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2023年7月

2023年7月28日 (金)

それ見たことか、LGBT法案

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報道機関などが実施する世論調査で岸田内閣の支持率が軒並み大幅に下がっている。7月22日、23日に行われた毎日新聞の調査では、支持率が28%とこの2か月で17%もダウン、反対に不支持は65%に上っている。わが家の固定電話にもよく世論調査の電話がかかってくるが、いまや固定電話を設置しているのはほとんどがシニア層の所帯のうえ、数分かかる返答に真面目に答えるような暇な人もそう多くはないだろうから、この種の数字の妥当性には大いに疑問を持つのだが、それにしても岸田内閣の不人気具合は顕著である。支持率急降下の原因としては、それぞれマイナンバーカードのごたごたや物価の上昇が主な原因だとの分析がなされ、保守界隈でさかんに云われる「LGBT法案」の強行採決に呆れて自民党の岩盤支持者が離れたという説はこれまでほとんど見られなかった。LGBTの人たちへの理解促進を強調してきた朝日・毎日・東京、TBSなど「リベラル」派メディアは、この法案の成立が国民の一定層にひどく不人気だという世論を惹起させたくないのであろう。


と思っていたら、7月25日の読売新聞の社説「政治の信頼をどう回復するか」では、岸田内閣の信頼に関して「十分な議論もなく、性的少数者(LGBT)への理解増進法を成立させたことで保守層が離反したのだろう」という分析がなされているのをやっと見つけることができた。国会でのLGBT法案の拙速な議論に慎重な姿勢だった読売ならでは真っ当な社説が出てきたと云えよう。何があっても自民党を支持する「岩盤支持層」は約20%と従来から云われてきたから、6月末のLGBT法案の強行採決に失望してこの層が離反したことと、2か月前から17%支持率がダウンしてことは、(世論調査はかなりいい加減な数字だとしても)まずは平仄が合う。「リベラル」系が隠したい議論が、遅きに失したが大手のメディアから展開されたことになり、法案の強行成立が自民党を今後ボディーブローのように苦しめることになろう、と密かに期待したい。私も第2次安倍政権発足以来これまで自民党を支持してきたが、岩盤支持層を甘く見てトンデモ法案を成立させた自民党執行部には鉄槌を下さねばならない。いまは内閣支持率のダウンを見るたびに「それみたことか」とひとり喝采する。 → 「LGBT法案が成立したら自民党支持はやめる(2023年6月14日)」


これまで自民党内でもLGBT法案を推進してきた稲田朋美らバカな議員たちは「LGBT法は理念法にすぎない」「『自称女性』による女性トイレや女性風呂の利用は、それぞれ関係の法則や規則で規制できる」として、法制化がただちにLGBT以外の人々の生活には影響をきたさないとしてきた。ところが法案が成立してから僅か1カ月で事態を憂うような2つの事件が起きて世間を戸惑わせている。一つは経産省のトランスジェンダー職員による、女性トイレの使用制限は違法だとする訴えが、最高裁で認められた件。法案が成立した直後に、省内のフツーの女性の権利を侵害する最高裁判決が下されたことは、稲田朋美らの説明が大嘘だったことを明確に示している。最高裁では5人の判事全員が「この判断が一般のケースに当てはまるものではない」と苦しい逃げの「補足説明」を発表しているが、櫻井よし子氏は週刊新潮8月3日号「ルネッサンス」で「最高裁判決は絶対的な権威をまとう」「日本社会は判決の示した価値観を受け入れるところまで進んでいない。社会の常識も良識も今回の判決とは到底、一致しない。ならばもっと学べと最高裁は言っている」と「世界的にも珍しい」判決や補足説明の示す暗い未来を予測している。「普通の女性」の持つ、ごく当たり前の権利を、LGBT新法案や最高裁判決は踏みにじろうとしているのである。女性たちよ、怒れ!


