運輸安全委員会
国交省・運輸安全委員会のホームページに発表される鉄道・船舶・航空の事故調査報告を時々読んでいる。人間の作った交通システムにはどういう欠陥があり、いかなる経緯をたどって事故に至るのか、巨大システムに内包する諸問題を考えるヒントになるので、この事故報告書は興味深い。
2009年2月27日早朝起きた近鉄大阪線・青山駅構内での下り電車の脱線事故などは、インフラの欠陥+うっかり事故の典型の様だ。この事故は東青山駅構内にある作業用車両を留置する側線に、早朝の一番電車が60キロほどのスピードで突っ込み、鉄製電柱をなぎ倒して2両編成の電車が脱線したものである。事故の原因は、夜間に電気工事を行った作業用車両を、本線から側線に引き込む際に使われる横取材と呼ばれる一種のカバーを、作業後も本線に設置したまま一番列車を運転させてしまった事によると云う。そのカバーに一番列車が乗り上げて、開通していないポイントの方向に電車が突っ込んで乗客2名が負傷している。
横取材とは線路のポイント部分に上からかぶせて、ポイントを変えずとも側線から本線に簡単に作業車両を出し入れするアダプターの様なもので、作業車両を側線に戻した後は、複数の作業員によって何箇所かのアダプターを撤去する必要があるそうだ。当夜は通常のルーティーンに加え、作業車両を入れ替えるという他の業務が加わった為、一箇所残ったこの横取材を一番近くに居た作業員が撤去せずに次作業に移ったものの、他の作業員は彼が撤去したと思い込んだのが事故の主因と報告書にある。さらに一番電車の前に安全を確認すべき駅の助役が、この横取材が撤去されている事を目視する必要があるものを、他の箇所の横取材が安全に撤去されていたので、すべて大丈夫だろうと思い込み、残ったものを見逃して列車を運行させたミスが重なった。
この事故の根本原因としては、横取材などの通常は線路にないものが設置された時は、信号がいかなる時も停止を示す様にフェールセーフのインフラを構築するべきであったが、現実はそうなっていない事であろう。幾つかのこのアダプターを結線して、線路に流れる電流が絶縁されるなど赤信号を表示させる事は技術的に難しいのだろうか、或いは実際の運用面で、その様なシステムの設置は簡単ではないだろうか。いずれにしても、こうしたハード面での問題が背景にあり、他作業が加わった際の作業手順が不備であった事が重なり、そして思い込みによる確認の不徹底がさらに生じて事故を招いた訳である。巨大システム事故は、それぞれ別個で生じる単独のミスが、たまたま一直線に連なり、破滅の方向にモメンタムが働く時に起こると云われる。これら事故例を勉強すると、日常のオフィスでの作業やプロジェクト構築などの際にも、ミスの連鎖から起きる重大な事故や過誤を防ぐには何が大切なのか、考えるヒントになると思うのである。
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