉄平の甥っ子)を組織の追っ手から護るために、自ら兄の犯行の濡れ衣を着て一人逃避行を続けるのが、主人公の鉄平である。狭い島から逃れ警察に事情を話しても理解されず、その後もヤクザたちに追われ続ける鉄平だが、いつまでもその様な境遇に甘んじ、結婚を決めた朝子にさえ連絡を取らなかった彼の行動に果たして意味があったのか、というのが最大の疑問である。端島を脱出した後でも手紙なら朝子に送れるし、もし投函場所から足がつくと考えるなら都度違う場所から出せばよい。朝子にもヤクザの監視の目が光っているなら、親友の賢将(清水尋也)宛に手紙を書き、鉄平の思いや状況を間接的に朝子に伝えることも出来たはずである。何故それらの手も講じず、鉄平はただただ永年に亘って朝子を深く思いつつも、放っておいたのか大いに気になる処である。
組織の掟を破って逃げたリナでさえ、端島を脱出した後は、ヤクザに追われることもなく無事に生き延びている。その子(鉄平の甥っ子)は澤田(酒向 芳)となり晩年は朝子の秘書になって現れた通りだ。その程度のヤクザ組織の包囲網なら、鉄平は東京や大阪などの大都会か、或いは誰も知らない田舎の町で暫く一人ひっそりと生きていけたはずだ。実際に全国指名手配の凶悪犯さえなかなか逮捕されないご時世である。違う土地で男一人まじめに暮らしているならば、まずヤクザの組織には見つからないだろうから、ほとぼりが冷めた頃に朝子を呼び寄せれば良かっただろう。そもそも玲央と鉄平は、「似ていない」と最後に(現代の)朝子も言っているが、結局のところ1960年代の鉄平と今に生きる玲央は、何の繋がりもなかったとの結末は大いにのけぞった。また鉄平の親友である賢将がかつて朝子に気があったことや、詐欺師が偶然島に現れたことなど、どうも釈然としないサブストーリーがドラマの中に散りばめられ、2時代並行物語でただでさえ難しい話が一層複雑になっていたのも気が散るところ。察しの悪い私は、同時録画中のテレビ画面を止めて「今、なんて言ったの?」とか「これはどういう事?」とうるさがる妻に問いかけ、繰り返し同じ場面を再生しなければついて行けぬこともしばしばであった。
などと思う処もあるが、最終回の展開は涙無くして見る事の出来ない良くできたドラマで、この3カ月の間は大いに楽しませてもらった。TBSはヒダリに大きく旋回しているニュースやサンデーモーニングなどの報道を一切やめて、ドラマ専門のチャンネルになったら良いのではなかろうか。
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