カテゴリー「船・船旅」の記事

2020年9月19日 (土)

飛鳥Ⅱクルーズ再開

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アムステルダムの飛鳥Ⅱ 2018年5月世界一周クルーズにて

ヨーロッパでは限定的ながらクルーズ船の運航も始まる中、日本船はどうなるのか注目していたところ、にっぽん丸が10月25日から愛媛・新居浜を発着とする2泊3日のクルーズを行うことになり、飛鳥Ⅱもようやく11月2日から営業を再開すると発表した。殊に飛鳥Ⅱについては、乗船を予定していた今年のワールド・クルーズがほぼそのまま来年に延期になったため、その去就に注目していたところだが、まずはクルーズを再開するというニュースが聞けて嬉しい限りだ。飛鳥Ⅱは、郵船クルーズの持つたった一隻のクルーズ船で、かなり老朽化した船体をリニューアル工事で延命使用してきた船である。今後の事業展開について親会社の日本郵船が悩んでいたとの話があちこちから聞こえていたので、これを契機にクルーズはやめた、となるのではと危惧していたが、ちょっと一安心である。


発表された営業スケジュールは11月2日横浜発の3泊4日清水寄港の「30周年オープニングクルーズ」を皮切りに、横浜・神戸起点の2泊~3泊のショートクルーズと、12月後半以降のクリスマス・年末クルーズなどである。何となくおっかなびっくり、まずは何かあってもコントロール可能な範囲と日数でクルーズを再開しようという意図のようだが、これもあのダイヤモンドプリンセスの大騒動をみるとやむをえない措置といえよう。しかも今回発表されたクルーズは、7デッキのK.Fステートルームをクルー個室のために使用するため、客室としてはE.DバルコニーとC.A.Sのスイートルームのみの販売で、最大でも定員の半分の400名の乗客募集である。外国船に比べれば高値の日本船のなかでも飛鳥Ⅱは高く、特に今年初めの改装後には一段と値上げをしていた中において、今後しばらくは最も高価なバルコニー付きキャビンしか販売しないことになる。ウイルスが怖くて出歩かない高齢者も多いから、こうなるとどの程度の人たちが乗客として戻ってくるのだろうか。


クルーズ再開にあたり発表された感染症予防対策は、乗船前の唾液によるウイルス検査に始まり、舷門や船内での検温、船内でのマスク着用・アルコール消毒などの他、ビュフェの中止、ダンスやセイルアウェイパーティなどイベントの中止、その他ディナーやショー観覧は指定席とするなど広範囲に亘る。パブリックスペースやバーも一部立ち入りや入場人数制限が実施されるようで、そもそも定員の半分の船内で一体どのような雰囲気になるのだろうか。朝のリドのビュフェで好きなものをとりわけ、ゆったりと一日のスケジュールに思いを巡らしたり、知人と予定を確認しあったりの会話なども制限されるのだろうか。また船内でマスクを着用するのも鬱陶しく、ダンスもできないとはクルーズの楽しみが削がれるし、ディナーで新しい友人ができる機会も少なくなるだろう。なかには自粛警察のような乗客もいるかもしれず、当面何かと不便な船内生活になるであろう。


などとも思うが、もうSTAY HOMEも飽きた。クルーズ料金もGoToトラベルの対象になるというので、早速11月2日「30周年オープニングクルーズ」を申し込むことにした。船上から見る流れゆく雲のさまや、さまざまに変化する海の色、海上に伸びる本船の引き波などを久しぶりに眺めることができるかと考えると、矢も楯もたまらなくなったのである。3泊4日のこのクルーズは西口総料理長のアニバーサリーディナーにゲストは歌手の麻倉未稀、寄港地は清水となっている。清水港はもう幾度も行ったので、今度は清水駅から東海道線で金谷まで行き、大井川鉄道のSLの旅でも楽しむか、と予約後は時刻表をあれやこれや繰り、すでに旅が始まった気分だ。これまで毎週習ってきたダンスができないのは残念だが、その分ゆったりとした船上生活が期待できそうだし、先般のドックでフルにきれいにしたデッキ回りをチェックしたり、改装後の露店風呂に早く飛び込んでみたりと1年ぶりの船上を楽しみたい。早く予約確定の返事がこないものか。

 

2020年8月22日 (土)

WAKASHIO の座礁油濁事故を考察する(続)

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モーリシャス島・ポートルイス港のタグボート 孤島なので今回のサルベージもこのクラスのタグか
(2011年飛鳥Ⅱのワールドクルーズで撮影)

モーリシャス島で起きたWAKASHIO号の座礁・油濁汚染事故について、船主たる岡山の長鋪汽船と用船者(=運航者)たる商船三井の用船(チャーター)契約について責任関係が如何になるかの関心が高いようだ。そこで長鋪汽船のような瀬戸内の船主の歴史的な背景と、用船契約における船主責任に関して今一度以下の様に纏めてみた。