もう一件、札幌の首なし殺人の被害者は、界隈ではよく知られた女装を趣味とする男性だったそうだ。彼は「ゆきずりの男女関係を求めていたようで夜の店やクラブで会った女性に連絡先を聞いて回ってラブホテルに行く。そうして関係を持った女性が何人もいると噂になっていたました」「性欲が強い」(週刊新潮8月3日号)という家庭のある『男』で、女装を武器に夜の巷で活動していたことがさかんに報道されている。もしこのような「性欲の強い」女装男が「自分は女だ」と自称して、トイレや風呂などの女性エリアに侵入してきたらどうなるのだろうか。生まれた性と自分の認識の違いを悩む本当のトランスジェンダーばかりでなく、女装したただの「変態スケベオヤジ」を今後どうやって区別していくのだろうか。LGBT法案の成立は「自称」女性の価値観をもっと理解する社会を目指しているようだが、これまでひっそりと真面目に暮らしてきた「本当のトランジェンダー」だけではなく、広い世の中には女装オヤジもあまた存在している。新法案や最高裁の示す風潮によってただの変態オヤジが大手を振って町を闊歩し、「自称女性」の「彼ら」がますます存在感を誇示して「活性化」する社会が到来しそうだ。伝統や常識に裏打ちされた、ごく真っ当な世の中を望みたい保守派としては世を憂うるばかりである。

 

7月30日追記:その後の報道ではこの戸籍上も生物学的にも「男」だった女装の被害者は、界隈ではしばしば問題を起こして有名だったとの事。女性トイレを占有したため、店員が注意すると「差別だ」と怒るので、「ジェンダーへの配慮」で女性扱いをせざるを得なかった事もあったという。こんな輩がLGBT法案に後押しされて、全国で増加したら一体世の中はどうなるのだろうか。ああ恐ろしい。

2023年7月25日 (火)

第54回 都民と消防のふれあいコンサート

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日比谷公園の再整備計画で、野外小音楽堂が改築されるのに伴い、長年聞き続けてきた東京消防庁音楽隊による金曜コンサートが終了することは先日アップしたとおりである。しばらく定期的に消防庁音楽隊の演奏が聞けぬとあって、7月20日(木)に文京シビックホールで開催された第54回「都民と消防のふれあいコンサート」に行ってきた。新聞折込みの東京都広報紙にふれあいコンサートの案内があったので、これに応募して当選したのであった。東京消防庁音楽隊は昭和24年に日本初の消防音楽隊として創立、都民の防火・防災への意識向上と協力を呼びかけるための各種音楽活動を日ごろ展開しており、その一環としてフラッグ演技で華を添える女性カラーガーズ隊とともに年に数回この「ふれあいコンサート」を開いている。今回はコロナ禍で中断していた演奏会が久しぶりに開かれたものである。

 

会場の文京シビックセンター大ホールは、例によってシニア層の聴衆が目立ったが、夏休みを控えて家族連れも多く、座席はほぼ満杯の盛況ぶり。曲目は最近、この種のコンサートでよく演奏されるジョン・ウイリアムズの曲(レイダーズマーチ、ハリーポッター)のほか、ヘンデル、グリーグなどのクラシック作品、内外映画音楽のテーマなどで、途中休憩をはさみ広い年代向けの2時間弱の演奏を楽しむことができた。屋外で聞くときと比べると、ホールでの演奏は音響効果もあって、ブラスが圧倒的にふくよかかつブリリアントで、彼らの音楽性、技巧の高さが聞く者によく伝わってくるようだった。自治体などの音楽隊は音楽を専任する隊員で構成されているものと、業務を兼任するものがあるが、東京消防庁や警視庁音楽隊は、専任隊員で構成されているうえ、最近は専門の音楽大学出身の隊員も多いというから、その技量は相当なものなのだろう。


消防庁のコンサートらしく、曲目の合間には日ごろ心がけねばならぬ消防・防災上の注意喚起案内あり、曲目にあわせて演技するカラーガーズの溌剌とした振付ありであっという間に終了、夏の夜のひと時の生音楽を楽しむことができた。それにしても音楽隊には打楽器のほかはキーボードやベースギターが一本あるだけである。弦楽器が一切ない中で管楽器のかくも豊かな表現を聞くと、木管、金管問わず管楽器を一度吹いてみたいという思いがあらためて強く湧いてくる。我々が中学生の頃はスペリオパイプしかなく、本格的な管楽器演奏の音楽部があるような公立の学校はほとんどなかったので、当時から興味はありながらついにここまで管楽器にふれることもなくきてしまった。70歳を過ぎた今でもピアノこそ毎日練習しているが、今さら新たな楽器を覚えるのも難しいかと逡巡していると、妻が音楽教室生徒募集の新聞の折り込み広告を出してきて、「何を始めるにも今が一番若いのよ、試しに音楽教室に通ってフルートなどをやってみたら」と傍らでけしかける。

