飛鳥Ⅱ 2025年世界一周クルーズ第32日 飛鳥Ⅲとの邂逅
砂漠の町、ナミビアのウオルビスベイを出港してから、次港テネリフェまで、飛鳥Ⅱは丸9日間にわたって大西洋を北上する。シンガポールからレユニオン島までのインド洋無寄港区間に匹敵する今航海で最長の洋上生活である。横浜を出て1か月が過ぎ、乗客はクルーズ生活に慣れると共にマンネリ感に疲れを感じる頃とあって、この間、船内では様々なイベントが企画されている。昨日、飛鳥Ⅱはナポレオンが幽閉された絶海の孤島、セントヘレナ島の周囲を回ったが、島の沖合いで4月10日にドイツのマイヤー造船所で引き渡しを受け、日本に回航中の「飛鳥Ⅲ」と洋上でのランデブーが行われた。
今はスマホのアプリで、世界中の他の船の動静もわかる便利な世の中である。飛鳥Ⅲがちょうどアフリカ西岸を南下して来ることは、以前より飛鳥Ⅱの船上でも多くの知るところになっていたが、「どこかで出会うの?」との質問に、渡邊船長は言葉を濁し続けてきた。しかし、もしそのような予定がないなら明確に「ノー」と返答するはずで、否定も肯定もしないということは、当然出会いがあるものとみな密かに期待をしていたのだった。但し、ウオルビスベイ~テネリフェの距離を9.5日で航走するには、相当のスピードと燃料消費が必要なので、余計な離路が可能なのか、一抹の不安がないわけではなかった。と、ウォルビスベイを出て2日目の朝の船長の定例放送で、「明日(5/1)11時頃、ドイツ造船所より日本に航海中の新造船 飛鳥Ⅲとランデブーすることとなりました」との待望のアナウンスがあった。
5月1日、セントヘレナ島の北端の港、ジョージタウン沖を飛鳥Ⅱが通過した頃、一足早く到着しドリフトしていた飛鳥Ⅲが前方の島影から姿を露わにした。これまで何度も完成予想図で見た通りの船影もくっきり、飛鳥Ⅱより一回り太いファンネルには、ニ引きの赤線が遠くからでもはっきりと認められる。飛鳥Ⅱの左舷はるか前方から微速で対向し、次第に接近して来た飛鳥Ⅲは、約300米ほどの距離で舷を交わし一旦後方に去って行く。その時、飛鳥Ⅱ船上はのぼりの他、乗客やクルー手作りの横断幕がデッキ上のそこかしこにはためき、汽笛の交換と共に皆で「ヤッホー」との掛け声を新造船に送った。飛鳥Ⅲは小久江船長以下170名ほどの回航要員が乗船しているそうで、向こうも総出でデッキで手を振っている光景がはっきりと視認できる。
すれ違って飛鳥Ⅱの左舷、艫(とも)側に一旦去った飛鳥Ⅲは、ハードポート(左急旋回)で180度回頭、今度は行き足をほぼ無くした飛鳥Ⅱの右舷を微速前進で追い越して行く。飛鳥Ⅱの船首に出た飛鳥Ⅲは最後に進路を横切って再び左舷側でしばらく並走したが、2隻はまるでワルツのウイーブ(編み込み)さながらの航跡をつくった。この間、約一時間、もしセントヘレナ島の住人が高台からこの様子を見ていたら、さぞ眼前のシーンにびっくりしたことだろう。かつてアデン湾で自衛艦「せとゆき」が飛鳥Ⅱほかの警護の任を終え、軍艦旗も鮮やかに答舷礼を実施してくれた光景を思い出したが、このように護衛艦なみに軽やかに回頭できるのも、アジポッド推進の飛鳥Ⅲならではだ。飛鳥Ⅲは7月11日、我々が日本帰着の日に、横浜で待っていてくれることだろう。
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