カテゴリー「船・船旅」の記事

2020年11月 7日 (土)

飛鳥Ⅱ30周年オープニングクルーズに乗船して(食事・寄港地編)

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30周年ディナー・食の飛鳥Ⅱ

今回のクルーズで旅行会社から送られてきたGO TOトラベル・地域共通クーポンは夫婦2人で36,000円で、船内のショップや寄港地・清水などで使えることになっている。ただ清水にはこれまで飛鳥Ⅱ始め他のクルーズ船で何度か来ているし、このクルーズでは船内のアルコール類がフリーなので地域共通クーポンを何に使うのか悩ましかった。ふだん船内での費消といえば酒類の他にはフォトショップでの写真購入を思いつくところだが、今回は密を防ぐためか専属カメラマンも遠慮気味の活動で撮られた写真もごく少ない。という事で普段ちょっと気になっているものの、まあ買う程の事もないという飛鳥Ⅱグッズ、すなわち飛鳥のロゴ入り折り畳み傘やペンダント、それにルームフレグランスなどを妻はこのクーポンで購入していた。そのほか清水港にあるエスパルスプラザで静岡のアジの干物などをみやげに買ったのだが、こうして旅先でクーポンを使うことが政府の企図した経済立て直し策の一助だと思うと、少々迷うような買い物でも気軽にできる。


クルーズ2泊目、飛鳥Ⅱの30周年ANNIVERSARY DINNERはフォアグラのムースや鰆のスモーク、鮑のグリルなどに続き、メインが黒毛和牛のヒレ朴葉やき、またはラムステーキ、またはサーモンのパイ包みからの選択と豪華なコース料理であった。飛鳥Ⅱの料理について、かつては日程や乗客の年齢層次第とはいえ、総じて薄味でさっぱりしていると感じていたのだが、最近は味にメリハリが効いてとても美味しくなった気がする。この日も例によって我々2人ともふつうは1皿選択のメインを2皿づつ、サーフ・アンド・ターフで肉と魚の双方を注文して西口総料理長の料理を楽しんだ。このあたり、食の船と謳いながら何度尋ねても「お替りはできません」という冷たい返事が返ってくる”にっぽん丸”と、「なんなら3皿でも良いですよ」と言う飛鳥Ⅱの差が出てくる(食べ物の恨みは恐ろしい)。昼食も毎回、鰻重や海鮮チラシ、天ぷらうどんなど8点から好きなものを好きなだけ選んでも良いという太っ腹なメニューで楽しんだ。


寄港地は現時点でまだ受け入れてくれる港が少ないのか、3泊のクルーズにしては横浜に近い清水である。お馴染みの地なので、今回は東海道線で金谷まで行き大井川鉄道を楽しもうかと考えたのだが、これはあまりに慌ただしいのであきらめることに。ということで恒例の寄港地ジョギングは、ゆっくりと旧国鉄清水港線の廃線跡走り(往復15キロ)になった。往時の清水港線は、主に飛鳥Ⅱが着岸したマリンターミナル対岸の日本軽金属・清水工場で製造されるアルミナ(アルミニウムの原料)を、約20キロほど離れた同社の蒲原製造所まで運ぶための貨物線だったという。同線は赤字の旧国鉄の中でも数少ない優良な黒字路線だったとの事で、終点の旧美保駅に置かれた貨車や小型のディーゼル機関車がありし日の繁栄を偲ばせてくれる。すでにボーキサイトを輸入してアルミナをつくる工程は国内では見られないそうだが、クルーズ船で港から上陸すると空港や駅からのアプローチと異なり、その土地の歴史や産業の盛衰を身近に感じることが多い。こうしたクルーズの楽しみを改めて認識し、ウイルス禍からクルーズに日常が戻ってくる日が近いことを祈りつつ30周年オープニングクルーズを終えた。

旧三保駅跡のディーゼル機関車とホッパー貨車
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2020年11月 6日 (金)

飛鳥Ⅱ30周年オープニングクルーズに乗船して(改装リニューアル編)

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大画面TVになったキャビン

武漢ウイルス禍で遠い過去のことのようになってしまったが、飛鳥Ⅱは今年正月明けから3月までシンガポールのドックで改装・リニューアル工事を行っている。燃料油の環境規制が今年1月から世界中の海域で適用されることになり、スクラバーと云われる排煙から硫黄酸化物を除去する装置装着が必要になったが、その工事に合わせての本格的改装・延命工事である。本船も船齢すでに30歳となって各種設備の検査・交換期限も迫ってきたうえ、船体は錆が目立ち、内部も時代に合わせて改装する必要があったはずだ。もっとも諸外国のクルーズ船が行う大幅なリニューアルに比べるとよほど簡単かつ小規模な改装工事に見えるのだが、それは飛鳥Ⅱのコンセプトがこれまで日本人の顧客に受け入れられてきた証左ともいえよう。今回は感染症対策が脚光を浴びていたが、この改装後の船内を体験したいとの気持ちは今年の春以来とても強かった。改装工事後の姿を思いつくままに列挙してみる。


①目につく船体外部のほとんどの部分は、錆うちして白いペンキで初々しく再塗装されている。デッキのハンドレールもやすり掛けの上、丁寧にニスが塗られて見栄えも気持ちも良かった。それでもペンキ厚塗りだけで済ませた部分もちらほら見られ、早くも錆汁が垂れている箇所も目に付いた。特に看板のファンネルは手が付けられていないようで、二引きの塗装周囲もうす薄汚れていたのは残念なところだ。新造船並みに修復するのは無理としても、せっかく時間は有り余るほどあったのだから、ファンネルや錆汁はドックでクリーンアップしたらよかったのではないだろうか。現状はデッキクルーの人数も半減らしく十分なメンテができないだろうから、余計にドックで全船さび落とし研磨を行わなかった事が残念に思える。