2023年7月20日 (木)

恨めしの山陽新幹線500系

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姫路駅の500系(2019年6月)

三原港で「シースピカ」号による「せとうち島旅クルーズ」を下船した後は、「大人の休日倶楽部・ジパング」を利用し3割引きの新幹線で帰京することにした。といってもジパングの3割引は「のぞみ」号の特急券には適用されないため、三原駅から新大阪駅までは山陽新幹線「こだま」または「さくら」の自由席を利用し、その後は「ひかり」の指定席で手堅く東京まで帰って来ることに。旅行前に時刻表を詳細にチェックしていた妻は「もっと早く帰れる「こだま」もあるけれど、一時間半待てば『500系こだま』が来る」と目を輝かせるので、三原を15時12分に出る500系「こだま854号」新大阪行き(自由席)に乗車することにし、これに接続する新大阪からの「ひかり518号」の指定券をあらかじめ取っておいた。妻は500系新幹線が東京-博多間にデビューした当初から乗ってみたいと思っていたものの乗車の機会がなく、そのうち500系車両は新大阪以西を走る8両編成の「こだま」号のみに運用されるようになってしまい、文字通り遠い存在になったそうだ。いまや500系「こだま」が山陽新幹線で博多方面から新大阪まで運転されるのは1日4本のみとあって、その後もなかなか乗車できぬことを嘆いていたが、今回は三原駅を使うことになり千載一遇のチャンス到来とのことである。


とは言え、私は500系の車両は余り好きではない。1996年に導入された500系新幹線は、山陽区間での300キロ運転に備え、ロケットのような流線形胴体を採用したために車内は狭かったし、乗り心地もごつごつと固いような感じがしたものだ。今は昔の会社員時代、広島県などの取引先へ出張する際には、現地で午後の商談ができるように、東京駅を7時50分に出発する500系の「のぞみ5号」(2006年以降は「のぞみ9号」)を利用することが多かった。当時は現役バリバリで週に何度も飲めや歌えの接待や宴会続き、前の晩の酔いも醒めないまま「のぞみ5号」に飛び乗ったものの、総務係が取ってくれた指定席がたまたま3人掛けの真ん中でもあろうものなら車内の狭さに息苦しさを感じつつ、かなりの乗客が下車する名古屋までひたすら目を閉じて二日酔いを耐えたものだった。500系と聞くだけでその時感じた圧迫感や突き刺さるような振動( これは二日酔いによる個人的な経験かもしれないが )を思い出してしまい、私にとってはあまり印象がよくないのである。


これまでにも妻と旅行する際には、何度か500系に乗りたいとのリクエストがあったにも関わらず、わざわざ時間を調整してまで「あの」500系に乗ることもないとその要求は即座に却下してきたが、今回は三原駅で1時間半の待ちは発生するものの、妻たっての希望の500系にようやく乗る機会が巡って来たのである。ところがこの日、三原港で「シースピカ」号を下船し、大雨の中を歩いて三原駅にやって来ると、改札前で数組の旅行客が駅員と話している光景が目に入ってきた。どうやら山口県内の豪雨のため、在来線の三原から西に向かう全列車は動いておらず、山陽新幹線も西から来る上り列車のダイヤが大混乱しているらしい。この一年半、東海道・山陽新幹線を利用する際に「線路内立ち入り」「豊橋付近の豪雨」で運転見合わせが2回あって、どうもこの新幹線にはついていないが、梅雨時の旅行とあれば大雨も仕方がない。こういう場面ではなるべく早く来た列車で、原因となる地域から離れるのが良策と考え、500系「こだま854」乗車を諦め、まず最初に三原にやってきた上り旧「ウエストひかり」編成の「こだま852」で岡山に向かい、新大阪発の「ひかり518」の指定券は無駄になるが、乗り継げれば岡山始発の「ひかり516」の自由席で帰京することとした。


