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2024年11月 5日 (火)

”にっぽん丸”「神戸/横浜クルーズ」と”飛鳥Ⅱ”「博多発着 秋の連休 ウイーンスタイルクルーズ」連続乗船記

にっぽん丸伝統のローストビーフ
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この一週間で、”にっぽん丸”と”飛鳥Ⅱ”の2隻のクルーズ船を乗り継ぐ旅をしてきた。まず10月29日から2泊の”にっぽん丸”による「 神戸・横浜クルーズ」、続いて11月2日から2泊の「 博多発着 秋の連休 ウイーンスタイルクルーズ」の連続乗船である。 都内に住んでいながら、なぜ神戸や博多までクルーズ乗船のために出かけたかの理由は紙幅の都合により割愛するが、時を経ずして日本の代表的客船2隻による、無寄港ショートクルーズを経験できたので、思いつくまま気づいた両船の相違点を挙げてみたい。今回の2クルーズとも定員一杯の満船状態で、食事やイベントはすべて2回制、特に”にっぽん丸”は、例によって旅行社による団体ツアーの片道乗船者が多数と云う船内光景であったことをまずは付記する。


船体の大きさや設備などの物理的な面はさておき、両船の一番大きな違いは、クルーと乗客との間の「距離の差」であろう。”にっぽん丸”では正にソーシャルディスタンスとでも言うべき「適度な距離感と緊張感」がクルーと乗客の間にあるのに対し、”飛鳥Ⅱ”ではその距離がはるかに近いと感じた。まずはタガログでの会話を例に取ろう。乗客へのサービスクルーは両船ともほとんどがフィリピン人なので、我々も日ごろの挨拶や簡単なコミュニケーションには、数少ないボキャブラリーながらなるべくタガログ語を使うようにしている。「お元気ですか」に始まり「おはよう」「こんばんは」など時間により1日で4回ある挨拶言葉、ご飯やみそ汁、サカナなど食事の名前、数詞、「多い」「少ない」「ちょうど良い」の他、「ありがとう」「問題ない」「どういたしまして」「これは終わりました」など、狭い船内で顔を合わす彼らとの会話をちょっとしたタガログ語で行えば、それは良き潤滑油になると思っているからだ。


”飛鳥Ⅱ”では彼らフィリピン人クルーは遠くからでも我々を見つけるや、「○○さま~」と、恥ずかしくなるほど大きな声と笑顔で手を振ってくれることが多い。時々乗船するとは云え最近は年に2~3回しか来ないのに、みな良く名前まで覚えてくれるものだと、つい嬉しくなってこちらも笑顔になる。いくつかの船内のバンドは、私がかつてリクエストした曲目を覚えており、顔を見ると黙っていてもお気に入りを演奏してくれるのも嬉しい。拙いタガログ語で何かを頼めば、タガログでちょっと難しい返事が返ってくることもよくあり「え、ちょっと待って、それはどういう意味?」などと語学講習のように会話が弾むこともある。要は”飛鳥Ⅱ”のフィリピン人クルーが人なつっこいのである。これに対して”にっぽん丸”では、我々がタガログで挨拶しても、意に反して日本語で「こんにちは」と却ってくるケースがほとんどだ。”にっぽん丸”の神戸/横浜クルーズ中、こちらのタガログ語での挨拶に、フィリピン人クルーからは、タガログ語による返事が僅か1回あっただけだった。それも何とも恥ずかしそうな小さな声で。ここでは日本人の乗客はタガログなど喋らないとの先入観があるのか、彼らにはとっさに脳内回路が切り替わらないと云うように見える。同様に日本人クルーについても、様々な場面で”飛鳥Ⅱ”の方が、乗客との距離感が”にっぽん丸”より近いことを感じる。


顔見知りの”にっぽん丸”のクルーズコンシェルジュの話では、先年フレンドシップを謳い文句にしていた”ぱしび(ぱしふぃっく・びいなす)”が運航をやめ、同船のクルーが転職してきてからは、それでもかなり船内の雰囲気が変わったとのことだ。彼女の話によれば 元”ぱしび”から転職したフィリピン人クルーが”にっぽん丸船上”で以前の乗客に再会し、派手にハグして喜びをわかちあった時には、従来の”にっぽん丸”の雰囲気にはないものと船内びっくりしたと云う。それを聞くと”にっぽん丸”では、良き意味でクルーは乗客との間に「適度な距離感と緊張感」を保つことを伝統としてきたことがうかがえる。”ぱしび”と”飛鳥Ⅱ”クルーのフィリピンでの養成機関は同じソースである。久しびりに再会したクルーと馴染み客のハグぐらいは、飛鳥Ⅱではそれほど珍しいとも思えない光景だが、サービスをプロバイドする側と受益者の間のやや放埓に見える関係は、従来の”にっぽん丸”の伝統からすると奇異に見られるのだろう。そんな馴れ馴れしさに眉をひそめる古くからの”にっぽん丸ファン”は多いものと思われる。ただ乗客とクルーの距離間は「文化」の問題であり、どちらを好むかは人それぞれである。”にっぽん丸”乗船は最近は年に一度あるかないかなので、頻度の差が出るのは致し方ないが、私個人としては、目を逸らしてまで距離を保つかの慎ましやかな”にっぽん丸”よりも、陽気な笑顔の”飛鳥Ⅱ”の方が居心地が良く感じられる。