1)瀬戸内船主の歴史
陸上の街道が整備される以前の上代より、人や物資の行き来は船を使って行われるのが主流であった。例えば中国大陸や朝鮮半島から日本の中心部だった畿内にやって来るために、九州の沿岸に着いた船は、風力の他にまず関門海峡の強い潮に乗って瀬戸内海まで進んだと考えられる。その後、来島海峡の上下げ潮の急流で船足を進め、芸予諸島などの島や港で風待ち、潮待ち後、今度は明石海峡の潮汐を利用して、京や奈良に近い畿内の津にたどり着いたことだろう。当時は海上の航路がもっとも早くて便利な大陸との物流ルートであったはずだ。瀬戸内海の沿岸や点在する島々に住む人たちは、舟の所有者として海上運送の仕事に携わったが、時には平家や源氏など権力者の水軍になり、時には海の難所のパイロット、はたまた海賊となって付近を航行する船から通行税を巻き上げるなど、海をベースに様々な仕事を営んできた。明治以降彼らは機帆船の船主として物流に直接携わるようになり、そのうちの有力な業者が戦後の高度成長期を迎え外航船の分野に進出することになる。このような事例はわが国にとどまらずヨーロッパでも見られ、バイキングの末裔たるノルウェーや北ドイツの船主、あるいは地中海物流を基盤としたギリシャ船主などがその典型である。

2)船主業の発展 
これら外航海運に進出した瀬戸内の業者の多くは、地方銀行など地場の金融機関の融資をもとに外航船を地元の造船所で建造し船主業を営むようになった。WAKASHIO号の所有者、長鋪汽船もその一社であろう。船主は、荷主と契約して輸送運賃を収受する日本郵船や商船三井のような海運運航業者にはならず、これら大手に船をチャーター・アウト(=用船に出す)して定期的にチャター料(用船料)をもらう船主専業者となった。なぜ運航会社ではなく船主業に特化したのかという理由は、運航会社(=用船者)は荷主から受け取る海上輸送運賃が荷物を積んだ後に受領する一方で、現金決済が必要な高額な燃料費(=バンカーと呼ばれる燃料代)や入港した港で払うタグ代やパイロット料金、岸壁使用料、税金などの港費を航海前に現金先払いするので手元に潤沢なキャッシュが必要なこと、運航会社は世界中の航路や拠点を維持する要員や代理店網が必要であり通常数隻しか所有していない船主では対応できないこと、船主は地場の造船所や金融機関など地方の海運クラスターを基盤として事業展開しており、東京や大阪に拠点を置く荷主とは疎遠であった事、かつては船主の信用力が無かった事、定期用船の用船料はスポットの輸送運賃より相場が安定的だったことなどがあげられる。なお日本郵船や商船三井のような運航業者は、オフバランスの観点から船主から借りてきた用船が増えているが、一部自社船も保有し船主業も兼ねている。

3)船主負担費用
このように船舶を所有する事と運航する事は、今では別の事業分野に分かれるケースが多くなったが、その費用負担はどうなるか。船主はまず金融機関の融資を受けて造船所で船を造り、用船料を原資にそのローンの返済を行う。船員を手配し船員費を支払いながら係船ロープやエンジンなどの部品・備品のほか潤滑油の補充を行い、本船の故障箇所の修理や必要なドックの手配を行って常に本船を航海に堪える状態に保持する。また衝突事故や座礁、船舶火災に対応する東京海上火災などの海上保険会社に船体保険を付保し、今回の油濁事故のような第三者への損害賠償のために船主相互責任保険クラブ(Protection and Indemunity Club = PI Club)の保険に加入して保険料を支払う。また安全運航や環境汚染に関する国際ルールの遵守も船主が求められる。これらを総じて堪航性を保持する業務と云い、航海に際して湛航性を担保するのが船主の責務である。

4)用船者(=運航者)負担
こうして稼働状態になった本船を借り受け船主に定期的に用船料(チャーター料)を払いつつ、荷主と輸送契約をし貨物を運び運賃を貰うのが商船三井のような用船者(=運航者)である。用船者は指定した港へ配船し、自らの費用と責任(あるいは荷主の責任)で荷物の積みおろしを行なう。世界中のどこへ、いつ配船するかは用船者の任意であるから、航海に必要なバンカーオイルの手配やその費用、入港した港の港費は用船者負担となる。船主負担と用船者負担の分担は、「船を常に稼働させるための費用は船主負担」であるのに対し「航路や積み荷など用船者の要求で変動する費用については用船者負担」が原則である。なお船が事故や故障で不稼働になると、オフ・ハイヤーとなって用船料は不稼働の期間について支払われない。

5)航路選定や事故の責任
用船者は任意に彼らの指定の荷物を指定の量を積み、指定した港に指示したスピードで向かえと船長に指示書を出す立場である。ここで用船者には、指定の港および航海海域は紛争地域でないなど安全な場所に配船する事が求められる絶対条件となる。このような役割分担・費用分担を定めたチャーター方式(用船方式)を定期用船契約(英語ではTIME CHARTER)と呼び、広く世界で普及している船舶の貸し借り形態となっている。それでは今回のような海難事故や油濁事故は誰の責任になるであろうか。海事に関わる事件を裁くのは今も世界的に英法が準拠法となっており、英法は周知のように成文法でなく判例主義なので、定期用船下でのトラブルについては膨大な議論がこれまで尽くされてきた。しかし事故の最終責任者は船長の雇人たる船長にあるという原則から、安全海域である限り事故や航路選定に関わる事項は、定期用船契約下で船長(船主)に帰するという結論が明確になっている。船外に流出したバンカーオイルも用船者の資産であろうと、その管理に対するすべての責任は船長にある。この点について定期用船契約に使用されるNEW YORK海運集会所発行の標準様式(NYPE FORM1981版)には次の様に記されている。

