ハイケンスのセレナーデ
先にアップした通り、最近のJRでは乗客の案内にいろいろなチャイムを多用していて、列車車内だけでなく、各駅で違う案内メロディーが流れてくる。高田の馬場駅では駅の近所に住んでいた手塚治虫氏を偲んで「鉄腕アトム」の発車メロディーのチャイムだし、東京ドーム最寄の水道橋駅は、巨人軍の応援歌「闘魂こめて」が流れてくる。国鉄時代の発車ベルが、こういうチャイムになった当初は少し違和感もあったのだが、今ではあるメロディを聞くとそれが使われている駅を連想する程になるから、慣れというのは恐ろしい。
そんな中、昼間の列車に永らく使われた鉄道唱歌に続き、ほとんどの寝台特急で国鉄時代から変わらずに流されている定番の車内放送チャイムがこれである。
ブルートレインの寝台列車が始発駅を発車してまもなく、流れ行く黄昏の都会のネオンサインを横目に旅の序章を感じていると、このチャイムと共に途中停車駅の案内などが聞こえてくる。また翌朝ボーっとした頭でうとうとしていると、「おはようございます、列車は定時に運転されています、あと十分で○○駅です。」などと云う時にもかかるお馴染みのメロディーだ。
少なくとも20年以上前から寝台特急と云えばこのチャイムだったので、私はこれは寝台列車用のオリジナルメロディーだと思っていたのだが、ある時ネットでなにやら駅のチャイムなど検索していた妻が、突然「このチャイムはハイケンスのセレナーデのエンディングのなんだ!?」と叫びだした。「う、ん?」と振り返りパソコンから流れてくるメロディーを聞いてみると、たしかにあの寝台列車チャイムに間違いない。この曲ならピアノの教本にも載っていて、子供の頃に自分も習った事もあるのだが、寝台列車のチャイムは、余りに見事に原曲のエンディングの部分だけ切り取られているので、今までそれと気がつかなかったわけである。
さてハイケンスと云うオランダ人の作曲家は、第二次大戦中にドイツで仕事をしたナチスの協力者だったそうで、終戦後連合国に逮捕され獄中で自死したと云う数奇な運命を辿った作曲家らしい。そしてこのセレナーデはわが国では、戦争中の昭和18年1月から毎月2回放送された「前線へ送る夕」のテーマ曲としてNHKラジオ放送から流れていた因縁のある名曲だったと云う。この曲が戦後なぜ寝台特急のチャイムになったのかは不明なのだが、中国戦線などで戦う兵士に音楽や落語、バラエティーなど祖国の音声を送った際にも使われた、懐かしくやさしいメロディーゆえに、旅愁を慰めるにぴったりだと思われて旧国鉄の寝台列車で採用されたのだろうか。
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