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2024年4月12日 (金)

「死は存在しない」 田坂広志著

20240412

人生100年時代と言われるが、私のような70才過ぎの男性高齢者が100まで生きるのは48人に1人の割合、女性では12人に1人(国際長寿センター)だそうで、そう誰もが100才に到達するわけではない。両親のことを考えると、二人とも90歳前後でなくなったから、自分の寿命も長くてもせいぜいあと20年くらいかと思っている。平均余命の尺度で考えれば、我々はあと14才ほど生きるのが「平均」なのだそうだが、振り返って14年前のことを思い出せばついこの間のようで愕然とする。飛鳥Ⅱで人生初の世界一周クルーズに行ったのが2011年の4月で、あれからちょうど13年が経過し、それと同じくらいの時間が経過すれば、私という存在は統計的にはこの世にいない可能性が高くなるわけだ。それでは死んだあとの自分は一体どうなるのか、多くの人が考えるように、ふとその疑問が脳裏をかすめる。


特に信じる宗教もないので、人間は亡くなれば家族や知人の記憶に残るだけで無へ帰って行く存在だと思っている私だが、「死は存在しない」(光文社新書)(「死後我々はどうなるのか」)と云う本が本屋の店頭にあったので購入して読んでみた。著者である田坂広志氏は東大工学部を出た原子力工学の博士で、世界賢人会議の日本代表や大学教授などを歴任し、内閣官房参与にも就いたと云うから、履歴からすると純粋に最新の科学に立脚して本書を上辞したように見える。もっとも著者自身の最近の著作は「運気を引き寄せる」とか「人生で起こること、すべて良きこと」などのスピリチュアル系が多いようだが、この本の帯には「最先端量子科学が示す新たな仮説」とあり、科学者の眼から死についてどういう考察がなされるのか期待しつつ読み進めた。


「最先端量子化学が示す新たな仮説」とはどういうものだろうか。本書によれば、我々の住む宇宙は、138億年前に量子真空と呼ばれる真空が「ゆらぎ」を起こして大爆発(ビッグバン)して誕生したそうだ。この世に存在する物質の究極は波動であり、我々が知覚する「もの」は実際にはないし、時間もない、と云うのが最新の物理学の考えだと著者は説明する。またビッグバンを起こした量子真空は、無限のエネルギーを持っており、そこには、この宇宙が存在を開始した138億年前からのあらゆる情報が記録される「ゼロポイントフィールド」なる空間が存在するというのがこの本の主張するところである。「ゼロ・ポイント・フィールド」には私たち人類一人一人を含む全宇宙のあらゆる歴史や行動、変化が「宇宙的意識」として集積されており、我々が死ねば肉体が滅びても魂は「宇宙的意識」に止揚されるので、「死は存在しない」という理屈になるらしい。


この筋立ては、かつて若い頃、ブルーバックス本などでかいつまんだ「特殊相対性理論」などの世界に似ているようでもあり、最新物理の知見を踏まえればこのような展開に導かれることもありうべしと、引き込まれるそうになる点がミソである。また宇宙の彼方には人類の英知や進化を越えた何か超越する存在があるという話は、1968年のスタンリーキューブリックの映画作品「2001年宇宙の旅」も想起させ、見果てぬ世界を知りたいとの人々の欲をくすぐる考え方でもある。もっとも、この「ゼロ・ポイント・フィールド」が実存する証として、著者は仏教の涅槃はじめ多くの宗教の教義にその世界が描かれていることや、人々がしばしば六感、予知能力、占い、デジャブなどの非日常現象を経験するのは、「ゼロ・ポイント・フィールド」がすべての事項に繋がっているからだとの理論を展開している。しかしその論考は、神秘論的かつ余りにも性急、短絡的なこじつけに思え、「ゼロ・ポイント・フィールド」なるものが存在することを学問として示すには、より普遍的で精緻な事例をあげて検証を行う必要があると考える。「死は存在しない」は興味深い発想だが、著者の思い入れが強すぎ、それを物理学的な装飾でカバーしたのではないか、とも思えるのである。仮説と現実を繋ぐより実証的な具体例があれば、理解の度も深まる気がしている。

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