Nothing herein stated is to be construed as a demise of the vessel to the Time Charterers. The Owners shall remain responsible for the navigation of the vessel, acts of pilots and tug boats, insurance, crew, and all other similar matters, same as when trading for their own account. 訳;本様式の記載事項は用船者への責任移転とは解されない。船主は本船の運航、タグボートやパイロット『が例え用船者手配であっても』の行為、保険手配や乗り組み員、その他同様の事項に船主自身が航海したものと同じ責任を負うものとする。(注:『』内は筆者加筆)

この項目はDEMISE条項と呼ばれ用船契約の責任事項に関して述べたもので、これによって海難・油濁事故の責任は用船者の指示の下の航海でも用船者たる商船三井ではなく船主・長鋪汽船にあることが明確なのである。なお本船は再用船として、例えば長鋪汽船ー商船三井のスキームから川崎汽船など他運航者に再び定期用船に出される(長鋪汽船→商船三井→川崎汽船=運航会社として荷主と輸送契約)こともしばしばあるが、その際でも事故の責任は船主である長鋪汽船である。道義的・社会的責任は別として法的には船主の責任は重いのである。

追記;ファンネルマークや船体のロゴは定期用船契約上、用船者(=運航会社)が任意に書き換える事ができる。WAKASHIO号のファンネルもオレンジ色の商船三井カラーであるが、これによって輸送責任や事故責任の重さが変わるなどの法的効力は一切ない。

長鋪汽船と商船三井間で締結されたであろう定期用船契約標準様式のサンプル

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2020年8月14日 (金)

WAKASHIOの座礁油濁事故を考察する

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オレンジファンネルの商船三井のバルカー

前立腺摘出手術のため7泊8日の入院をしていた。ダビンチによるロボット手術なのだが、かつての開腹による前立腺手術より入院期間が大幅に短縮されているそうで、1週間で無事に社会に戻ってくることができた。この辺りのことはいずれ落ち着いたら書いておこうと思う。その病室でテレビを見ていたら商船三井が『運航』するケープサイズバルカーM/V"WAKASHIO"がモーリシャス島で座礁して重大な油濁事故を起こしているとニュースが流れてきた。WAKASHIOは2007年に日本の造船所で竣工した重量トン(積載量)20万トン級の大型バラ積み船で、中国で揚げ荷をした後、次航の鉄鉱石積み地ブラジルのツバラオに向けてシンガポール経由インド洋をバラスト航海(空船航海)中の事故であったと報道されている。


ニュースによるとインド人船長のほかフィリピン人などが乗り組む本船は、マラッカ海峡を抜け喜望峰に向かう航海中の7月26日午後7時半頃(現地時間)に、モーリシャス島の東南ポワントデスニー(Pointe d'Esny)沖約0.9マイル(1670米)、ラムサール条約に登録された風光明媚な海岸で座礁したとされている。グーグルアースで確認すればすぐわかる通り、モーリシャス島はマラッカ海峡から喜望峰に向かうルートの上に当たっているが、海上保険の業界紙サイトによれば、本船は通常の航路よりモーリシャス島の陸地に近いところを航海していたという。このためモーリシャスのCOAST GUARD(沿岸警備隊または国によっては海上保安庁の役目を負う)より1時間前に亘って警告が為されているものの、船長は「問題なし」と答えコースを変えずに座礁したと同サイトは伝える。


船舶の座礁事故の場合は、ふつう潮が満ちるのを待ち(必要ならばタグボートなどを使って)離礁を試みるのでモーリシャスの潮汐表をチェックしてみた。すると座礁した7月26日は同島では17時35分が満潮であり、本船が座礁した19時半はまだかなり潮が高い状態だったことが分かる。残念ながらこの頃は、日々潮位が低くなっていく時期で、潮が高い中で座礁した本船の引き出し作業は、以後時間の経過とともに難しくなっていった事が想像できる。また潮汐表によると8月初めの満月で干満の差が大きくなり、引き潮時の潮位が低くなっていることもわかる。こういう時期にエンジンや燃料タンクがあり喫水が深い船尾部がサンゴ礁に深く食い込み動けなくなり、空船の船首部は滿ちる汐の浮力によって上向きに力が働いたと考えられる。船体の前部だけにかかる浮力に長さ300米の船体が耐え切れず亀裂が生じ、とうとう8月6日になって重油が流れ出したものとみられる。


それにしてもCOAST GUARDの警告にも関わらず、なぜ船長は沖に変針しなかったのかが大きな疑問点として残る。南緯20度近辺のモーリシャス島におけるこの季節の夜7時半なら、周囲は暗闇ではなかったはずだ。ましてや悪天候でない限り、右舷前方には町の灯やすぐ近く空港の光も視認できたと思われ、なぜ陸地に近いそのような海岸べりを本船が通過しようとしたのかが争点になるに違いない。私は当初このニュースを聞いた時に電子海図(ECDIS)の故障ではないかと思い、そういう不測の事態に対して外国人船員は天測や沿岸航海で船位を測定する訓練が十分でないことが事故の主因ではないかと思った。しかし続報によると当夜は乗り組員の誕生パーティが行われ、Wi-Fi(厳密にはLTEのことだと思われる)の繋がる沿岸の直近を狙って船長は走ったのでは、との疑いが出てきたそうだ。島影のない広いインド洋は一般乗組員がネットや電話に繋がる機会が少ないので、モーリシャス島接近をこれ幸いばかり、町の近くを航行したことも十分考えられよう。そうだとすれば何とも現代的な事故だといえる。


