注文するのも ラク じゃない
中学時代の友人6人と渋谷の居酒屋で平日午後1時からの昼呑みをした。周囲をみれば相変わらず同じような年恰好のジジイのグループが多い。最近の都内盛り場の居酒屋は、午後のヒマな時間にこういう年配者の昼呑みで稼いでいるようだ。案内された席につくと、ここではテーブルに置かれたタブレットのパネルに表示されたメニューから飲み物や料理を注文をする方式であった。最近はやりのQRコードを読んで自分のスマホからオーダーする必要はなかったことに一同まずはホッとするが、それでも目の前のパネルに誰もなかなか触れたがらない。「俺はビール大」「おれはビール中にフライドポテトかな」などと時代遅れのオヤジ達それぞれが勝手に口走るうち、大学は理工学部を出た( 文科系出より少しは機械に強そうな )一人が意を決して「じゃあ俺が代表して」とタブレット端末を操作し始めた。ほどなく最初の一杯が出そろって無事乾杯と思いきや、またもや同じ数のビールに加え、頼んだフライドチキンが2皿も運ばれてきた。
料理を運んできた男性店員に「え?1つしか頼んでないのに」と理工学部が文句を云うと「いやオーダー入ってます」と彼は憮然と答える。「注文済みの確認の画面がなくて、注文が通っているか分からず余分にボタンを押したのかなあ?」と今度は理工学部がやや不安げに呟けば、「画面をちょっとスライドさせたら履歴確認できますよ」とその店員はいとも簡単に言う。言われるままそうしてみれば操作ミスなのか、数量欄には間違いなく2と入力されており、店員は「やれやれ」という顔で立ち去って行った。結局この日は操作不慣れな中、フライドチキン×2や串カツ×3、フライドポテト×3のように、揚げ物ばかりでカンベンというものや、飲みたかったのに注文がうまく行かず諦めた黒ビールなど、一体何を飲み食いしたのか、満足したのか足りないのか分からない状況だ。ただフライドチキンにかなり入っていたのか、ガーリックの匂いだけをまき散らして、一同まだ外は明るい中、ふらふらと家路についたのであった。
こうしてみると最近は注文一つするのもラクでない。そういえば昨年テレビで話題になった「不適切にもほどがある」を最近動画配信サービスで再び楽しんだのだが、1986年からタイムスリップしてきた主人公の市郎が、現代の居酒屋でタブレット注文したところ、炙り〆サバ200人前を誤って注文してしまった場面があった。どうやら我々も1980年代の意識のまま2025年を迎えているのか、機械操作に慣れないせいもあって、日常場面で困惑することがしばしばである。目の前の画面から「三択から選んで下さい」などと表示されると「 はてどうするか」と妙にオドオドするし、間違ったボタンを押してしまい「最初からやり直して下さい」となると、「ふざけるな!」と機械を殴りつけたくなる。なのでスーパーの会計はセルフレジよりもどんなに行列が長くても有人のレジに並ぶし、みどりの窓口のある駅では、券売機で購入可能な切符であっても窓口に行く。銀行から送金する際には「手数料も安いし簡単なのでATMで」と案内されても「窓口でやって領収印を欲しい」と主張して係員を呆れさせる。年寄りは時間なら幾らでもある。手数料を少々取られても問題ない。画面より人の手を使って作業が為された方がはるかに気持ちが良いのだ。
最近のコメント