②新装露天風呂はとても快適であった。遮るものがない風呂から流れる雲や広い海を眺めるのは極楽といってよいだろう。広くとった開口部から適度に吹き込んだ海風が火照った頬をなでて流れて行くのがとても気持ちが良い。フェリーの露店風呂は何度か経験したが、今までで一番素晴らしい船上の露店風呂であるといえよう。10ノットくらいで走っている時もそこそこ風を感じたので、20ノット近い全速航海の時や荒天時は風が吹き込んで寒くならないかはちょっと心配である。ただ風呂前は広く開口されているので湯舟から立ち上がれば外からは裸が丸見えになっててしまい、港内や停泊中は鍵がかかって使用禁止となる。大きな橋が連続する瀬戸内海などを昼にクルーズする際に、どういう運用方法を採るのか興味は募る。


③Wi-Fiの接続環境が改善し、以前はPCルームなど一部の公室でしか使用できなかったのが客室からも利用できるようになった。また、衛星経由のインターネット接続は従量(時間)制で課金されていたものが、1日に30分×10回(回数は客室カテゴリーにより異なる)まで無料となったのは時代に即した進歩といえよう。ただ今般の感染症対策プランの中に「客室内に設置している印刷物の一部を撤去し、お客様のスマートフォン等によるQRコードの読み取りで内容をご確認いただきます」との一文があり、船内設備やデッキプランは各室に置かれていない。これにはさほど不便を感じなかったが、リドやバー、メインダイニングでもメニューを出さず乗船当初は「QRコードでお読み取り下さい」と言われたのにはちょっと驚いた。戸惑っているとウエイターは一息おいて「紙メニューもあります」とおずおずと印刷物を出してくる。もっとも翌日には最初から紙を出してくれるようになったが、ふつうスマホは船内で持ち持ち歩かないし、そもそもスマホなど持っていない高齢者もいる。外国船のように何でもスマホで諸情報を伝達しようとやり方は今の段階では無理があろう。


④飛鳥プラザの大スクリーン設置やリドグリルの全面改装、パームコートの家具新替えなど船内あちこちで新しい飛鳥の情景が見られる。内装は総じて重厚正統派からコンテンポラリーかつカジュアル指向に進んでいるようだ。一方でフォトショップは来年早々にクローズとなるのは、とても残念である。IT化の進展に伴い紙の媒体の販売が減少しているのが原因との事であるが、規模を縮小してもプリントした写真を撮影・販売する設備は船内に残して欲しい。また各部屋からもDVD再生機が撤去され、ベッド前の大画面でオン・デマンド映画を観ることになったが、肝心のプログラムはあまり見た事のない邦画ばかりが並んでいた。洋画の拡充やお笑い・コメディなどのソフトの充実がなければ、ロングクルーズに乗る際は私たちはDVD再生機に自前のソフトを持ち込む必要がありそうだ。オンデマンドTVは今後ラインアップの充実を望みたい。

パームコートの隣・新しいe-Square
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2020年11月 5日 (木)

飛鳥Ⅱ30周年オープニングクルーズに乗船して(感染症予防編)

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船内各所の検温機(これを通らないと前へ進めない)

約300日ぶりでクルーズを再開した飛鳥Ⅱの30周年オープニングクルーズ(3泊4日)からさきほど下船した。今春のダイヤモンド・プリンセス号でおきたウイルス汚染騒動以来の首都圏からの初クルーズとあって、11月2日出港当日は横浜港・大桟橋はメディアの取材クルーも目立ち、華やかな出港風景とはちょっと異なった雰囲気が漂っていた。今回の乗船受付はいつもと異なり大桟橋の奥にある衝立の向こう、CIQエリアの中で行われ、なにやら海外クルーズに出港するかの様なものものしさである。また乗船受付場所に設置された体温計で熱が37.5度以上あると乗船できずに荷物を持って帰ることになるため、今までの様に早めに大桟橋に着くなりスーツケースを預けゆっくりと乗船手続き開始を待つという訳にもいかなくなっていた。


すでに乗客は1週間前にPCRを検査を受けているのだが、船内に足を踏み入れると「考えられる対策はすべて行いました」とクルーが言う通りのかなり厳格な対策が施されていた。乗客の動線のあちこちに検温機が設置され体温を計らないと前に進めぬ上、船内ではマスク着用が要求され、飲食後にマスクをし忘れたりするとフィリピン人クルーがすかさず「マスクお願いします」と声をかけてくる。多くの人が触る備品は可能な限り置かない主義との事で、普段は大浴場に置いてあるヘアリキッドやヘアトニックさえなく、脱衣所に山積みされていたタオルは、旅館のように一人一セットが指定されたロッカーに入っていた。ぼーっと船の航跡や流れる雲を眺める私のお気に入りの場所、後部デッキのデッキチェアもすべて撤去されており、何もないチーク材張りのスペースが寂しげに広がっていた。


ダイニングやリドのテーブル・椅子は人が立つ度にクルーがアルコール消毒をしてまわり、その徹底したサービスぶりを見ると「絶対ここから感染させないぞ」という意気込みが伝わってくる。夕食は同室者2名のみの指定席で飛沫防止のため相対して座れず、斜めまたは横に並んだ配置で食べるようになっている。我々は以前のワールドクルーズで知り合ったご夫婦と一緒にテーブルを囲みたいとあらかじめクエストしておいたものの、4名で食べることは叶わず隣り合ったテーブルの透明なアクリル板越しとなってしまった。見れば大家族で乗船したグループは、部屋別の2人のテーブルが各々アクリル板で仕切られているので、次第にアクリル板越しに会話する声が大きくなっていた。


