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2016年8月15日 (月)

自滅するアメリカ帝国 

20160815


私は自らを「親米の保守派」と考えており、これまで「日米は価値観を共有する戦略的な互恵関係にある」という常套文句にあまり疑問を持たず、日米安全保障体制を信頼してきた。そんな私であるが、永らくアメリカに住み国際政治を研究してきた伊藤貫氏の「自滅するアメリカ帝国 日本よ、独立せよ」(文春新書2012年3月発行)を読んでいるうちにいささか複雑な気持ちになってきた。


まず伊藤氏は本書でアメリカの建て前と独善的な外交を、かなり辛らつに批評しているが、これを読むと「そんなに嫌いなアメリカに伊藤氏はなぜずっと住んでいるのか」という素朴な疑問にただちに直面した。我が国にも日本の悪口などを散々言いたい放題言いながら、結局日本に滞在するメリットを最大限にエンジョイする姜尚中のような人間がいるが、在米の伊藤氏を我々は普段メディアであまり見たり聞いたりできないだけに、その反米的な立ち位置の背後に何があるのか、もう少し彼の発言を聞いてみたい気はする。


とはいうものの、本書は新書の域を超える力の入った大作で、読み進むにつれ「ウン、なるほど!」と眼からウロコ、ほっぺたをひっぱたかれたような気持ちになる箇所が多い。伊藤氏は世界の歴史の主流を為してきたものは、いくつもの大国による権力の多極化構造(バランス・オブ・パワー)であって、第二次大戦後におきた米ソ冷戦2極化時代はごく特殊な例外であり、ましてやその後に米国が目指した一極覇権の戦略はまったくの夢物語であった事を、様々な学者や識者の考えを紹介しながら説いていく。


氏によると、アメリカは敗戦国である日本をいつまでもアメリカの属国状態にしておく事が、国益に沿ったものと考えており、”親日派”といわれるナイやアーミテージなどが言う「価値観を共有する日米同盟体制」というフレーズこそが彼らの二枚舌の表れだと説く。伊藤氏の言う日本を独立させまいとする米国の本音が果たして本当なのか、はたまた日米の安全保障体制が互恵的なものなのか私は判断できないが、氏の博識と知見、キッシンジャーはじめ様々な人達との交流や、米国在住ならでは体験に基づいた彼の自論の展開には説得力があるようにも読める。


伊藤氏は、我が国は日米安保体制を堅持すれば良いと考える「親米保守」派は、アメリカに押しつけられた憲法を後生大事に護っていれば良いとする「護憲左翼」と同じくらいナイーブな思考停止集団だと怒る。この先、中国の台頭を始めロシアの復活などで、歴史はその常態である多極化構造に戻るのが必至の中で、財政赤字にあえぐ上にベビーブーマー世代が引退するアメリカは、今まで通りの軍事サービスを世界に供給できない事が明白だと彼は力説する。


本書によると経済成長を続ける中国の台頭のほか、ロシア・中国・北朝鮮の核保有国に三方を囲まれている日本は、地政学的にとても厳しいポジションにあり、そういう情勢の下で我が国が生き残る道は、安全保障の多極化(バランス・オブ・パワー)に即応し、同盟国依存を脱却して自己の防衛力を整え、真の独立を果たす事が重要なのだそうだ。なかんずく保有している事が直ちに戦争への抑止力となる核兵器を、少数でもよいから日本が備える事が軍事費の増大なく独立を全うし、米国に依存せず安全保障をなすポイントであると氏は強調する。


北朝鮮がなぜ国際的に注目されるのかを考えると、米国を射程に置く核を準備しているからであり、氏の提案も決して奇抜なものとは思えず、これはこれで充分に検討する価値がある論だと本書を読んで感じた。すでに安部政権はこの本にある如くインドとの絆の強化をはかり、一方ではロシアとの独自な外交を試みており、「日本よ、独立せよ、弱体化する米国の属国に甘んじるのでなく、一極依存体制から脱してバランス・オブ・パワーを目指せ!さもなくば台頭する中国に対抗できない」と説く伊藤氏の声は、すでに現政権によって徐々に体現されているのかもしれないとやや心強く思ったのだった。

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コメント

同業の大先輩と思われる貴殿のブログ、いつも楽しみに、また興味深く拝見させていただいております。

件の伊藤先生、先週土曜日から3週連続でTOKYO MXTVの西部ゼミに出ておられますのでご覧になってはいかがでしょうか。

viviogx-tさん

ブログを読んで頂いた上に、今回はコメントをお寄せ頂きありがとうございました。

伊藤貫氏はあちこちで評判になっているものの、私は今回初めて氏の著書を読んだのですが、ブログでも触れた通り、これから注目していきたいと思っています。

さっそくTOKYO MX TVの土曜日の番組を見る事にします。

お気に召せば、また時々コメントをお寄せ下さい。

viviogx-tさん

TOKYO MX TVで伊藤氏と西部氏の対談をみました。

ワシントンDCに永年住む伊藤氏のコメントは我々が知らない、かつ報道されていない世界の出来事でとても興味深いものでした。氏の人となりも画面から伝わってきたようで、これから注目していきたいと思います。

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