立山黒部アルペンルート(1)
今回の”びゅう”団体ツアーは総勢25名。シニア男性1人参加が2組、3人の家族連れが1組、残り20名は夫婦らしきシニアカップルが10組である。乗り物に頼るとはいえ、一応立山連峰の中腹まで行って雪面を歩き、上高地は主に徒歩での移動のため、さすがに足許が覚束ないような参加者はいない。装備もほとんどの人が軽登山靴やトレッキングシューズを履き、山用のストック持参者もいて皆一応それらしい恰好であった。私たちは街中で履くウオーキングシューズで参加しており、一同の中では最も軽装の部類だったが、雪上歩行ならきわめて容易に着脱が可能な簡易アイゼンは持参している。また若い頃、上高地から奥穂高岳などに登ったこともあったので、天気さえ良ければ上高地も明神池くらいまでなら町歩きのカジュアルシューズで十分だろうと考えて、重い靴は履かなかった。ただ私のような楽観主義者にもし何か事があれば「そら見たことか、中高年のくせに体力を過信している」とか「山を軽く見た」と云われるから、そこは天気予報などを見て判断する必要がある。幸い今回の旅も天候に恵まれて、結果はこれで十分、改めて簡易アイゼンの効果も確認できた。
団体旅行と云えば、部屋割りの都合や新幹線の席での、運・不運もある。新幹線ではブロックで団体分の指定を受けるので、カップルで参加しても2人掛け席でなく、3人掛けシートの窓側と窮屈な真中に座ることとなり、通路側に1人別の参加者が来る時もある。往路から車中飲むビールによる利尿効果で夫婦2人してトイレが近い時には、この席の配置はちょっと困る。ホテルや旅館の部屋もブロックで割り当てられるため、たまたまエレベーターから遠かったり、同じフロアーでもグレードが低かったり、景色の良くない部屋に案内されたりする不運もままある。しかし今回は最初の宿である立山国際ホテルでは、逆に他の同行者より1段グレードの高い広い部屋に案内されるという幸運に恵まれた。つるつると滑る立山山麓温泉に浸かり、リビングとベッドルームがセパレートされる広い部屋で却って身の置き所に困りつつもぐっすり眠って、翌日の立山黒部アルペンルート旅行に備えることができたのは良かった。その上、この旅行ではアルペンルートに持参する携行品以外の荷物は、ホテルのロビーからルート終点の信濃大町駅前まで運んでくれるサービスがついており、何回もの乗り換えや散策の際に手荷物に患わされることも一切ない。とにかく団体旅行は、集合時間さえ守っていれば自動的に目的地に連れて行ってくれるから、楽な事この上ない。
よく知られているように立山黒部アルペンルートは、富山地鉄の立山駅から(標高475米)まず立山ケーブルカーで美女平(標高977米)に、美女平から立山高原バスで最高地点の室堂(標高2450米)に上る。下りは立山トンネルバス(トロリーバス)で立山の下を縦貫し大観峰(標高2316米)に出て、次はロープウエイで標高1828米の黒部平に、そこから再びケーブルカーに乗って1455米の黒部湖に到着、黒部ダム( かつてはクロヨンダムだったが今は黒部ダムというらしい )を徒歩で亘り、最後はトンネルバス(電気バス)で標高1433米の扇沢に至る37キロあまり、高低差1975米の山岳観光ルート(反対方向のルートも可)である。これに両端の富山駅から立山駅間の富山地方鉄道(34キロ)、扇沢からJR信濃大町駅間の路線バス(18キロ)を加えると全長は89キロとなり、乗車時間だけで正味3時間以上、途中の乗り換え時間や休憩時間を含めると、まる1日近くかかる大規模なシステムである。立山駅から扇沢までは直線にして25キロ足らずなので、観光目的でここに自動車道路を造る計画も当初はあったそうだが、環境保護の為、現在の多くの交通機関を使う方式になったという。もしマイカーでさっさと通り抜けられる形にしたならば、こうまで多くの観光客を集めなかったであろうし、ここで働く人々の雇用も産まなかったであろうから、管理修繕費用はかかるがこの方式は成功に違いない。尚、個人旅行であれば立山黒部アルペンルートの富山~信濃大町間で総運賃1万3820円、中心部分の立山~扇沢間で1万940円である。
多くの観光客でにぎわう室堂に来るとパンフレットで有名な雪の壁、雪の大谷が道路の両側に聳え立っていた。春先は壁は最高20米にもなるが、現在は11米ほどで、これも夏になるに従いもっと融けて低くなるそうだ。ここでは中国語や朝鮮語も聞こえて海外の人たちも多いことがわかる。雪の斜面では、山スキーを楽しむ人たちがスキーを担いで登っていく姿が見える。室堂のバスターミナルを降りた後は、雪道を簡易アイゼンをつけてみくりが池まで散策し、その後は雪上のオープンカフェ「立山ユキテラス」で缶コーヒーで一休み。高度2400米余り、眼前に広がる山の景色をゆったり眺めコーヒーを飲みながら春風に吹かれていると、ここはツエルマットか、という気分になってくる。仰ぎみれば立山の標高2700米にある一の越山荘や、雄山(3003米)山頂の立山神社社務所が稜線にくっきりと姿を現し、にわかに山心が刺激されて、斜面を登りたくなってきた。そういえば若い頃は当時の若者の常で山に憧れたもので、休暇を取って幾つかの名山に挑んだことを思い出した。だがやはりアルピニストへの憧憬だけで山行も終わり、いつしか都会生活に埋もれてしまったのが我が来し方である。そんなことを考えていたら、突如 「♯♫ 朝日にきらめく新雪踏んで、今日も行こうよあの嶺こえて♭♯」 の「 雪山賛歌 」の歌詞が頭に浮かんで来た。海も良いが山も良い!
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