妻は落胆の様子を露骨に示しているが、その時点で乗車予定の500系の「こだま854」はまだ線状降水帯の発生している山口県内を大幅に遅れながらこちらに向かっており、この後の天気次第ではいつ三原に到着するかもわからない。私はやって来た旧「ウエストひかり」(レールスター)編成の2+2の快適なシートに内心シメシメと思いつつ、「これは天変地異だからしょうがないよ」「経験的にとにかく来た列車に乗って目的地へ近付いた方が良い、駅員さんもそう言ったじゃないか」と渋る妻を強引に「こだま852」の車内に押し込み、終点の岡山駅で若干遅れ気味の始発「ひかり516」の自由席に乗車したのであった。500系乗車を諦めきれない妻は、その後もJR東海の列車走行位置サイトをスマホでチェックしては、遅れの500系「こだま852」に乗っても、乗り継ぎ時間30分で新大阪から予約していた「ひかり518」の発車も遅れたため、結果としては乗り継げて帰って来られたのにと、いつまでもブツブツと未練がましく呟いている。そのあまりの落ち込みぶりにちょっと気の毒になり、「次は必ず500系に乗車する西日本の『こだま』の旅を企画するから」と、無事に帰京した後もまた夏~秋の山陽新幹線の鉄道旅行プランを考え始めるのである。

2023年7月12日 (水)

SEA SPICA (シースピカ)号 せとうち島たびクルーズ

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SEA SPICA(シースピカ)号

しまなみ海道の大島にある民宿「千年松」で今治の船主さんを中心に、プライベートな集まりを毎年初夏に開いていたことは、2019年6月14日「『千年松』・瀬戸内海国立公園は日本一」でアップしたとおりである。あれから4年、武漢ウイルス騒動で中止になっていた宴会が今年はようやく開かれることになり、先の週末は広島空港からレンタカーを借り「千年松」に行って来た。来島海峡を前に久しぶりに海運界の後輩や若者たちと深夜まで談笑した翌日、せっかくここまで来たのですぐに帰京するには偲びない。よってレンタカーを返却したあとは、三原水道と安芸灘を運航する「シースピカ」号に乗船して、「瀬戸内島たびクルーズ」を楽しんでから帰京することにした。2020年秋から三原港と広島港の間で土日祝日に定期運航される「とびしま海道」観光用のクルーザーに乗船である。


「瀬戸内島たびクルーズ」の、午前中に出る広島発の東行き航海は、呉を経て下蒲刈島の三之瀬(新丸屋港)、大久野島、生口島の瀬戸田港経由で三原まで、午後の便は折り返し三原発西向き航海として、瀬戸田港、大久野島、大崎下島の御手洗港経由で呉、広島まで運航される。東航、西航とも途中の島々で適宜30分~70分ほど上陸して観光することができ、それぞれのクルーズは4時間半ほどの行程となっている。料金は乗船日によって異なるが片道6500円~7500円で、船内で食べる地元の特別弁当(1500円)を別途予約注文することもできる。「シースピカ」は地元の瀬戸内海汽船とJR西日本グループの共同プロジェクトとして建造され、総トン数90トン、速力23ノット、1階に売店・トイレにバリアフリー客席、2階に展望デッキを備えた旅客定員90名の新造船である。先日広島で行われたG7サミットでは、岸田首相や各国の首脳が、この船で広島から宮島まで乗船したことが報道されていた。


我々が「シースピカ」に乗船したのは広島発の東向き航路で、当日の乗客は約30名だった。広島を出ると船は江田島を右に見て南下、呉港では係留される多くの海上自衛艦を間近に、海上からの艦船見学も行われた。生憎の雨模様だったが、船内のマリンガイドは島々の文化や歴史だけでなく、潜水艦のあれこれまで解説してくれ、その詳しいアナウンスに耳を傾けつつ波に揺られるのが楽しい。会社員現役時代には瀬戸内の多くの船主さんたちとの商談で、この地を頻繁に訪れたが、こうして観光ガイドを聞いていると、改めて瀬戸内の歴史や地理について眼から鱗の発見が多々あるものだ。山本五十六がよく利用したという音戸瀬戸の料亭「戸田本館」を臨み、かつて絵本や教科書に頻繁に掲載された音戸大橋をくぐって東に航走すると、ほどなく安芸灘大橋をアンダーパスして下蒲刈島の新丸屋港に到着。