いつも夕べにはダンス会場となるクラブ2100は、フロアーに椅子を置いてしまい踊れないようになっていたのは、やっと人前でも気後れせず踊れるようになった私にとっては少々残念な措置である。それでもパームコートや飛鳥プラザではバンドの生演奏があるので「ここでも踊ってはいけないの?」と日本人スタッフに聞くと「本当はご夫婦では踊って頂きたいのですが、我も我もと参加され、ダンス会場のように密になってしまうのが怖いのでご遠慮願っております」と申し訳なさそうな答えが返ってくる。さて飛鳥Ⅱの定員は700名以上なのに対して今回はバルコニーのない7・8デッキのK・Eステートキャビンの販売はなく、乗船客は330名ほどだそうだ。このような状況下ではやはりリピーターが多いようで、普段はショートクルーズには乗らない1000泊以上のヘビーな乗客や、どこかのクルーズで一緒だった見覚えのある顔と船内あちこちで出会ったのが印象深い。


飛鳥Ⅱは本来の定員に関わらずしばらくは上限400名まで減らす一方で、混雑を回避するため夕食やショーは2回制とし「密」を防ぐ体制である。通常3~400人の乗客なら夕食やショーは1回制なのに、採算的に厳しいであろう中で大変な努力をして運航再開にこぎつけた事がわかる。いつもにこやかで少々のことなら良いですよ、と見逃してくれるフィリピン人のサービスクルーが、ダイニングエリアに入る際の検温やマスクに厳格なのは、感染症予防に関してよほど厳格な指導が為されていることの証であろう。聞けば彼らだけでなく日本人クルーも2週間に一度のPCR検査を受け、一度乗船したら休暇までの数ヶ月間は船からまったく降りられないと云うから、通常ではない非常に厳しい労働環境だ。船内は徹底的に感染症対策がなされているので乗客にも協力を求めつつ、絶対に感染者やクラスターを出さない、との飛鳥Ⅱの強い決意と覚悟を肌で感じた4日間のクルーズであった。今後、クルーズ船の安全が確かめられたら徐々に対策も緩和されるのだろうが、いつまでも思い出に残りそうなオープニングクルーズとなった。

11月24日追記:妻の乗船記/PCR検査船内の感染症対策詳細

アクリル板で仕切られたフォーシーズン・ダイニング
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船尾のデッキからはデッキチェアが撤去されていた
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2020年10月29日 (木)

飛鳥Ⅱ2021年オセアニアグランドクルーズ中止 と 2022年オセアニアグランドクルーズ発表

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11月2日横浜発の「飛鳥Ⅱ 30周年オープニングクルーズ 4日間」に乗船する為の、唾液を使ったPCR検査も無事パスしたことが分かった。ネットで検査会社のサイトへ行き、唾液採取時に入力したIDや暗証番号で紐付けられた個人結果と照合すると、夫婦二人とも「低リスク」との表示が出てきてまずは一安心である。ということでやっとクルーズ乗船の気分になってきたところに、旅行代理店と郵船クルーズからまた手紙が届いた。開封してみると「2021年オセアニアグランドクルーズ中止ならびに2022年オセアニアグランドクルーズ発表のお知らせ」とある。飛鳥Ⅱは2021年1月末から豪州・ニュージーランド・バヌアツなど南半球を巡るオセアニアグランドクルーズを41日かけて行う予定だったが、郵船クルーズの社長名で書かれた表題の文字を見てやはり延期かとため息が出る。


実は今年行われるはずだったワールドクルーズ乗船後に多分やってくるであろう喪失感に堪えられそうもないとかねてから訴えていた妻は、来春2021年早々に行われるオセアニアグランドクルーズも独断専行申し込んでいた。このオセアニアクルーズはアスカクラブ会員向けにバルコニー付きキャビンが大幅な割引価格で販売されるというという特典もあり、それに釣られた面もあったようだ。「まあキャンセルならいつでもできるのだから取り合えず申し込みましょう」という妻の常套文句に乗せられて、あえて反対はしなかったが、一方でこの大幅割引の適用を受けるには一般の支払い期限より半年以上も前にクルーズ代金を全額振り込まねばならなかった。郵船クルーズとしては予約を早く埋めたいという思惑と、早期の運賃受領が資金繰りの一助になるという目論見もあったのだろう。


そこに今春降って湧いたような武漢ウィルス騒動でクルーズどころではなくなった。まず2020年春のワールドクルーズが中止となり、これに乗船予定の乗客は、差額分を払えばすでに発表されている2021年のワールドクルーズに優先的に乗船できると発表された。そして今回は来年年頭のオセアニアクルーズの中止とともに、同じ行程のクルーズを一年後の2022年初めに行う(すなわち1年延期する)ので、2021年度の乗船予定客のうち希望者はそのまま翌年に振り替えるとの発表である。ただし2021年のオセアニアクルーズは全船700名募集だったが、2022年は感染予防のためバルコニー付き客室以上のみの400名分を販売するため、バルコニーなしのKとEキャビン予約客は相当の差額支払いを余儀なくされる。

 

それにしても代金を払い込んだクルーズが次々と中止になっても、返金を選択する他に翌年のクルーズに充てれば優先的にキャビンを融通するという商売もなかなか憎いやり方である。この点ではピースボートがキャンセルされたクルーズの返戻金を、この後の世界一周クルーズに目を見張るようなインセンティブ(2回目はタダなど)をつけてそちらに誘導し、なんとか返金しない商売をしているのが注目されている。「なんだか飛鳥もピースボート商法っぽくなってきたね」と妻と冗談を言っているが、親会社が三菱グループの発祥会社で世界に冠たる海運会社、かつてなら東証特定銘柄だった信用力抜群の飛鳥Ⅱだから大金を預けていても心配不要と云うべきだろう。

 

2020年10月24日 (土)

飛鳥Ⅱ30周年オープニングクルーズ乗船・乗船前のPCR検査

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届いたPCR唾液検査キット

飛鳥Ⅱの運航が再開されるので、そのオープニングクルーズに乗船することにした。11月2日(月)から文化の日を挟んで3泊4日で清水に寄港するクルーズである。中共があのいまいましい武漢ウイルスを発生・拡散させなければ、今頃は本船の2020年ワールドクルーズの余韻に浸っていたところだろうが、まずは10か月ぶりのクルーズ再開、そして改装後初の営業航海を祝しての乗船となる。今春おきたダイヤモンド・プリンセス号での集団感染事件からクルーズ船は大丈夫か、との心配の声もあろうが、飛鳥Ⅱは先に報道陣や関係者を乗せて横浜から神戸まで試験航海をしており、運航再開にあたっては万全のウイルス対策が施されるという。