さて"WAKASHIO"は岡山県笠岡市にある長鋪汽船が実質的な船主である。江戸時代は瀬戸内の帆船、明治以降は内航機帆船で活躍し、今はもっぱら船主業専業者になっている長い歴史ある会社だ。船主業とは自らが資金を調達して本船を建造し、竣工後に船員の配乗や機器の保守点検、ドック手配その他本船が貨物船として機能を保持するために一切の整備手配(これを堪航性を保持すると云う)を行う業務である。今回の事故で巨額になるであろう油濁補償に対応するPI保険(船主相互責任保険)の付保や船体保険契約も船主である長鋪汽船の仕事であり、最後に船を売ったりスクラップにして帳尻を合わせるのも船主の専任事項となっている。この事故の責任は船主である長鋪汽船(またはそのダミー会社)にあるのだが、それは事故の最終的責任を負う船長が、船主の雇人であるという事実に由来する。


一方で商船三井は一定期間チャーター料(用船料)を払ってこの船を借り受け、荷主から預かった荷物を運送するだけで、同社が『法的』に責任を負うのは、荷主や積み荷に対しての部分のみである。空船で回航中のこの事故に於いては、商船三井の責任は次にブラジルから鉄鉱石を輸送予定だった荷主との関連のみに限定される。この仕組みを定期用船契約と云い、今回のような海難・油濁事故の責任は商船三井のような借主(用船者、運航者とかオペレーターと云われる)にはない。この責任分担は、長い間、世界中の裁判所や仲裁所で論争が行われた末に確立された明確なルールなのだが、事件を報じる我が国のメディアはこの辺りをよく分かっていないようで、商船三井にも事故の責任があるかの論調が散見されるのはおかしい。


もっともここ数年、商船三井が絡んだ事故はコンテナ船が折れたり、自動車船がひっくり返ったり、客船が飲酒操船で岸壁を派手に壊したりと、メディアが注目する大きな案件が多い。WAKASHIOのように船主から長期用船した船だけではなく、実質的に自社や子会社で管理している船舶の事故も多いと私は感じるのだが、こういった事故がおきるのは何らかの根本的な問題が同社に内在しているのかと訝しく思う。前述のように定期用船契約で借りた船の堪航性保持義務や海難事故の責任は、もっぱら船主に帰属するのが法的な建てつけとはいえ、商船三井もその船を使って荷主や乗客から運賃を収受するのだから、海上輸送業務で対顧客という点では事故に対する責任は残る。また上場会社として社会への説明責任や環境保護に対する責任もある。増加する運航船舶数(フリート)の下、同社にはもう一度安全管理体制や船主との関係を見直すことを求めたい。病院のベッドで商船三井のシンボルカラーであるオレンジ色ファンネルをつけたWAKASHIOの姿をテレビで眺めながら、そんなことを考えた。

2020年4月20日 (月)

ピースボ-ト・世界一周クルーズで2回目はタダ?

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一度ピースボートの運営サイトをクリックしたら、以後我がディスプレイ上にピースボートのバナー広告が上位に出てくるので苦笑している。そもそもピースボートは辻元清美という私が大嫌いな政治家が創始者の一員だった上、いまでも核廃絶運動などと係わりがあり、船上では「原発反対」やら「九条を考える」など怪しげな人たちの集まりもあるらしい。もし乗船したら、船内のあちこちでサヨクやリベラルと云われる人達と大喧嘩をくりひろげそうだから、料金にかかわらず乗船する気はまったくない。それでも飛鳥Ⅱなどで知り合った友人のそのまた友人などにはピースボートに乗船した経験者もいて、船上でのさまざまな話を漏れ聞くこともあるので、ふとサイトを覗いてみたものである。


このネットのバナーにはしばらく前まで、2020年夏からピースボートが催行するOCEAN DREAM号かZENITH号の何本かの世界一周クルーズ料金を4月30日までに全額支払えば、つぎの世界一周は無料で乗船できるというキャンペーンが繰り広げられていた。すなわち1回目のクルーズ料金を早期に全額支払えば、もう一回はただで世界一周できますよ、というなんとも破格のサービス提供である。私はこれを見た瞬間に「すごい企画だ!」というより「話がうますぎる」と直感し、よほどピースボートは資金繰りに困って目先のキャッシュが欲しいのだろうと思っていた。


そもそもピースボートは週刊文春の2019年2月7日号で「570億円豪華客船計画が座礁」とたたかれた事がある。当時ピースボートは画期的なエコシップを北欧の造船所で建造、2020年に就航させるとして乗船客を募っていたが、金を集めるだけで本当に計画が進展しているのか疑問を呈した記事であった。それから1年余り、今やエコシップの話はまったく聞こえなくなり、代わりにプルマントゥールクルーズにいた船齢18歳のZENITH号(4万8千トン)をピースボートがチャーターし、従来のOCEAN DREAM号と2隻体制で世界一周クルーズを催行しようとしていた矢先である。「エコシップ」なり「2度目はタダで乗船」なり、ピースボートは世間が驚く計画をぶち上げては金を集め、事業継続資金に充当するという自転車操業を繰り広げているのではないかと私には映る。


と思っていたら、4月15日に神奈川新聞のサイトにはピースボートが「クルーズ中止で返金トラブル」という記事が掲載されている。周知の通りここに来て武漢ウイルスのために世界のクルーズ事業は中断し、ピースボートも予定していた4月9日発の第104回世界一周クルーズがキャンセルとなったが、この代金返済に対し問題が生じているとの記事である。それによると一人139万円~395万円の返金に対して、「安定した経営のため」3年分割払いで払い戻したいとする書簡が、乗船予定者に届いたとされている。顧客からの反発や日本旅行業界の指導もあり、ピースボートは「旅行業約款を順守する。3年間の分割はお願いで、顧客とは個別に対応している」と取材には答えている。ただクルーズ船ビジネスの再開めどはたっておらず、すでに長期でチャーター契約している2隻目のチャーター料も支払い義務が生じるのだろうから、どうやって彼らはこの苦境を乗り切るつもりだろうか。主義は合わぬが海の友としてクルーズは頑張って続けて欲しいとも思う。辻本さんは助けてやらないのか?


