五月雨を集めて早し最上川 (酒田・海里の旅①)
「五月雨を集めて早し最上川」。そう松尾芭蕉に詠まれたこの季節に、最上川の景色を楽しみ、併せて河口にある酒田の町を再度見学する旅をした。酒田は昨年4月、新潟‐酒田間の白新線・羽越本線で運転される観光列車「海里」の北向き(下り)に乗車し、終着駅として初めて降り立った地である(リンク:「海里」に乗車 東北地方・新旧乗り比べ鉄旅)。今は人口10万人ほどのさりげない海辺の地方都市だが、ここは江戸時代に西回り行路の北前船の発航の地となり、「東の酒田、西の堺」と云われるほど栄えた町であることをその際に知ってとても驚いた。スケジュールの都合で昨年はゆっくりと市内各所を見ることが出来なかったため、今回は酒田始発の「海里」の南行(上り)乗車と絡め、再びこの地を訪れることにしたのである。「乗って楽しい列車」である「海里」の4号車は、食事つき旅行商品となっており、新潟より酒田に向かう午前の下り列車は新潟の料亭の弁当、逆コースの午後の酒田発上りは庄内地方のイタリアンとスイーツが出されると、前回とは別の趣向なのも乗車の楽しみである。
酒田まで行くには、時間的には上越新幹線の新潟駅で羽越線(白新線経由)の特急「いなほ」に乗り換えるのが一番早いが、行きと帰りが同じ経路というのもつまらない。よって今回は山形新幹線の終点駅である新庄まで「つばさ」で行き、新庄から陸羽西線で酒田に出るルートをたどることにした。もっとも陸羽西線は平行する国道のトンネル工事の影響で列車が走らず、現在は代行バスによる営業のため、東京・酒田間では新潟経由より2時間以上も余計に時間がかかる。しかし時間に縛られないのが、閑ならいくらでもあるシニアの旅の特権である。「奥の細道最上川ライン」との別名もある陸羽西線に沿ってチンタラとバスの旅も良かろうと、今年は「大人の休日倶楽部」の3割引き切符で山形新幹線に乗車することにした。バス区間はトイレも不便だろうという見立てで、新庄までの新幹線ではお約束であるビールもやや控えめにした旅の序章であった。
新庄駅前で待っていた山形交通の代行バスは車内は空いていたが、平日の午後とあって地元の高校生やら勤め人がパラパラと乗っており、いかにも地元の足であるローカル線の「代行」という雰囲気。新庄から酒田まで55キロ、途中12駅の駅前や駅至近の広場に停車しつつ、バスは2時間近くかけてゆったりと走る。バス道からは、初夏の陽光が川面に映える最上川が近付いたり離れたりで、鉄道で旅するよりこちらの方がよほど景色は良いようだ。最上川と云えば1983年から翌年にかけた放送されたNHKドラマ「おしん」は、このあたりを中心に主人公の幼少期の脚本が作られたそうで、おしんがいかだに載せられて子守奉公に出る有名なシーンそのままの景色が車窓に続き見ていて飽きない。かつては川の舟運によって稲作物や紅花が河口の酒田港に運ばれ、北前船に載せ替えられ上方や江戸に輸送されたと云うが、その史実通り、最上川は水量が多く、庄内地方の輸送の大動脈として機能したことがよく分かる道中であった。代行バスは陸羽西線の各駅前に出入りするために、時には鄙びたごく地元の道路を走り、「トイレ休憩」もあって想像したよりずっと楽しい旅であった。
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