ここでは70分ほどの観光タイムを利用して下蒲刈島の三ノ瀬地区を散策できる。港近くには朝鮮通信使や参勤交代の大名が利用した本陣や旧家などが保存された町並みが広がり、江戸時代、この地区は朝鮮から京都や江戸へ向かう海上交通のメインルートであったことがよくわかる。これまで蒲刈島の船主群は内航船の船主として知られ、外航の大型船所有は、今治や伯方島の船主たちより遅れていたが、歴史的にみれば外航海運に関しても彼らは他地区に比べてなんら遜色のない歴史を有しているのであった。蒲刈島を後に、東邦亜鉛が所有して一般人が上陸できない「瀬戸内の軍艦島」契島(ちぎりじま)近くを航行したのち、大久野島では、野生のウサギにエサをやりながら旧陸軍毒ガス研究所の資料館を見学できる。最後の寄港地、生口島の瀬戸田港を経由して雨にけぶる三原港に入港、「瀬戸内島たびクルーズ」は終了した。「シースピカ」の西向きクルーズは蒲刈島ではなく北前船が利用した大崎下島の御手洗(みたらい)に寄るので、次回は天気の良い季節に復航に是非乗りたいものだと思いつつ、三原港のポンツーン桟橋に降り立った。このクルーズだが、もう一隻就航させ、三原を越して尾道水道から鞆の浦まで延航できれば、より魅力的な船旅になるのではないかと一人夢想している。

整備された下蒲刈島三ノ瀬地区の街並み (三ノ瀬御本陣芸術文化館)
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瀬戸内の軍艦島 契島(ちぎりじま)
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2023年7月 6日 (木)

日本のクルーズ船の魅力・ライブラリー「灯台からの響き」

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クルーズ船に乗って、終日航海日には一体なにをするのか、との質問を時々受ける。船内では各種催しものや稽古事の教室、クイズなどが適宜開催されて退屈する閑はないのだが、日本船に乗船した際には、船の図書室から本を借りてゆっくりと読書を楽しむことも愉しみの一つである。「飛鳥Ⅱ」ならライブラリー、「にっぽん丸」ではeカフェ&ライブラリーには雑誌、文庫本・新書からハードカバーの単行本や全集まで多くの書物が揃っており、ふだん手に取らないジャンルの本でも船上でゆっくりと読むことができる。購入すれば高価だし、読後も置き場に困るためハードカバーの小説などは自宅ではめったに買わないが、船の蔵書なら自室から歩いて数分の所に専用の図書館があるようなものである。この3年は武漢ウイルス感染症騒動により、乗船した日本船のクルーズも2~3泊ばかりだったが、先の「にっぽん丸の横浜/奄美/那覇クルーズ」と「飛んでクルーズ沖縄Aコース」の連続乗船は、6泊とこれまでに比べれば長めとあって、横浜で乗船するなり早速eカフェ&ライブラリーで航海中に読む本を探すことにした。


「飛鳥Ⅱ」のライブラリーには私の好きな宮本輝の14巻になる全集が揃っており、これまでの乗船中にそのほとんどを読破してきたが、さて「にっぽん丸」では何を読もうか。宮本輝の最近の作品は書棚にあるのか、と思いながらライブラリーを物色していると、運よく彼の「灯台からの響き」と云うハードカバー小説本が見つかった。2019年から2020年にかけて地方紙に掲載された連載小説を書籍化したもので、比較的新しい単行本である。宮本輝と云えば、人間の業と愛、時間の経過と癒しなどいうキーワードがすぐに頭に浮かぶのだが、2018年2月2日に「田園発 港行き自転車」でアップしたとおり、「例によってスリル満点とか波乱万丈、最後に大逆転などという劇的な話の展開はない。読んでいるうちにふとうたた寝をして手から本が滑り落ちているが、気がつくとうっちゃておけず、すぐにまた本を手にして読みたくなるような物語」でクルーズ船の生活にはぴったりである。