ということで、まずは乗船客には出発一週間前に唾液を使ったPCR検査キットを提出することが要求された。さきほどそのキットが届いたのだが、唾液摂取の前一時間は喫煙・飲食禁止の上、手を洗っておごそかに唾液を容器に入れろとキットの指示書にある。健康診断の際の検便のように検体を容器に入れてハイおしまい、ではない上、採取ばかりかキットの発送にも面倒な手続きが多い。特に検査会社への登録や結果の通知はスマホかパソコンからの入力が必須となっているので、高齢者が多い飛鳥Ⅱの乗船客が簡単にできるのだろうか。今頃は検査会社に問い合わせの電話が殺到していると思われる。


この検査をパスしても、クルーズ前日より遡って14日間に発熱など身体の異常があったり、海外の渡航歴のある人は乗船できない事になっている。やっと乗船しても船内ではマスク着用はもちろんのこと、5デッキのピアノバーやツアーデスクのほか、6デッキにあるクラブスターズ(カラオケバー)やカードルーム、麻雀サロン、さらに大浴場にあるサウナが閉鎖されると乗船案内にある。またセイルアウェイパーテイーやダンスタイムなどもなく、食事のテーブルは1テーブル三人までの指定席制、それも無粋なアクリル・パ-ティションで仕切られているようで何とも違和感ただよう雰囲気になりそうだ。しかし集団感染が起きれば日本の客船ビジネスは致命的なダメージを受けるだろうから、ここで乗客が協力するのはやむを得ないところだ。


キャビンも当分の間は、バルコニ―付きまたはスイートと高い部屋のみの販売で、利用するDバルコニーは代金が3泊で258,000円/人とあって、海外の小型ラグジュアリー船並みである。ただしGO TOトラベルキャンペーンの補助に日本郵船の株主優待、旅行会社のリピーター割引などを使った上、一人18000円の地域共通クーポンはフォトショップや船内売店などで活用できるため費用的にはかなり助かりそうだ。また夕方7時以降は今回はフリードリンクなので、改装された露天風呂を楽しんだ後はゆっくりと無料のビールを飲み、あまりあくせくせずに久しぶりの船上生活をゆったり楽しもうと思っている。こんな状況下のクルーズも、将来思い出に残って良いかもしれない。

2020年9月19日 (土)

飛鳥Ⅱクルーズ再開

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アムステルダムの飛鳥Ⅱ 2018年5月世界一周クルーズにて

ヨーロッパでは限定的ながらクルーズ船の運航も始まる中、日本船はどうなるのか注目していたところ、にっぽん丸が10月25日から愛媛・新居浜を発着とする2泊3日のクルーズを行うことになり、飛鳥Ⅱもようやく11月2日から営業を再開すると発表した。殊に飛鳥Ⅱについては、乗船を予定していた今年のワールド・クルーズがほぼそのまま来年に延期になったため、その去就に注目していたところだが、まずはクルーズを再開するというニュースが聞けて嬉しい限りだ。飛鳥Ⅱは、郵船クルーズの持つたった一隻のクルーズ船で、かなり老朽化した船体をリニューアル工事で延命使用してきた船である。今後の事業展開について親会社の日本郵船が悩んでいたとの話があちこちから聞こえていたので、これを契機にクルーズはやめた、となるのではと危惧していたが、ちょっと一安心である。


発表された営業スケジュールは11月2日横浜発の3泊4日清水寄港の「30周年オープニングクルーズ」を皮切りに、横浜・神戸起点の2泊~3泊のショートクルーズと、12月後半以降のクリスマス・年末クルーズなどである。何となくおっかなびっくり、まずは何かあってもコントロール可能な範囲と日数でクルーズを再開しようという意図のようだが、これもあのダイヤモンドプリンセスの大騒動をみるとやむをえない措置といえよう。しかも今回発表されたクルーズは、7デッキのK.Fステートルームをクルー個室のために使用するため、客室としてはE.DバルコニーとC.A.Sのスイートルームのみの販売で、最大でも定員の半分の400名の乗客募集である。外国船に比べれば高値の日本船のなかでも飛鳥Ⅱは高く、特に今年初めの改装後には一段と値上げをしていた中において、今後しばらくは最も高価なバルコニー付きキャビンしか販売しないことになる。ウイルスが怖くて出歩かない高齢者も多いから、こうなるとどの程度の人たちが乗客として戻ってくるのだろうか。


クルーズ再開にあたり発表された感染症予防対策は、乗船前の唾液によるウイルス検査に始まり、舷門や船内での検温、船内でのマスク着用・アルコール消毒などの他、ビュフェの中止、ダンスやセイルアウェイパーティなどイベントの中止、その他ディナーやショー観覧は指定席とするなど広範囲に亘る。パブリックスペースやバーも一部立ち入りや入場人数制限が実施されるようで、そもそも定員の半分の船内で一体どのような雰囲気になるのだろうか。朝のリドのビュフェで好きなものをとりわけ、ゆったりと一日のスケジュールに思いを巡らしたり、知人と予定を確認しあったりの会話なども制限されるのだろうか。また船内でマスクを着用するのも鬱陶しく、ダンスもできないとはクルーズの楽しみが削がれるし、ディナーで新しい友人ができる機会も少なくなるだろう。なかには自粛警察のような乗客もいるかもしれず、当面何かと不便な船内生活になるであろう。


