11月23日、勤労感謝の日は晴れの特異日である。気象台の過去の記録を調べ、晴れる確率が最も高かったため決まったとされるラグビーの早慶戦は毎年この日に行われる。それが今年は終日かなり強い雨の降る寒い日となってしまった。私自身、本日開催の第27回東京都シニア健康スポーツフェスティバルのトラック競技にエントリーしていたものの、なにも気温11度の氷雨をついて走ることもないと、東京レガシーハーフマラソンに続きまたもや出場しないことに(DNS)決めた。ことしは試合に2回エントリーをして2回とも出走しなかったことになるが、趣味なので気持ち良く走ってナンボのもの、高齢者が無理をして走ることもあるまいと家でゆっくりとすることに。予定の無くなった日中に新聞を読んでいると、折り込みに入っていた高齢者の交通安全についての警視庁のチラシに目が留まった。
「歩行者の方へ」とするそのチラシの表面には、「ルールを守って安全な横断」として、高齢者が「横断歩道外の横断」「信号無視」「横断禁止場所の横断」で危険な場面に遭遇するイラストが描かれている。たしかに私もジョギングなどの際、これまでクルマが来ない交差点では、赤信号も気にせずに渡っていたが、最近は妻の「赤信号の交差点はなるべく止まって」との助言を聞きいれ、よほど安全について問題ない所以外は信号に従うようになってきた。年齢が上がるに連れて注意力が欠如し、迫ってくるクルマや自転車を見落とすことも多くなるに違いないので、なるべく素直に信号や横断禁止の標識に従おうと思っているところである。チラシの表面を納得しながら眺めつつ、次に裏面の「ドライバーの方へ」とする「都内の高齢ドライバー」の注意を読むと「ン?」と思うようなグラフが載っていた。
「ドライバーの方へ」の面の冒頭には、「都内の高齢ドライバー(第一当事者)による交通事故件数は、10年前と比べ、減少していますが、事故全体に占める割合は増加しています」と「増加」の2文字が赤字太線で強調された文章があり、その下にグラフが記載されている。それを見ると2012年に高齢運転者(第一当事者)が起こした交通事故件数は6,600件だったが、以後は毎年事故件数が漸減しており、2020年度は4,246件、2021年度は4,370件となっていることが分かる。2020年度はコロナ禍で高齢者の外出が少なかったことが事故減の要因に挙げられようが、それにしても2020年度と2021年度に高齢の運転者が起こした事故は10年前の約3分の2となっている。大幅な減少である。
グラフには「事故全体に占める高齢運転者の事故割合」が折れ線で載っており、たしかに高齢者が事故を起こす割合は10年前の13.9%から年々漸増し2019年には18.1%となった後、2020年度は16.6%、2021年度は15.8%で、こちらは10年前よりプラス1.9%とわずかながら増えているのが分かる。ここで疑問が湧くのは、グラフの分母となるべき東京都の高齢者の数ないしは高齢運転者の数はどうなのかという点である。全年齢に対する高齢者による事故割合が増えても、もとになる全人口のなかの高齢者の割合がより増えていれば、この数字はあまり意味がないと云える。そこで東京都ホームページをみると、都内の65歳以上の高齢者は、2012年は270.6万人だったが、今年は312万人とこちらは15%も伸びていることが分かる。内閣府の高齢運転者の交通事故の状況「運転免許保有者構成率の推移」を見ても60歳以上の運転免許保有者は、この10年でかなり増加しているので、高齢運転者による事故割合の若干の増加は団塊世代の高齢化などに伴う高齢者人数そのものの増加と、若者の減少が原因である事が推定される。
つまり都内ではこの10年で高齢者の絶対数は大きく増加したが、高齢運転者による事故件数は大幅に減少している。また社会全体に対する高齢者の割合も増えたが、全交通事故のうち高齢者ドライバーによって起こされた割合はそれほどには増加していない、という2点がこのグラフから読み取れそうだ。交通安全のチラシが我々の注意を喚起する事は大いに評価するのだが、どうやらこのグラフは警視庁の意図するところとやや違う結果を示していると云える。そういえばこの3年に亘る武漢ウイルス騒動も、各行政機関が発表する一次データを読むと、いわゆる専門家が発するコメントやメディアの報道とはかなり様相が異なることを経験した。高齢者の運転に対していま大きく報道されている諸問題も改めて検証する必要があるだろう。
試合もなくなった閑な休みである。この際とばかりいろいろな統計を調べてみると、我が国全体の交通事故件数はこの10年で大きく減り、それに伴い高齢運転者の起こす事故件数そのものも大きく減少している。社会の高齢化により高齢運転者が増えた結果、高齢者が起こす事故の割合は僅かではあるが増えているものの、東京都のデータと同じようにこちらは高齢者人口の伸びよりはるかに少ない。残念ながら死亡事故の点では、75歳以上の高齢者ドライバーが起こす死亡事故件数は、他の年代よりかなり高い(令和元年の免許人口10万人当たり高齢運転者による死亡事故件数の推移(内閣府)では80歳以上9.8件、75歳以上6.9件、75歳未満3.4件)ため、メディアは格好のニュースとばかり「高齢者の重大事故」を騒ぐが、20歳台がおこす事故総数より65歳以上の高齢者の事故件数は少ないのが事実であることもわかった(世界を見える化するサイト)。精神科医で老人医療に携わってきた和田秀樹氏は「高齢者の免許返納などはもっての他」と常々警鐘を鳴らしているが、彼の主張の通り、高齢者の運転そのものが若者よりただちに危険ということはないようだ。ただしひとたび事故を起こせば、死亡事故に至る率だけが他の世代より多いという事実には注目する必要があり、これには安全運転をサポートする運転システムの開発や装着が急務である。
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