リンク
ピースボートのエコシップ(2019年2月6日)

2020年4月19日 (日)

クルーズ船の感染対策

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カリブ海のクルーズ船メッカ、ナッソーにて(2011年6月)

武漢ウイルスでは関係者の必死の努力をよそに、生かじりの知識でここぞとばかり勝手な持論を述べるコメンテーターや評論家がネットやワイドショーで跳梁跋扈し、批判の為の批判を繰り広げるさまにあきれるばかりだ。最近はバカらしくなってテレビもほとんど見なくなった。こんな時には武漢ウイルスが収束し、不安なしに国内・外の旅行に出かける日が来るのを夢見ることにしている。もっともクルーズ船は、いまアメリカのCDC(疾病予防管理センター)から100日間の運航停止措置が講じられているが、この騒動が収まり運航再開となっても、これまでと同じようにビジネスを続けられるだろうか大きな不安が残る。ダイヤモンドプリンセスでの集団感染が記憶に新しいなか、その後もオーストラリアやアメリカでクルーズ船で同じ問題がおこり、そのうえアメリカやフランスの空母で乗り組み員の集団感染が報じられると、フネが感染に弱いという認識が世界中に広まるのではなかろうか。


これまでもノロウイルスやSARSによる感染危機を乗り越えてきたクルーズ船業界である。ただ今回の騒動のインパクトの大きさや世界中に汚染が広まってしまった事を考えると、クルーズ船の主たる顧客である高齢者の中には、乗船をためらう者も多くなるのではないか。考えてみれば武漢ウイルス騒動が始まるまでは世界の海域でクルーズブームがおこっており、欧州の新造船ドックは2023~2024年までは建造予約が一杯、その後の契約についても商談が進んでいた。しかし現在の苦境と、運航再開後も元に戻るには相当の時間がかかるという想定から、すでに一部のドックと船主の間ではとキャンセル交渉が始まっていると伝えられている。航空機と同様に数百億円の動産を整備し、それが稼働しないという地獄が船主に待っているかも知れないのだ。現にここ10年間、次々と巨大クルーズ船を就航させたアメリカのメガクルーズ船会社は、いま資金繰りにいろいろな算段を始めていると報じられているが、クルーズと云えば「不要不急」の代表的な業種だから、充分な援助などを得るのはそう簡単ではないだろう。


我が日本船もしばらく運航を休止しているが、飛鳥Ⅱやにっぽん丸は上場する老舗大手海運会社の連結対象子会社である。資金繰りについては当面問題なかろうから、こちらは事態の進展待ちで静観といったところだろうか。ただ運航を再開した後に、これまでのようにリピーターの高齢者層が心配なく乗ってくれるのかやはり疑問は残る。もっともピンチの後にはチャンスありで、以前にも書いたように、欧州の客船建造ドックには新造船キャンセルによる空きが相当出てくるだろうから、安い船価で飛鳥Ⅲや新にっぽん丸をつくるチャンスの到来とはいえよう。クルーも世界的に余剰になろうから、船員費も抑えられる事が期待できるし、船用品や船食もしばらく安価に買えることだろう。原油安からバンカー(船舶用重油)も、かなり安い水準で推移している。石橋を叩いても渡らないような安全策オンリーでチャレンジしない事が日本の経営者の常となったが、10年・20年後の隆盛を目指して、この機会に外国の大手クルーズ会社に出資やら提携する事くらいは模索したらどうだろうか。


さて今後、乗客の不安を解消し、クルーズビジネスを再び興隆させるには、まず空調システムの見直しが必要ではないだろうか。これまで大型客船の換気システムは外の空気を取り入れるとともに、内部でも空調機を介して船内の空気循環を行っていた。プリンセスクルーズでは、その割合はキャビンでは30%が外部からの空気で70%が内部循環、パブリックエリアでは50%、医務室や厨房では外気取り入れが100%だそうで、このようなシステムが船内の集団感染に結び付いたのだと思われる。飛鳥Ⅱなども似たような割合で空調が設置されている事だろう。一説によるとプリンセスクルーズでは今後外気を取り入れる割合を増やすそうだが、これから建造される新造船では外気の取り入れを大幅に増やしたり、船体の各部で空気の遮断や取入れに関して分散管理ができるように設計変更が行われれることが求められるよう。また内側の窓なしのキャビンを少なくし、バルコニー付きのキャビンを極力増やして各自が任意に外気に触れることができるようにするなどの対策も考えられる。クルーズ船のビジネスを継続させるため船級協会や関係機関の速やかな感染対策がのぞまれる。

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ローマの玄関口チビタベッキアのクルーズ船)(2018年4月)

2020年4月12日 (日)

