バカ丁寧化する日本語
最近グルメ情報番組などで 「 この地方の名物料理をいただく 」 とレポーターがしゃべっていたり、料理番組で 「 この料理は充分温めてからいただく 」 と 「 いただく 」 が多用されているのを聞くにつけ、私は 「 いただく 」 という言い回しに違和感を感じていた。本来 「 食べる 」 とか 「 食する 」 と言う場面なのに 「 いただく 」 と言う表現が使われているのを聞くと、これは子供にお小遣い等を 「 やる 」 と言わねばならない処を 「 上げる 」 と言うのと同じで、間違った表現ではないかと感じるのである。
そんな訳で 「 バカ丁寧化する日本語 」 光文社新書の8月新刊が、店頭にあるのを早速購読して読んでみた。著者の野口恵子氏は仏語のエクスパート、外国人に日本語を教えている大学の先生との事である。この本によると 「 いただく 」 は 「 ありがたくもらう 」 「 感謝して食べる 」 「 礼を言って飲む 」 「 大切なものをうやうやしくささげもつ 」時に使う言葉だそうである。とすると、テレビのレポーターが画面の向こうの一般視聴者に向かって、単に料理を紹介する場面で 「こうして食べる 」 でなく 「 こうしていただく 」 と言ったり、調理番組で作り手がテレビカメラに向かって料理を 「 召し上がって 」 でなく 「 いただいて」 と言うのは、やはり謙譲語としておかしな表現ではないかと認識した次第だ。
著者は、最近の日本語は必要以上に丁寧な使い方になって 「 させていただく 」 的な表現が多すぎるとしている。その結果、尊敬語や謙譲語の使い方に不統一が生じる混乱が良く見られるし、相手と距離を置く意思の表れがあちこちで感じられると云う。また言葉だけ丁寧になって、実際は却って慇懃無礼なケースが見られる事が多いとも氏は指摘している。ではこの様な誤用・混乱を防ぐにはどうしたら良いか、ずばり 「 敬語を使いすぎないことだ 」 と氏は指摘する。バスの車内で 「車 内では高額紙幣(五千円、一万円)は、ご両替できません 」と言うおかしな”お知らせ”は、「 バスの車内では五千円札と一万円の両替はできません 」 と簡潔に表現する方が良いそうだ。
本書最後のテストでは、朝一番の食品市場の試食で、観光客に市場のおばさんが 1.どうぞよろしかったら召し上がって下さい 2.おいしいですよ、食べてって下さい 3 ほれ、うめえから、食ってけ と声をかけているが敬語はどれが正しいかと問うている。その答えは「どれも正しい」のだそうだ。周囲の状況に気を配り会話相手と自分の関係を良く考え、コミュニケーションをとる事を心がければ、場面に応じておのずと適切な敬語が身に付くと著者は論を展開している。
それにしても、敬語や謙譲語を優雅に話すのは、いやはや難しいものである。きれいな言葉を話す年配の婦人などを見ると、その一角だけ涼やかな空気が漂っている感じがする。
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