などとも思うが、もうSTAY HOMEも飽きた。クルーズ料金もGoToトラベルの対象になるというので、早速11月2日「30周年オープニングクルーズ」を申し込むことにした。船上から見る流れゆく雲のさまや、さまざまに変化する海の色、海上に伸びる本船の引き波などを久しぶりに眺めることができるかと考えると、矢も楯もたまらなくなったのである。3泊4日のこのクルーズは西口総料理長のアニバーサリーディナーにフリードリンク、ゲストは歌手の麻倉未稀で寄港地は清水となっている。清水港はもう幾度も行ったので、今度は清水駅から東海道線で金谷まで行き、大井川鉄道のSLの旅でも楽しむか、と予約後は時刻表をあれやこれや繰り、すでに旅が始まった気分だ。これまで毎週習ってきたダンスができないのは残念だが、その分ゆったりとした船上生活が期待できそうだし、先般のドックでフルにきれいにしたデッキ回りをチェックしたり、改装後の露店風呂に早く飛び込んでみたりと1年ぶりの船上を楽しみたい。早く予約確定の返事がこないものか。

 

2020年8月22日 (土)

WAKASHIO の座礁油濁事故を考察する(続)

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モーリシャス島・ポートルイス港のタグボート 孤島なので今回のサルベージもこのクラスのタグか
(2011年飛鳥Ⅱのワールドクルーズで撮影)

モーリシャス島で起きたWAKASHIO号の座礁・油濁汚染事故について、船主たる岡山の長鋪汽船と用船者(=運航者)たる商船三井の用船(チャーター)契約について責任関係が如何になるかの関心が高いようだ。そこで長鋪汽船のような瀬戸内の船主の歴史的な背景と、用船契約における船主責任に関して今一度以下の様に纏めてみた。

1)瀬戸内船主の歴史
陸上の街道が整備される以前の上代より、人や物資の行き来は船を使って行われるのが主流であった。例えば中国大陸や朝鮮半島から日本の中心部だった畿内にやって来るために、九州の沿岸に着いた船は、風力の他にまず関門海峡の強い潮に乗って瀬戸内海まで進んだと考えられる。その後、来島海峡の上下げ潮の急流で船足を進め、芸予諸島などの島や港で風待ち、潮待ち後、今度は明石海峡の潮汐を利用して、京や奈良に近い畿内の津にたどり着いたことだろう。当時は海上の航路がもっとも早くて便利な大陸との物流ルートであったはずだ。瀬戸内海の沿岸や点在する島々に住む人たちは、舟の所有者として海上運送の仕事に携わったが、時には平家や源氏など権力者の水軍になり、時には海の難所のパイロット、はたまた海賊となって付近を航行する船から通行税を巻き上げるなど、海をベースに様々な仕事を営んできた。明治以降彼らは機帆船の船主として物流に直接携わるようになり、そのうちの有力な業者が戦後の高度成長期を迎え外航船の分野に進出することになる。このような事例はわが国にとどまらずヨーロッパでも見られ、バイキングの末裔たるノルウェーや北ドイツの船主、あるいは地中海物流を基盤としたギリシャ船主などがその典型である。

2)船主業の発展 
これら外航海運に進出した瀬戸内の業者の多くは、地方銀行など地場の金融機関の融資をもとに外航船を地元の造船所で建造し船主業を営むようになった。WAKASHIO号の所有者、長鋪汽船もその一社であろう。船主は、荷主と契約して輸送運賃を収受する日本郵船や商船三井のような海運運航業者にはならず、これら大手に船をチャーター・アウト(=用船に出す)して定期的にチャター料(用船料)をもらう船主専業者となった。なぜ運航会社ではなく船主業に特化したのかという理由は、運航会社(=用船者)は荷主から受け取る海上輸送運賃が荷物を積んだ後に受領する一方で、現金決済が必要な高額な燃料費(=バンカーと呼ばれる燃料代)や入港した港で払うタグ代やパイロット料金、岸壁使用料、税金などの港費を航海前に現金先払いするので手元に潤沢なキャッシュが必要なこと、運航会社は世界中の航路や拠点を維持する要員や代理店網が必要であり通常数隻しか所有していない船主では対応できないこと、船主は地場の造船所や金融機関など地方の海運クラスターを基盤として事業展開しており、東京や大阪に拠点を置く荷主とは疎遠であった事、かつては船主の信用力が無かった事、定期用船の用船料はスポットの輸送運賃より相場が安定的だったことなどがあげられる。なお日本郵船や商船三井のような運航業者は、オフバランスの観点から船主から借りてきた用船が増えているが、一部自社船も保有し船主業も兼ねている。

3)船主負担費用
このように船舶を所有する事と運航する事は、今では別の事業分野に分かれるケースが多くなったが、その費用負担はどうなるか。船主はまず金融機関の融資を受けて造船所で船を造り、用船料を原資にそのローンの返済を行う。船員を手配し船員費を支払いながら係船ロープやエンジンなどの部品・備品のほか潤滑油の補充を行い、本船の故障箇所の修理や必要なドックの手配を行って常に本船を航海に堪える状態に保持する。また衝突事故や座礁、船舶火災に対応する東京海上火災などの海上保険会社に船体保険を付保し、今回の油濁事故のような第三者への損害賠償のために船主相互責任保険クラブ(Protection and Indemunity Club = PI Club)の保険に加入して保険料を支払う。また安全運航や環境汚染に関する国際ルールの遵守も船主が求められる。これらを総じて堪航性を保持する業務と云い、航海に際して湛航性を担保するのが船主の責務である。

4)用船者(=運航者)負担
こうして稼働状態になった本船を借り受け船主に定期的に用船料(チャーター料)を払いつつ、荷主と輸送契約をし貨物を運び運賃を貰うのが商船三井のような用船者(=運航者)である。用船者は指定した港へ配船し、自らの費用と責任(あるいは荷主の責任)で荷物の積みおろしを行なう。世界中のどこへ、いつ配船するかは用船者の任意であるから、航海に必要なバンカーオイルの手配やその費用、入港した港の港費は用船者負担となる。船主負担と用船者負担の分担は、「船を常に稼働させるための費用は船主負担」であるのに対し「航路や積み荷など用船者の要求で変動する費用については用船者負担」が原則である。なお船が事故や故障で不稼働になると、オフ・ハイヤーとなって用船料は不稼働の期間について支払われない。