戻ってきた 飛鳥Ⅱ

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これから錆落としをするのか8・9デッキバルコニー

新聞を読んでもテレビを見ても武漢ウイルスの話ばかりでウンザリの毎日。いつも一面からじっくり読む新聞もウイルスの記事だらけで、いまは新刊本の広告、書評や料理の欄などしか読む気がしない。新聞で唯一面白いのは「人生相談」(読売は「人生案内」)で、寄せられた悩みに対する識者のコメントを、妻と二人で「俺ならこうする」「私はこう思う」とあれやこれや日々論じている。しかしこの季節の愉しみ、神宮球場での六大学野球観戦や後輩の陸上の試合応援も今春は順延、各種コンサートは中止の上、図書館も閉鎖となってまことに意気が上がらない。空いた時間はジョギングにあてるが、さすがに最近は毎日10キロ近く走ると疲労を感じ、「今日はお休み」などと宣言する日もある。これが年齢相応ということであろうか。


「外出するな」ではあるものの、人と会わずに外気に触れるのは推奨されているから、こんな週末はドライブを楽しむ事にする。3リッター・ツインターボでリッター当たり8キロくらいしか走らない愛車も、この時期ガソリンが安くなっており、気軽に遠出できるというものだ。昨日はシンガポールのドックで改装工事を施し、母港・横浜港で停泊中の飛鳥Ⅱの外観を見に行くことにした。武漢ウイルスなかりせば、今頃飛鳥Ⅱは世界一周クルーズの序盤で4月10日にシンガポールを出港、インドのゴアに向けマラッカ海峡を北上中のはずであった。乗船予定だったこのクルーズが催行されていれば、今日は太陽光線を真上から受け「影のなくなる日」を味わっていただろうなどと、死んだ子の年を数えるようなことをしていたら無性に改装後の本船の雄姿を眺めたくなったのである。


横浜港の大さん橋は屋内のホールが閉鎖されているものの、名物の「くじらの背中」と呼ばれる板張りの送迎デッキはオープンしていた。駐車場にクルマをとめいつも通り出船・右舷付けにされた飛鳥Ⅱを眼前にすると、昨年11月「ウイーンスタイルクルーズ」から下船する時「次に来るときは世界一周だ」と胸を膨らませてボーディングブリッジを歩いた事が遠い過去のような気がしてきた。送迎デッキの向こうの本船では、おりしも7階プロムナードデッキの上で顔見知りのボースンの下、セイラー達がハンドレールのカンカン(錆落とし)の作業の真っ最中であった。老齢となった本船もドックで化粧直しが施されてまた美人になったが、どこもここも錆落とししたのでなく、望遠鏡で見る9階や8階のバルコニーにはまだ赤さびが見える。ただバルコニーの窓ガラスには養生がなされており、これからクルーハンドでカンカンをして、運行再開までに真っ白になってくることだろう。


ファンネルの中に聳える排気管の中には真新しいステンレス生地が太陽光線に反射しているものもあり、この下に排ガス規制対策のスクラバーが設置されたと思われる。ウインブルドンコートの跡に造られた露天風呂はその覆いがひときわ目を引くが、以前から思っていた通り、橋の上などからは風呂が丸見えになるように思えて実際どうなのか気になる。こうして桟橋から目の前に飛鳥Ⅱを眺めていると、船内に足を踏み入れられないことが何とももどかしく、一刻も早くこの武漢ウイルス騒動が収束してくれることを望むばかりだ。じきに乗ってやるから待ってろ飛鳥Ⅱだ。ただ都内から大さん橋まで道はどこもガラガラ、帰路は横浜市内・都内とも2か所しか赤信号に捕まらず、首都高はクルーズコントロールを80キロに設定すると前後が詰まることがない。こんなすいている道路も滅多にないから、この騒動もドライブには良いかと気を取り直したのだった。

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新設の露天風呂

2020年4月 2日 (木)

飛鳥Ⅱ2020年世界一周クルーズ出発の日

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大桟橋のWEBカメラで見る飛鳥Ⅱ

今日4月2日は、予約していた2020年飛鳥Ⅱ世界一周クルーズの出航の日であった。関東は風は強いが久しぶりの晴天で、実現していたらよき船出になったことだろう。中国人が野生動物を食べる習慣がなければ、あるいは昨年末に中国共産党政府が新しい感染症を隠蔽せず防疫対策を適正に行っていたら、武漢ウイルスもここまで拡大せず、きょうは晴れて乗船できたはずなのにと考えると残念でならない。もしこの騒動がなかりせば今頃は東海道線で横浜に向かうころだったろう、今の時間は大桟橋で見送りの人や知っている乗船者と挨拶を交わしているはずだ、そろそろ出国審査を終えて乗船か、ブラスバンドに見送られ出港だ、などと、一日「死んだ子の齢を数える」ような思いが続くに違いない。


おりしも飛鳥Ⅱがシンガポールでの改装工事を終え、昨日母港・横浜に帰ってきた。大さん橋に設置されたWEBカメラを見ると、いつものように出船・右舷付で着桟した飛鳥Ⅱの11デッキには新設の露天風呂の開口部が見え、7デッキの外側もすっかり錆落としがされている。画面を眺めつつ、この露天風呂の構造だとやはり外から見えてしまいそうだが一体どうなっているのだろうか、プロムナードデッキを歩くと周囲はすっかりきれいになっているに違いない、などと営業復帰後のクルーズの様子を想像してみる。一方で画像を拡大すると8・9階のバルコニーには茶色の錆らしき筋も見えるようで、その部分は今回手を入れなかったのかなどと疑問が湧き、早く実際の様子を見たい、乗船してみたいとの思いが強くなってくる。


