西日本鉄道旅(5)阪急電鉄 雅洛
豪華弁当を車中で楽しみ、すっかり満足して定刻18時17分終点岡山駅で「SAKU美SAKU楽」を下車した。あとは18時58分の「のぞみ54号」に乗って帰京するばかりと、岡山駅の新幹線改札口を抜けると何やらコンコースは騒然としている。いつもより若干トーンの高い放送を聞けば、台風15号の影響で静岡県内が豪雨となり、東海道新幹線は浜松から先の運転を取りやめているとのことだ。台風の接近はニュースで知っていたが、中国地方はこの日も薄曇りの行楽日和とあって、天気のことは頭の片隅からすっかり消えていたのでびっくりだ。ホームに上がれば30分前を走る「のぞみ52号」がまだ発車できずにいるし、我々が乗車する「のぞみ54号」の到着時間は未定との放送である。それでも上り列車は行けるところまでは運転をしているようで、大幅な遅れながらとりあえず順番に列車を相生や姫路へと進ませているらしい。
ジタバタしてもしょうがない。これから車中が長くなるであろうから、駅の売店で追加のビールや酎ハイに新聞などを買って待っていると、1時間ほど遅れてようやく博多からの「のぞみ54号」が到着、すぐさま出発することになった。途中の姫路駅では先行の「のぞみ52号」がホームで客扱いをしている際中に「のぞみ54号」が同駅の通過線に停車し、2本の「のぞみ」が途中駅でしばらく並んで止まるというとても珍しい場面も経験した。そうこうするうちに、この日は新大阪から先の東海道新幹線列車は運行を取りやめるとの車内放送が入ってきた。我々クラツーの添乗員の顔が急に引き締まり、あたふたと会社に連絡をとり始めたが、こちらは天下の山陽新幹線、どこか異国の地で交通手段がなくなったわけでもなし、何と言っても添乗員がいるのだからと、まさに大舟に乗った気分で先ほどのアルコールを吞み進める。
さすが天下のクラツーである。暫くして新大阪駅前のホテルAPAを人数分予約できたとの添乗員の報告が車内であった。それも2人で素泊まり7500円というから、駅や車中で一晩過ごすことを考えれば「天国」だ。旅行約款上、これは自費でお願いしますと恐縮する添乗員に「自然災害は仕方ないから」と感謝するばかりだ。添乗員付きの団体旅行は何と楽なことか。初めてのAPAホテルで一夜を過ごした翌朝は台風一過、大阪は気持ちの良い秋晴れであった。添乗員の尽力で15時57分発の「のぞみ234号」の予約が取れたので、それまではゆっくりと関西の休日を過ごすことが可能である。ならば、ここまでテツ分の濃い旅をしてきたのでどうせなら最後までテツを楽しみたいと思いたち、妻と2人でまずは関西民鉄の雄、阪急のターミナル梅田駅に行くことにした。9つの線路に次々とマルーン色の電車が発着する梅田駅の壮観な情景を眺めつつ、さて神戸線に乗ろうか宝塚線に乗ろうか、京都線に乗ろうか迷っていると、ラッキーなことに京都線ホームに話題の快速特急「雅洛」が入線して来るではないか。
「雅洛」は2019年3月から運行を開始した京都線の観光特急である。神戸線の7000系通勤車両の中扉をつぶして2扉車とし、内装や座席を純和風に改装、それも各車両で内装の意匠が違うというまことに凝った編成で、土休日に大阪・梅田と京都・河原町間を4往復している。驚くことにこの列車に乗車するのに普通運賃のみで特別料金や指定料は不要であり、我々のようにどこに向かうか決めていない旅行者も、ふらっとスイカ(関西ではイコカ)やパスモ(ピタパ)で乗車できる。梅田駅で乗車してからも物珍しく車内をあちこち見学するうち、「雅洛」はあっという間に京都・河原町に到着。京都滞在時間はわずか17分、阪急河原町駅から四条通りを東に歩き、とって返して京阪電車の祇園四条駅からエレガントサルーン8000系特急に乗って帰阪した。新幹線乗車までは大阪名物「串カツ」で食事し、台風の結果として2人で7500円プラス私鉄運賃で思わぬ関西の休日を過ごせたことになる。家に帰ってみれば3泊4日で12本の列車(含・自宅から東京駅までの地下鉄)に乗車した「鉄道の旅」プラス鉄道博物館となり、翌日も列車酔いか、まだ体が揺れている感じがしてならなかった。(了)
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