昼食
元の事務所のそばにある町の小さな中華料理屋に、地下鉄に乗って昼飯を一人で食べに行った。場所は銀座のすぐ近くなのだが、あの辺りの古くからの飲食店の中には、食堂の店長がコック兼ビルオーナーと云う店が結構あって、テナント料もなくコスト的にも楽なのだろうか、隣の銀座などより2割くらい安く定食を食べる事ができる。そんな行きつけの普通の中華の味も、数ヶ月食べないと妙に恋しくなってきて、昼休みに現在勤務している会社からわざわざ出かけてみたのである。
そう云えば、これまでも会社の合併や出向などで勤務地が幾度か変わった事があるが、引っ越して少しするとやはり懐かしい味に合いたくてなって、昼休みにタクシーや地下鉄で元の勤務場所近くの定食屋などに時々行ったものである。800円くらいの何と云う事のない昼食に、片道700円ものタクシー代をかけるのもバカバカしいと思いつつ、つい行ってしまうのは、気にいった味覚というものが、脳の奥深い本能的な箇所に記憶されるのだろうか?
今回、そうして数ヶ月ぶりに訪れた大衆中華店は、味もそこそこだが店の名物おばちゃんの威勢の良い呼び込みと彼女の客あしらいのうまさに、多くのファンがいる様だ。「 最近来なかったね~、待ってたんだよ 」などと、そのおばちゃんに言われると、また近々来て見ようかという気になるもので、彼女の「あら、久しぶり!」のだみ声が聞きたくて店の暖簾をくぐったのだった。と、狭い店内に一歩足を踏み入れると、見知らぬパートのおばちゃんが忙しそうにサービスして店を取り仕切っている。びっくりして「前のおかあさんはどうしたの?」と聞くと、「あの人は2月から来ないんです」と答えそれ以上は何も言わない。こちらもそれほど親しい訳ではなかったので、体でも悪くしたのかなあ、などと思いつつそれ以上は聞く事をためらっていた。
久しぶりの焼きそばの味を堪能して、料金を払うために厨房の方に行くと、以前ちよっと顔見知りだった、厨房手伝いの別のおばちゃんとばったり顔があって、「あら、久しぶり、あのおばさんは歳なので、店からは引退して家でゆっくりしているのよ」と教えてくれる。どうやらさっきの会話を耳の端で聞いていたのかもしれないが、結構「あら、あの人はどうしたの?」と云うおばちゃんファンも多いのだろう。本当にちょっと来ない間に、人が代わっていたりするのは寂しいものだが、元気で自宅で悠々なら、まあ良かった良かったと云うもので、楊枝をシーハーさせながら店を出て地下鉄で会社に帰ったのだった。
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