食は”にっぽん丸”ということである。2泊クルーズの2晩目には、本船名物の大きなローストビーフが(約150グラムくらいか?)供された。目玉料理とあってこれまで食べたローストビーフに中でも、最も美味い部類に入るものだった。さて毎回”にっぽん丸”の乗船時にアンケートにも記しているが、今回もダメ元で、日本人男性ウエイーターに 「これ美味しいね、お代わりできない?」と質問をしてみた。案の定  「それはちょっと」とすげない彼の返事。「なぜ?」と尋ねると「 人数分しか用意していないので」とこんな質問するな、とも言いたげである。「飛鳥Ⅱではお代わりどうぞっていつも言ってくれるよ。またあちらではメニューに1~3までチョイスがある際には、1x2つでも、3つすべて選んで頂いても結構ですと云うけど」「 ローストビーフは切ればすぐ出せるので問題ないでしょ。そういう声があったと上に伝えておいて」とお決まりの文句をぶつけた。どうせ無視されるであろうことは予想されるも、”にっぽん丸”が少しでも良くなるようにと、暴走老人にならない程度に穏やかな怒りの表現である。対して「ウイーンスタイル」の飛鳥Ⅱは、2晩めは「銀座ハプスブルグ・ファイルヒエン」のオーナーシェフによるオーストリア伝統料理と、こちらも豪勢な晩餐を楽しめた。以前、”飛鳥Ⅱ”で同じ様なスペシャルディナーが出された際に、「 あんまりうまいのでメイン皿のお代わりできる?」と聞いたところ「まだ出せるか数を確かめてきます」と厨房をチェックしてお代わりを出してくれた。余裕があれば乗船客のリクエストに応えようとする”飛鳥Ⅱ”と、公平性と規則を重んじて人数分しか出しませんという”にっぽん丸”の違いである。

どちらかと云うと杓子定規な”にっぽん丸”の食事と、現場の裁量がある程度許されている”飛鳥Ⅱ”ダイニングには間違いなく文化の差異はある。

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シュヴァイネ・ブラーテン(ローストポーク)と銀座ハプスブルクの神田シェフ

2024年10月 9日 (水)

飛鳥Ⅱ 秋の3航海乗船記 (番外編)

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因島大橋をくぐって航海は続く

「飛鳥Ⅱ」の少し長めのクルーズに乗ると、いつも乗船している本船お馴染みの乗客の方々を見かける。彼らのなかには「旅行社には1週間以上のクルーズは全部押さえておいてと頼んでいるよ。キャンセルならいつでもできるから」という猛者もいれば、常時スイートを利用して「飛鳥Ⅱ」にとっては上得意のシニアもいる。しかしふと気が付くと、これら常連さんの中には最近見なくなった顔もある。「そう云えば、あの方は最近どうしているか知ってる?」と物知りの船友に尋ねると、「Aさんは病気で船に乗るどころではないようだ」、「ダンスの上手だったBさんも身体が不自由になって大変らしい」とか「Cさんはガンの手術をしたばかり」などとの話である。いつもキレイに化粧し一人で乗船していた女性が、この1年の間に亡くなったと聞くと、元気だったその笑顔を思い出し、もう彼女と船上では会えぬのかと不思議な気持ちになる。


こういう話を聞くにつけ、長期のクルーズに乗船するということは、まず健康に問題ないことが必須条件であることを改めて実感する。さらに身近に介護が必要な人がいないとか、自分の会社が倒産しそうなどという社会的問題がないことも必要だ。2011年に初めて世界一周クルーズに出た際には、ソマリア沖の海賊問題で航路が変わった上に、出発3週間前に東日本大震災があった。この時は「飛鳥Ⅱ」は通常の約款を変えて、出発直前でも乗客のキャンセルに対して無条件で全額料金を返却したが、天変地異や大きな事件がおきないことも長期クルーズ実現には欠かせない要件である。また新たな感染症の蔓延がない事やウクライナ、中東の戦乱が世界的規模に拡大しないことが、言うまでもなくクルーズの安全な催行のために求められる。シナの台湾進攻が近いと最近よく云われるが、目先でそのような事態が起これば日本近海でのクルーズ事業は多大な影響を受けることになるだろう。