5)航路選定や事故の責任
用船者は任意に彼らの指定の荷物を指定の量を積み、指定した港に指示したスピードで向かえと船長に指示書を出す立場である。ここで用船者には、指定の港および航海海域は紛争地域でないなど安全な場所に配船する事が求められる絶対条件となる。このような役割分担・費用分担を定めたチャーター方式(用船方式)を定期用船契約(英語ではTIME CHARTER)と呼び、広く世界で普及している船舶の貸し借り形態となっている。それでは今回のような海難事故や油濁事故は誰の責任になるであろうか。海事に関わる事件を裁くのは今も世界的に英法が準拠法となっており、英法は周知のように成文法でなく判例主義なので、定期用船下でのトラブルについては膨大な議論がこれまで尽くされてきた。しかし事故の最終責任者は船長の雇人たる船長にあるという原則から、安全海域である限り事故や航路選定に関わる事項は、定期用船契約下で船長(船主)に帰するという結論が明確になっている。船外に流出したバンカーオイルも用船者の資産であろうと、その管理に対するすべての責任は船長にある。この点について定期用船契約に使用されるNEW YORK海運集会所発行の標準様式(NYPE FORM1981版)には次の様に記されている。

Nothing herein stated is to be construed as a demise of the vessel to the Time Charterers. The Owners shall remain responsible for the navigation of the vessel, acts of pilots and tug boats, insurance, crew, and all other similar matters, same as when trading for their own account. 訳;本様式の記載事項は用船者への責任移転とは解されない。船主は本船の運航、タグボートやパイロット『が例え用船者手配であっても』の行為、保険手配や乗り組み員、その他同様の事項に船主自身が航海したものと同じ責任を負うものとする。(注:『』内は筆者加筆)

この項目はDEMISE条項と呼ばれ用船契約の責任事項に関して述べたもので、これによって海難・油濁事故の責任は用船者の指示の下の航海でも用船者たる商船三井ではなく船主・長鋪汽船にあることが明確なのである。なお本船は再用船として、例えば長鋪汽船ー商船三井のスキームから川崎汽船など他運航者に再び定期用船に出される(長鋪汽船→商船三井→川崎汽船=運航会社として荷主と輸送契約)こともしばしばあるが、その際でも事故の責任は船主である長鋪汽船である。道義的・社会的責任は別として法的には船主の責任は重いのである。

追記;ファンネルマークや船体のロゴは定期用船契約上、用船者(=運航会社)が任意に書き換える事ができる。WAKASHIO号のファンネルもオレンジ色の商船三井カラーであるが、これによって輸送責任や事故責任の重さが変わるなどの法的効力は一切ない。

長鋪汽船と商船三井間で締結されたであろう定期用船契約標準様式のサンプル

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2020年8月14日 (金)

WAKASHIOの座礁油濁事故を考察する

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オレンジファンネルの商船三井のバルカー

前立腺摘出手術のため7泊8日の入院をしていた。ダビンチによるロボット手術なのだが、かつての開腹による前立腺手術より入院期間が大幅に短縮されているそうで、1週間で無事に社会に戻ってくることができた。この辺りのことはいずれ落ち着いたら書いておこうと思う。その病室でテレビを見ていたら商船三井が『運航』するケープサイズバルカーM/V"WAKASHIO"がモーリシャス島で座礁して重大な油濁事故を起こしているとニュースが流れてきた。WAKASHIOは2007年に日本の造船所で竣工した重量トン(積載量)20万トン級の大型バラ積み船で、中国で揚げ荷をした後、次航の鉄鉱石積み地ブラジルのツバラオに向けてシンガポール経由インド洋をバラスト航海(空船航海)中の事故であったと報道されている。


ニュースによるとインド人船長のほかフィリピン人などが乗り組む本船は、マラッカ海峡を抜け喜望峰に向かう航海中の7月26日午後7時半頃(現地時間)に、モーリシャス島の東南ポワントデスニー(Pointe d'Esny)沖約0.9マイル(1670米)、ラムサール条約に登録された風光明媚な海岸で座礁したとされている。グーグルアースで確認すればすぐわかる通り、モーリシャス島はマラッカ海峡から喜望峰に向かうルートの上に当たっているが、海上保険の業界紙サイトによれば、本船は通常の航路よりモーリシャス島の陸地に近いところを航海していたという。このためモーリシャスのCOAST GUARD(沿岸警備隊または国によっては海上保安庁の役目を負う)より1時間前に亘って警告が為されているものの、船長は「問題なし」と答えコースを変えずに座礁したと同サイトは伝える。


船舶の座礁事故の場合は、ふつう潮が満ちるのを待ち(必要ならばタグボートなどを使って)離礁を試みるのでモーリシャスの潮汐表をチェックしてみた。すると座礁した7月26日は同島では17時35分が満潮であり、本船が座礁した19時半はまだかなり潮が高い状態だったことが分かる。残念ながらこの頃は、日々潮位が低くなっていく時期で、潮が高い中で座礁した本船の引き出し作業は、以後時間の経過とともに難しくなっていった事が想像できる。また潮汐表によると8月初めの満月で干満の差が大きくなり、引き潮時の潮位が低くなっていることもわかる。こういう時期にエンジンや燃料タンクがあり喫水が深い船尾部がサンゴ礁に深く食い込み動けなくなり、空船の船首部は滿ちる汐の浮力によって上向きに力が働いたと考えられる。船体の前部だけにかかる浮力に長さ300米の船体が耐え切れず亀裂が生じ、とうとう8月6日になって重油が流れ出したものとみられる。