世界一周クルーズに乗船する日はいつも、旅への期待とともに狭い空間に拘束されるような圧迫感や、病気や怪我が無く行ってこられるのか、小さな不安も入り混じる。キャビンは20平米弱、日本最大のクルーズ船といっても、生活空間は長さ200米、幅20余米で、その中で24時間100日間を600名ほどが暮らすのである。中にはちょっと変わった乗客もいるし、時には濃密な人間関係にもさらされる。2011年はアデン湾の海賊問題で、スエズ運河を通れず喜望峰周りに航路が変更になった上、出港直前には東日本大震災があった。後顧の憂いや旅の不安なくして世界一周することはできないが、それでも帰国すればまた行きたくなるのが世界一周クルーズである。今年が駄目でもまた次のチャンスに行けばよいと気持ちを切り替え、季節の良くなる日本での100日間を過ごそうと思う。

2020年2月27日 (木)

飛鳥Ⅱ2020年世界一周クルーズ中止

20200227

乗船を予定していた4月2日からの飛鳥Ⅱのワールドクルーズが中止と発表になった。すでに妻がツイッターでこのクルーズ乗船をつぶやいていたので、友人などからは「また行くの?」とあきれられ、最近は「コロナウイルスで大丈夫?」と心配されていたが、これで周囲からの心配や批難の声もなくなることだろう。じつはかねてから老母には「サラリーマンの身で何度も世界一周に行くのは身分不相応」とおこられていたのだが、その母も昨年亡くなってもう叱責されることもなくなり、仕事場でも何とかしぶしぶ許可をもらってあとは出発を待つのみであった。かかりつけの病院には検査や診療の日程を調整してもらい、クルーズの102日間分と万一の際のプラスアルファの薬の処方もお願いするなど、乗船に向けての準備おさおさ怠りなく進んでいたところだ。


そんな中のクルーズ中止連絡で、いまは何かぽっかり目標を失った感じがしてならない。寄港地の情報を調べつつ、今回はダンスもだいぶ上達したから見知らぬ女性から踊りに誘われてもドギマギせず対応できるか、久しぶりにゴルフを再開して船内でレッスンを受けるか、フィットネスで週に数回は筋トレをするかなど、あれこれクルーズ生活を想像していたのだが、そんな愉しみも露と消えてしまった。しかし男性の健康年齢は平均で70歳代前半だという。身体が元気で動けるうちになるべく遊んでおこう、というこれまでの方針はいささかも揺るがない。この「失った102日間」でできる事はなにだろうと、気分を変えて考えることにした。


海外のクルーズ、特に行ったことがないエーゲ海やエジプト、ヨーロッパのリバークルーズなどを検討したが、コロナウイルス騒動で海外旅行も目途がたたないため、しばらく国内ででできることをしようと、頭を巡らしている最中である。そんな中、内外のクルーズ船が日本市場でのサービスをやめているのにも関わらず、4月に国内で唯一クルーズを催行するのが「にっぽん丸」であった。パンフレットを見ると4月の「飛んでクルーズ沖縄」がなかなか面白そうなのだが、これまた申し込んでもクルーズ中止となっては喪失感も倍増となる。普段はクルーズの手配は妻に任せきりの私だが、今回ばかりは「にっぽん丸」の商船三井客船に直接電話して状況を確かめると、「今のところ、4月以降のクルーズは台湾に寄港するのは取りやめだが、それ以外は計画通り行う予定です」との返事であった。この沖縄クルーズを目標にしばし職場に戻って仕事をするか、とモチベーション維持に心をくだくここ数日である。

 

2020年2月22日 (土)

ダイヤモンド・プリンセスで関係者をディスりたい人々

政府のすることには是非をこえて何でも反対することが使命だと勘違いし、自己陶酔しているようなメディアの存在を日頃から苦々しく思っている。今回もダイヤモンド・プリンセスの防疫体制に関して、政府の対策がまずいと「後出しじゃんけん」ばかりの報道やネットの記事が不愉快だ。3,700人もの乗客・乗員である。乗下船するだけでも数時間かかる人数なのだ。大きな体育館に4,000人近い人々がぎっしり詰まっているような状態を想像してみれば如何に多くの人数かとわかるであろうが、未知の脅威を前にここにいる人たちの防疫をどうするのか、関係者が頭を抱えベストを求めて試行錯誤したに違いない。

 

コロナウイルスは潜伏期間、感染力や症状が現れる過程・治癒の経過もよく判っていない未知の病原体なのである。船内に留め置くのは非人道的だとの声もあったが、検査キットの数は十分でなく、ふだん救急車でさえ受け入れる病院を探すのが難しいなかで、何千人もの人を選別して近辺の施設でただちに収容などできようか。専門の医者はどうするのか看護師はどう手配するのかも言わず、自分は安全地帯に居ながらただ無責任に批判するコメンテーターや評論家と云われる人々を見ると「あんたたちは万能なのか、無責任でお気楽な論評でお金が貰えてよいね」とテレビやネットの前で文句の一つも吐きたくなる。

 

今回の騒動では、船長やプリンセス・クルーズのアメリカの運航会社に対して、彼らが早期に適切な対応をとっておればここまで状況は悪くならなかったと批難する向きもあるが、これまたちょっとお門違いではなかろうか。香港で下船した乗客がコロナウイルスに感染していると分かったのは2月1日土曜日(米国では1月31日金曜日)のことだ。船長としては、多分船医と相談した上でシアトルの運航管理会社にただちに今後の対策を打診したことであろう。仮にアメリカ側で事の重大性かつ緊急性にすぐ気がつき、当日中に厳しい対応方針を打ち出し本船に指示したとしても、どんなに早くとも船が指示を受け取れるのは日本時間2月2日(日曜)で東京湾に入る一日前である。