などと考えると仮に金銭的に余裕があったとしても、退職したシニア世代が、長期に亘るクルーズ船の旅に出るというのはなかなかハードルが高いことになる。あらためてわが身を振り返れば、きわめて幸いにも今は大きな障害はなさそうだ。今回の10泊中には偶然にもグリーンフラッシュを見ることが出来たし、上げ膳、据え膳、露天風呂の毎日という波枕で、下船してみると又すぐに海の上が恋しくなってきた。我々には第二の我が家のように感じる飛鳥Ⅱも老齢船となっていつまで現役でいるのか分からないし、来年就航する飛鳥Ⅲは乗客一人一泊当たりの単価が1.5倍以上になるとのこと。飛鳥Ⅲは主に富裕層とインバウンド客を対象にしているそうなので、そうなると飛鳥Ⅲで長期クルーズに出ることは難しくなりそうだ。あれこれ考えると、思い切って2025年の「飛鳥Ⅱ」世界一周クルーズに行ってしまうかとの気持ちが益々強くなった。人生は楽しめるうちに楽しんでおかないと、これから先も何が起こるかわからないと理由づけを自分にして。


露天風呂から眼前を流れゆく夕陽の多島美を眺める至福
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2024年10月 7日 (月)

飛鳥Ⅱ 秋の3航海乗船記 (4) 「爽秋の神戸着発、瀬戸内 九州・松山クルーズ」 瀬戸内海 と「秋の神戸・横浜クルーズ」(完)

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今回持参した「クルージングマップ瀬戸内海」をビスタラウンジで広げ、日がな瀬戸内海の航海を楽しむ

「飛鳥Ⅱ」は松山港の岸壁で一泊し、翌朝は瀬戸内海の昼の終日航海に出港した。松山港を出た直後には、エンタメクルーによる「瀬戸内ホッピング」なる航路紹介の催しがハリウッドシアターで開かれ、これからの一日、どのような風景が眼前に広がるか期待を高めてくれた。以前、2021年秋の飛鳥Ⅱ 「秋の瀬戸内航行 土佐クルーズ」乗船の際には、船長の航路解説が少ないのが不満だとここで述べたとおりだが、乗船アンケートにも記したその声が届いたのか 「瀬戸内ホッピング」は航行する瀬戸内海の見どころ、特に通過する橋梁を中心に、やや稚拙ながらもコンパクトにポイントを纏めた好企画だった。


と云っても我々には瀬戸内海は、これまで幾度となく訪れた馴染みの地域である。多くの乗客の興味は因島大橋、本四架橋、明石海峡大橋の通過にあったようだが、それだけでなく、我が国有数の工業地帯であるこの地域の重要性や海上交通の実際などは人々の重大な関心事に違いない。その証拠に船の最前部であるビスタラウンジ前デッキでは、終日かなりの数の乗客が、次々と周囲に展開する造船所や工場の風景を語りあっていた。いつもこの種クルーズ乗船の際には、通過する橋だけでなく瀬戸内各地に点在する寺社仏閣、村上水軍などの存在、北前船の寄港地、いかなご漁の実際や工業コンビナートの活動など、この海にまつわる多彩な歴史・地誌をもっと詳しく案内するサービスがあったら良いのにと思っている。この点で印象深いのは2022年5月「にっぽん丸の『門司発着 海の京都 舞鶴と佐渡島プレミアムクルーズ』」で経験した、クルーズディレクターによる詳細な沿岸の説明であった。クルーズは大人の校外学習の場でもある。今後「飛鳥Ⅱ」も「にっぽん丸」のような解説サービスを是非検討してもらいたい。


さてクルーズと云えばダンスとなる。西洋かぶれとのそしりは受けようとも、ふだん陸上では味わえない非日常を船上で楽しむのもクルーズの愉しみである。今回のような短いクルーズでも、人気の「社交ダンス教室」は午前と午後2回、毎日のように開かれたが、いつも女性の参加者が多く男性が少ないのが悩みの種。ということで「社交ダンス教室」には、妻を差し置き、先生のお手伝いも兼ね、私一人で参加する日が多かった。自分としては初心に返り、ステップ再確認の気持ちもある。そしてクルーズ中の晩は食後の運動も兼ね、妻と二人でほぼ毎日ダンス会場に繰り出した。