それにしてもCOAST GUARDの警告にも関わらず、なぜ船長は沖に変針しなかったのかが大きな疑問点として残る。南緯20度近辺のモーリシャス島におけるこの季節の夜7時半なら、周囲は暗闇ではなかったはずだ。ましてや悪天候でない限り、右舷前方には町の灯やすぐ近く空港の光も視認できたと思われ、なぜ陸地に近いそのような海岸べりを本船が通過しようとしたのかが争点になるに違いない。私は当初このニュースを聞いた時に電子海図(ECDIS)の故障ではないかと思い、そういう不測の事態に対して外国人船員は天測や沿岸航海で船位を測定する訓練が十分でないことが事故の主因ではないかと思った。しかし続報によると当夜は乗り組員の誕生パーティが行われ、Wi-Fi(厳密にはLTEのことだと思われる)の繋がる沿岸の直近を狙って船長は走ったのでは、との疑いが出てきたそうだ。島影のない広いインド洋は一般乗組員がネットや電話に繋がる機会が少ないので、モーリシャス島接近をこれ幸いばかり、町の近くを航行したことも十分考えられよう。そうだとすれば何とも現代的な事故だといえる。


さて"WAKASHIO"は岡山県笠岡市にある長鋪汽船が実質的な船主である。江戸時代は瀬戸内の帆船、明治以降は内航機帆船で活躍し、今はもっぱら船主業専業者になっている長い歴史ある会社だ。船主業とは自らが資金を調達して本船を建造し、竣工後に船員の配乗や機器の保守点検、ドック手配その他本船が貨物船として機能を保持するために一切の整備手配(これを堪航性を保持すると云う)を行う業務である。今回の事故で巨額になるであろう油濁補償に対応するPI保険(船主相互責任保険)の付保や船体保険契約も船主である長鋪汽船の仕事であり、最後に船を売ったりスクラップにして帳尻を合わせるのも船主の専任事項となっている。この事故の責任は船主である長鋪汽船(またはそのダミー会社)にあるのだが、それは事故の最終的責任を負う船長が、船主の雇人であるという事実に由来する。


一方で商船三井は一定期間チャーター料(用船料)を払ってこの船を借り受け、荷主から預かった荷物を運送するだけで、同社が『法的』に責任を負うのは、荷主や積み荷に対しての部分のみである。空船で回航中のこの事故に於いては、商船三井の責任は次にブラジルから鉄鉱石を輸送予定だった荷主との関連のみに限定される。この仕組みを定期用船契約と云い、今回のような海難・油濁事故の責任は商船三井のような借主(用船者、運航者とかオペレーターと云われる)にはない。この責任分担は、長い間、世界中の裁判所や仲裁所で論争が行われた末に確立された明確なルールなのだが、事件を報じる我が国のメディアはこの辺りをよく分かっていないようで、商船三井にも事故の責任があるかの論調が散見されるのはおかしい。


もっともここ数年、商船三井が絡んだ事故はコンテナ船が折れたり、自動車船がひっくり返ったり、客船が飲酒操船で岸壁を派手に壊したりと、メディアが注目する大きな案件が多い。WAKASHIOのように船主から長期用船した船だけではなく、実質的に自社や子会社で管理している船舶の事故も多いと私は感じるのだが、こういった事故がおきるのは何らかの根本的な問題が同社に内在しているのかと訝しく思う。前述のように定期用船契約で借りた船の堪航性保持義務や海難事故の責任は、もっぱら船主に帰属するのが法的な建てつけとはいえ、商船三井もその船を使って荷主や乗客から運賃を収受するのだから、海上輸送業務で対顧客という点では事故に対する責任は残る。また上場会社として社会への説明責任や環境保護に対する責任もある。増加する運航船舶数(フリート)の下、同社にはもう一度安全管理体制や船主との関係を見直すことを求めたい。病院のベッドで商船三井のシンボルカラーであるオレンジ色ファンネルをつけたWAKASHIOの姿をテレビで眺めながら、そんなことを考えた。

2020年4月20日 (月)

ピースボ-ト・世界一周クルーズで2回目はタダ?

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一度ピースボートの運営サイトをクリックしたら、以後我がディスプレイ上にピースボートのバナー広告が上位に出てくるので苦笑している。そもそもピースボートは辻元清美という私が大嫌いな政治家が創始者の一員だった上、いまでも核廃絶運動などと係わりがあり、船上では「原発反対」やら「九条を考える」など怪しげな人たちの集まりもあるらしい。もし乗船したら、船内のあちこちでサヨクやリベラルと云われる人達と大喧嘩をくりひろげそうだから、料金にかかわらず乗船する気はまったくない。それでも飛鳥Ⅱなどで知り合った友人のそのまた友人などにはピースボートに乗船した経験者もいて、船上でのさまざまな話を漏れ聞くこともあるので、ふとサイトを覗いてみたものである。


このネットのバナーにはしばらく前まで、2020年夏からピースボートが催行するOCEAN DREAM号かZENITH号の何本かの世界一周クルーズ料金を4月30日までに全額支払えば、つぎの世界一周は無料で乗船できるというキャンペーンが繰り広げられていた。すなわち1回目のクルーズ料金を早期に全額支払えば、もう一回はただで世界一周できますよ、というなんとも破格のサービス提供である。私はこれを見た瞬間に「すごい企画だ!」というより「話がうますぎる」と直感し、よほどピースボートは資金繰りに困って目先のキャッシュが欲しいのだろうと思っていた。


そもそもピースボートは週刊文春の2019年2月7日号で「570億円豪華客船計画が座礁」とたたかれた事がある。当時ピースボートは画期的なエコシップを北欧の造船所で建造、2020年に就航させるとして乗船客を募っていたが、金を集めるだけで本当に計画が進展しているのか疑問を呈した記事であった。それから1年余り、今やエコシップの話はまったく聞こえなくなり、代わりにプルマントゥールクルーズにいた船齢18歳のZENITH号(4万8千トン)をピースボートがチャーターし、従来のOCEAN DREAM号と2隻体制で世界一周クルーズを催行しようとしていた矢先である。「エコシップ」なり「2度目はタダで乗船」なり、ピースボートは世間が驚く計画をぶち上げては金を集め、事業継続資金に充当するという自転車操業を繰り広げているのではないかと私には映る。