「灯台からの響き」は都内はずれの商店街でラーメン屋を営んできた実直な主人公と、彼のラーメン造りを助けながら家庭を営んだ妻の話であった。60歳になる前に急逝した妻はいつの日か夫の目に触れるようにと、30年前に彼女がある男性から受け取った灯台が描かれた一枚のハガキを残していた。そのハガキの差出人のことを生前の彼女はまったく知らないと言っていたがその真相は一体いかなるものか、亡き妻の知られざる過去を追って夫は旅に出る。ハガキの謎が明かされるに連れ彼女の人間関係の綾が解きほぐされる宮本輝の面目躍如たるストーリー展開で、その生き様が灯台に対比されて読み手を納得させる筋立てになっている。例によって様々な人々が交錯するなかで、人間の業があぶり出されるが、それに対する年月の持つ重みや、人間性に対する作者の信頼感が文章から紡ぎ出され、読了後は期待したとおり「読んでよかった」と思える宮本輝ワールドであった。デッキチェアに横たわり引き波の音を聞きながら、日常の些事を忘れて船に備え付けの小説の世界に入り込むのも、外国船にはない日本船によるクルーズの魅力の一つである。

2023年7月 1日 (土)

さようなら 最後の日比谷の森 金曜コンサート

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最後の日比谷公園 金曜コンサート 消防庁音楽隊とカラーガーズ

これまで何度もアップしてきた日比谷公園野外小音楽堂で開かれる日比谷の森のコンサート。春・秋の昼休みの時間帯、水曜日には警視庁、金曜日には消防庁の音楽隊によるブラスバンドの演奏会が開かれ、会社員時代にはしばしば足を運んでマーチやクラシック、軽音楽の演奏を楽しんできた。当時、水曜日の昼は週の半ばとあって業務も多く音楽どころではないことが多かったが、金曜日は気持ちも軽くなってよく通ったものだ。サラリーマンにやっと巡ってきた花の金曜日、「TGIF ! あと仕事も半日!」と一人呟きながら、天気が良ければ急ぎ足で日比谷公園に駆けつけたことを思い出す。思えば海外勤務の期間を除いて、サラリーマン現役時代の事務所はたまたま皇居の周辺ばかりだった。いずれのオフィスも日比谷公園へのアクセスが極めて良かったので、食後のひと時、あるいは弁当を持ち込んで日比谷の森のコンサートに向かうことが出来た。


この水曜日と金曜日の両コンサート、2020年春以降は武漢ウイルス感染症対策により永らく開催されてこなかったが、遅まきながらやっとこの春には再開の運びとなった。ただし毎シーズン、水・金それぞれ6回から7回くらいは開催されたコンサートは、なぜかこの春は水曜日が3回、金曜日のコンサートは2回しかなく、残念ながらスケジュールが合わずに一回も行くことができなかった。なので今季の最終回にあたる昨日の金曜日は朝から生憎の雨模様だったものの、消防庁音楽隊の演奏会に出かけることにした。これを逃すと秋までチャンスはないからだ。いまやサラリーマンを卒業し、自営業者として細々とした仕事は専らテレワークで済ませているので、めったに出かけない都心にわざわざ地下鉄料金を払って行ったものである。やって来た日比谷公園の空を見上げれば、時々雨粒がポツポツと落ちる程度で、会場には今季最後とあって多くの聴衆が集まっている。もっとも昨日は昼休みの散歩を楽しむには蒸し暑すぎて、近隣のサラリーマン姿はあまり見られず、シルバーパスを利用してきたと見られるシニアの姿がひと際目立った演奏会であった。


お馴染みの福田純子さんの司会で始まったコンサートだったが、冒頭に彼女から水・金の両コンサートはこの日で今季の最終だけでなく、これが本当の最後であることが告げられてビックリ。聞けば日比谷公園の改修工事のため、近々小音楽堂も取り壊されることになるのだと云う。歴史を振り返れば昭和24年から名称は変われども春秋に936回も継続されてきた金曜コンサートである。まさか今回が最終回とは知らなかったが、そうであればわざわざ駆け付けた甲斐もあったというものだ。子供の頃から通った明治神宮野球場も間もなく取り壊されて新しくなるし、サラリーマン時代によく来た日比谷公園もこうして変わっていくとなると、ますます「昭和は遠くになりにけり」との思いが募る。ふと公園の周囲のビル群を見れば、妻が新入行員時代に通ったメガバンク本店ビルは解体工事中だし、広くてきれいなトイレをよく利用させて貰った「三信ビル」はいまや日比谷ミッドタウンの高層ビルに変貌している。街の様相が次々と変わるのを見るにつけ、自分の現役時代が過ぎ去ったことを実感し、最終回の演奏が一層感慨深いものになった。

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