 

但しこれはベスト中のベストの対応で机上の空論だといえよう。クルーズ船の大規模感染といえばこれまではノロやレジオネラ菌であり、これらの対策マニュアルはあったであろうが、週末を前に直ちにウイルス感染の専門家の意見を纏め適切な対策を本船に指示すべきだったという批判は理想論でしかない。ダイヤモンド・プリンセスで感染された乗客・乗員、船内で長期留め置かれた方々はまことにお気の毒だったが、今回の騒動は「不可抗力」であろう。政府や関係者がしている必死の努力を無責任にディスるメディアを情けなく思うとともに、外野の無責任な報道にぶれることなく対策を施した政府や関係者、それに乗客を励まし続けた本船や船会社には拍手を送りたい。ただ今回の事態が収束したら外国籍クルーズ船の検疫や疾病対策、関係法令・条約や感染症に関するマニュアルの見直しや検証などは関係諸機関で検討されたい。

2020年2月20日 (木)

ダイヤモンド・プリンセスと旗国主義

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姉妹船:サファイア・プリンセス 2009年メキシコ、カボサンルーカスにて

外国船の船内は一歩踏み入れれば「外国」である。今回のダイヤモンド・プリンセスは船籍港が英国のロンドンだから、本船が日本国内の港にいてもその船内は英国であって、日本の税関の許可を得なければ陸/船の往復さえできない。一方で日本籍の”飛鳥Ⅱ”や”にっぽん丸”のクルー ズ客船旅客運送約款には「この運送約款は、日本法に準拠し、この運送約款に関する紛争は、当社の本社又は主たる営業所の所在地を管轄する裁判所に提起されるものとします」とあり、同様にダイヤモンド・プリンセスのクルーズ約款も「クルーズに関連して生ずるすべての請求は英国法を準拠法とします」と記されている。今回のダイヤモンド・プリンセスの騒動に関するニュースでは、最近になってネタがつきたのか盛んに「旗国主義」なる言葉が散見され、英国籍の本船と本国の関与がいかなるものかの報道がなされているが、どれも「ちょっと何を言ってるのかわからない?」という類いの記事ばかりだ。本船はたまたま英国が旗国だったが、バミューダやバハマ籍などの客船で同じことが起きればどう云われただろうかイメージが湧かない。「旗国主義」と一口に云っても、世界中で運航される船舶上でおこるさまざまな出来事は複雑で、主義と現実に起きる出来事が一致しないことが多く、今回のような的を得ない解説がなされるのもやむを得ない。


旗国主義による困難な紛争といえば真っ先に浮かぶのがTAJIMA号で、これは2002年に日本の海運会社が実質的に所有・運航するパナマ籍の大型原油タンカー"TAJIMA"号上でおきた殺人事件である。同船はペルシャ湾から姫路港に向け原油を輸送中、台湾沖の公海で日本人の航海士が行方不明になり、この航海士を殺害して海に突き落としたとされた2名のフィリピン人船員の捜査・裁判を巡りもめた事件だ。姫路港にTAJIMA号が到着しても日本の警察や保安庁は被疑者を拘束することはできず、フィリピンも国外犯を裁く法律がないため事件は宙に浮き、結局被疑者たちは一か月以上、本船の居室に留め置かれることとなった。検疫の問題とはいえ船室に拘束されるのは今回の例でも同じようにおきたことだ。当時、海運界は法務大臣など関係大臣に対し被疑者を一刻も早く上陸させる等の措置を講じるよう要望したものの、わが国の法制上はアクションを起こすことは困難であるとして認められなかった。最終的にフィリピン人被疑者両名は便宜置籍国にすぎない「旗国」パナマに引き渡され、同国で裁判が行われ無罪になったのだが、このような事件に対して国際的にも国内にも適用する法律がない事が問題になり、事件の翌年に日本では国会で刑法の一部改正が行われている。「旗国主義」と一口で言っても、事件がおきた時の実際の処理はそう簡単ではないのである。


さて今回のコロナウイルス問題では、ダイヤモンド・プリンセスを横浜港の大黒ふ頭に停泊させ、乗客を隔離させたことが正しかったかどうかが議論になっている。もしダイヤモンド・プリンセスの船長が旗国主義を盾に、今回の措置に疑問があるゆえ日本の防疫体制に従わないと宣言していたらどうだっただろうか。考えられる事はその場合に日本の当局は「それでは日本国の領海外に退去してください」というだけで、ただちに本船は多くの感染者を乗せながら、英国法ないし英国流の処置が受けられる国を探さねばならなかっただろう。領海を無害通行している時には船内で旗国の法令が適用されても、いったん本船が港に入ってしまえば、旗国(本国)主義よりまず寄港国の法律・慣習の適用を受け入れざるをえないのが実務だと云えよう。それが嫌なら何の助けも得ずに再び外洋に出て、自ら助かる方法を考えるしかないのだがそんなことはまず不可能だ。ましてやダイヤモンド・プリンセスには日本人の乗客が多数乗船し、横浜がこのクルーズの最終下船地であることを考えると、「旗国主義」を押し出し何らか違った展開があったかの想像をする事にあまり意味はないだろう。今回は旗国主義の出番はなかったようだが、ただこの問題を契機に、国際海洋法条約に関する新たな取り決めが今後なされることを期待したい。

ダイヤモンド・プリンセスの船尾に翻る英国商船旗 2014年4月基隆にて

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