と思っていたら、4月15日に神奈川新聞のサイトにはピースボートが「クルーズ中止で返金トラブル」という記事が掲載されている。周知の通りここに来て武漢ウイルスのために世界のクルーズ事業は中断し、ピースボートも予定していた4月9日発の第104回世界一周クルーズがキャンセルとなったが、この代金返済に対し問題が生じているとの記事である。それによると一人139万円~395万円の返金に対して、「安定した経営のため」3年分割払いで払い戻したいとする書簡が、乗船予定者に届いたとされている。顧客からの反発や日本旅行業界の指導もあり、ピースボートは「旅行業約款を順守する。3年間の分割はお願いで、顧客とは個別に対応している」と取材には答えている。ただクルーズ船ビジネスの再開めどはたっておらず、すでに長期でチャーター契約している2隻目のチャーター料も支払い義務が生じるのだろうから、どうやって彼らはこの苦境を乗り切るつもりだろうか。主義は合わぬが海の友としてクルーズは頑張って続けて欲しいとも思う。辻本さんは助けてやらないのか?


リンク
ピースボートのエコシップ(2019年2月6日)

2020年4月19日 (日)

クルーズ船の感染対策

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カリブ海のクルーズ船メッカ、ナッソーにて(2011年6月)

武漢ウイルスでは関係者の必死の努力をよそに、生かじりの知識でここぞとばかり勝手な持論を述べるコメンテーターや評論家がネットやワイドショーで跳梁跋扈し、批判の為の批判を繰り広げるさまにあきれるばかりだ。最近はバカらしくなってテレビもほとんど見なくなった。こんな時には武漢ウイルスが収束し、不安なしに国内・外の旅行に出かける日が来るのを夢見ることにしている。もっともクルーズ船は、いまアメリカのCDC(疾病予防管理センター)から100日間の運航停止措置が講じられているが、この騒動が収まり運航再開となっても、これまでと同じようにビジネスを続けられるだろうか大きな不安が残る。ダイヤモンドプリンセスでの集団感染が記憶に新しいなか、その後もオーストラリアやアメリカでクルーズ船で同じ問題がおこり、そのうえアメリカやフランスの空母で乗り組み員の集団感染が報じられると、フネが感染に弱いという認識が世界中に広まるのではなかろうか。


これまでもノロウイルスやSARSによる感染危機を乗り越えてきたクルーズ船業界である。ただ今回の騒動のインパクトの大きさや世界中に汚染が広まってしまった事を考えると、クルーズ船の主たる顧客である高齢者の中には、乗船をためらう者も多くなるのではないか。考えてみれば武漢ウイルス騒動が始まるまでは世界の海域でクルーズブームがおこっており、欧州の新造船ドックは2023~2024年までは建造予約が一杯、その後の契約についても商談が進んでいた。しかし現在の苦境と、運航再開後も元に戻るには相当の時間がかかるという想定から、すでに一部のドックと船主の間ではとキャンセル交渉が始まっていると伝えられている。航空機と同様に数百億円の動産を整備し、それが稼働しないという地獄が船主に待っているかも知れないのだ。現にここ10年間、次々と巨大クルーズ船を就航させたアメリカのメガクルーズ船会社は、いま資金繰りにいろいろな算段を始めていると報じられているが、クルーズと云えば「不要不急」の代表的な業種だから、充分な援助などを得るのはそう簡単ではないだろう。


我が日本船もしばらく運航を休止しているが、飛鳥Ⅱやにっぽん丸は上場する老舗大手海運会社の連結対象子会社である。資金繰りについては当面問題なかろうから、こちらは事態の進展待ちで静観といったところだろうか。ただ運航を再開した後に、これまでのようにリピーターの高齢者層が心配なく乗ってくれるのかやはり疑問は残る。もっともピンチの後にはチャンスありで、以前にも書いたように、欧州の客船建造ドックには新造船キャンセルによる空きが相当出てくるだろうから、安い船価で飛鳥Ⅲや新にっぽん丸をつくるチャンスの到来とはいえよう。クルーも世界的に余剰になろうから、船員費も抑えられる事が期待できるし、船用品や船食もしばらく安価に買えることだろう。原油安からバンカー(船舶用重油)も、かなり安い水準で推移している。石橋を叩いても渡らないような安全策オンリーでチャレンジしない事が日本の経営者の常となったが、10年・20年後の隆盛を目指して、この機会に外国の大手クルーズ会社に出資やら提携する事くらいは模索したらどうだろうか。


さて今後、乗客の不安を解消し、クルーズビジネスを再び興隆させるには、まず空調システムの見直しが必要ではないだろうか。これまで大型客船の換気システムは外の空気を取り入れるとともに、内部でも空調機を介して船内の空気循環を行っていた。プリンセスクルーズでは、その割合はキャビンでは30%が外部からの空気で70%が内部循環、パブリックエリアでは50%、医務室や厨房では外気取り入れが100%だそうで、このようなシステムが船内の集団感染に結び付いたのだと思われる。飛鳥Ⅱなども似たような割合で空調が設置されている事だろう。一説によるとプリンセスクルーズでは今後外気を取り入れる割合を増やすそうだが、これから建造される新造船では外気の取り入れを大幅に増やしたり、船体の各部で空気の遮断や取入れに関して分散管理ができるように設計変更が行われれることが求められるよう。また内側の窓なしのキャビンを少なくし、バルコニー付きのキャビンを極力増やして各自が任意に外気に触れることができるようにするなどの対策も考えられる。クルーズ船のビジネスを継続させるため船級協会や関係機関の速やかな感染対策がのぞまれる。

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ローマの玄関口チビタベッキアのクルーズ船)(2018年4月)

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