条件反射
渋谷駅の駅ビルの一画、バスターミナルに面して、かつて公衆トイレがあった。そこは人通りが絶えぬ場所で、トイレを利用する人も多く、ただでさえ汚いトイレは始終、悪臭を放っていた。私も、若い頃は渋谷駅で乗り換えていたのだが、当時は深夜まで鯨飲する事が多く、随分とここのトイレにはお世話になった。深夜ともなれば、汚いトイレは酔っ払いの使用で一層臭くなり、用を済ませるやいなや最終電車の時間を気にして脱兎の如くホームに走ったものである。
ところが、数年前久しぶりに渋谷駅で下車して、そのトイレの前を通ると、なにやら様子がまったく変わっている。人目から隠れる様にして設置されていたトイレの場所は、明るくモダンなライトで照らされ、お菓子を売るスタンドになっている。そして店の前は、なんと女の子達が列をなしてお菓子の注文待ちしているではないか。酔っ払いのおじさん達がアルコールを大量摂取して、用事を足す順番を作ったのが、いまや若い子の注文待ちの列になってしまった。思わず絶句し「ここは汚いトイレの場所だったのに~。何と云う変わり方」と順番待ちのうら若き女の子達に聞こえぬ様にひとりごちてしまった。
若い女の子たちは、その場所がかつて汚いトイレなどと言うこと等つゆ知らず、嬉々として順番を待っている様だが、おじさんたちはあの場所を通ればトイレと、どうも条件反射の思考回路が出来ていて、いくらそのお店のお菓子が評判になっても、どうも立ち寄る気にはならない。そういえば、先日中学の友達で集まったら、女性陣も 「そうそう、あのトイレの場所で、今甘いもの売ってるのよねー。でもどうしてもトイレ思い出しちゃうよね~ 」と言うので、刻み込まれた思考回路は男女同じ様である。それにしても、食べ物やを開業する際は、そこが以前は何の場所だったかは調べてから開業した方が良さそうだ。幸い若者向きのお店だからここはわからなくて良い様なものの、これがおじさん相手の飲食店だったら、かつてを知っている人はきっと足が遠のくに違いない。

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