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2008年8月10日 (日)

夏の日と音楽

今日は、雲がかかり夏の陽射しも一休みだが、大都市特有の肌にまとわりつく様な夏の暑い日は、クーラーの効いた部屋で過ごしていたい。

まったり過ごすそんな夏の休日の音楽と言うと、ヘンデルの「水上の音楽」などが頭に浮かんでくるが、私はモーツアルトのホルン協奏曲全4曲を良く聴く。

昭和53年の春から夏にかけて、私は研修でカリブ海の航路の貨物船に事務員として乗船していた。パナマ運河を越えてカリブ海に入ると、プエルトリコやキュラソーなどの島々に立ち寄り、日本から輸送した電気製品や鋼材などを揚げ荷して行く。ベネズエラのオリノコ川で最後の荷物を降ろすと、帰りは米国・フロリダのタンパに寄港し日本向けの肥料を積みとった。

研修といえども所詮員数外、船内ではアプさん(アプレンティス=見習い航海士)などと呼ばれていたが、狭い船内での大方の体験実習はタンパに着いた頃にはすでに終了していて、タンパから帰り長駆日本までの1ヶ月あまりは大いに無聊をかこつ事が予想された。その対策としてタンパに上陸の日、レコード屋で片っ端から30本ほどのクラシックのカセットを買い込み1日1本づつ封切りして、自室に持ち込んだラジカセで長い航海を楽しもうと考えた。タンパのレコード屋のセールスで籠に入って売られていたカセットは1本3~4ドルで当時は為替が1ドル300円位だったろうか。パナマ運河を越えて大西洋では遠隔地と言う事で航海日当も高くもらえたから、あまり躊躇せずカバン一杯に音楽カセットを買って本船に持ち帰った事を思い出す。

そんな中の一本にモーツアルトのホルン協奏曲があった。帰りのパナマ運河を越えて太平洋に乗り出した頃だったろうか、南の海特有の深い水の色、まるで海面に油を流した様な粘る様に見える海で、この曲のカセットを開いた。カリブの島のあれこれを追想し、また日本と言う「しゃば」に戻る嬉しさと会社勤めに戻る憂鬱な心境がおり混ざった複雑な心境であったが、そんな中でホルンの伸びやかな響き、モーツアルトの明るい旋律が心をとても和ませてくれた。

夕食前のひと時、海上の太陽はまだ高く、あたり一面水平線の彼方まで視界をさえぎる物が一切ない太平洋の初夏、デッキのドラム缶にビールを置き、通風口のブロア音とともにラジカセから流れるゆったりしたホルン協奏曲を聞くと、それは彼方から寄せるうねりとあたかも調和している様で、うっとりとさえする感じであった。それ以来夏の日がくるとこの協奏曲をまた今年も聞こう、と思い出すのだ。

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