船上ではCDと違い生演奏、それもバンドによって演奏の時間や音楽の種類、テンポなどが異なっており、それがダンス上達のためには役立つ気がする。他のカップルたちの間を縫って踊るのも、レッスンだけでは味わえない試練である。かつてはよそのご婦人と組んだり、女性の先生と踊ったりするのが気恥ずかしくてなかなか出来なかったのだが、苦節ウン年、最近はようやく他人と踊る度胸もついてきた。妻と組むと、本当はルール違反の「ここでキック」「あの回るヤツ」など「言葉のリード」でごまかすこともあるのだが、知らない女性とはそうはいかず、分かり易くリードするコツも学ばねばならない。それにしてもサンバなど人があまり参加しない種目で、他人の視線を浴びるのが誇らしげに感じるとは、いったい何という我が心境の変化だろうか。かつては 「あんなもの誰がやるものか!」と嘘ぶいていた社交ダンスだが、人は変われば変わるもので、これもクルーズの成果の一つである。


3航海連続乗船の最後は、神戸発横浜着2泊の片道クルーズであった。予想どおりクラブツーリズムなど旅行社主催による”豪華客船と箱根宿泊プラン”のような片道グループ客が多数乗船した他、60名と30名の大口団体客も乗り合わせることになった。この航海も800名ほどの船客のうち、80%以上が初乗船との事である。セイルアウエイでデッキ上にてバンド(ナマナ)の前で定番のお約束のダンスを好き者有志で踊っていると、今回も例によって動物園で珍しいものでも見るかのように遠巻きにスマホを多数向けられた。初乗船客が多い時は 「一緒にやりましょうよ」と彼らに呼びかけてもなかなか輪に加わってくれず、スマホの被写体になるばかりなのだが、旅の恥はかき捨てとあって、楽しんでナンボ、金を払った分は自ら大いに踊ってエンジョイしなければ損である。


その60名の団体は、美容師の組合だそうで若い人たちが多く、2回目の夕食ではフォーシーズンダイニングの中央部を陣取り、夜おそくまでアルコールの注文がひっきりなしと云う盛りあがりであった。「飛鳥Ⅱ」というよりは「伊東のハトヤ」か「熱海の後楽園」の宴会場か、というノリで 「うるさくて閉口した」という友人もいたが、私はこういう盛り上がりもたまには良いものだと賑わいを楽しんでいた。飛鳥クルーズも来年には飛鳥Ⅲが就航し、飛鳥Ⅱと2隻体制になる。2隻でどのような違いを打ち出し集客を展開するのか、佐伯の体験型ツアーやこの美容師団体の乗船など、船側の様々な試みを垣間見た3航海連続乗船の旅であった。

橋の下をくぐるだけでなく点在する造船所などを見るのも瀬戸内航行の楽しみ・今治造船広島工場(旧幸陽ドック)
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「秋の横浜・神戸クルーズ」で飛鳥Ⅱの神戸港出港をアシストしたのは2014年「働くタグボートの世界:神戸”布引丸”」で乗船した布引丸だったのは奇遇
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2024年10月 6日 (日)

飛鳥Ⅱ 3航海乗船記 (3) 大洲観光と貸切観光列車 『伊予灘ものがたり』

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大洲の名所 臥竜山荘より肱川を臨む

3連続乗船の2航海目、その第4日目に飛鳥Ⅱは四国・愛媛の松山港に入港である。松山では 「 『伊予の小京都』大洲観光と貸切観光列車『伊予灘ものがたり』(軽食付)」の寄港地観光ツアーに参加した。かねてよりJR四国の観光列車 「伊予灘ものがたり」に乗り、海の彼方に沈む夕陽を見る駅、下灘駅を訪れたいと思っていたから、飛鳥Ⅱからこのツアーが出るとはもっけの幸いだ。その上、かつての城下町のおもむきを色濃く残し、最近は旅行会社のパンフレットなどでも紹介される大洲の町の見学まであるので、迷わずこのツアー参加を決めたものである。以前「"さんふらわあ きりしま”昼の瀬戸内感動クルーズ」で宮崎県の飫肥城を訪ねたように、個人ではなかなか訪れる機会のない隠れた名所に連れて行ってくれるのが、船による寄港地発のツアーの楽しみである。下船して貨切バスで一時間、その大洲の町を案内してくれた地元ガイドさんは、なんと本職が現役の市会議員であった。彼の口から語られる地元愛に溢れる解説で、町の名所や歴史だけでなく、財政や防災の話なども触れることができ、地方行政の一端を垣間見るような印象深い見学であった。


大洲観光を済ませ、いよいよ予讃線の八幡浜駅から松山駅行 16時14分発の観光列車「伊予灘物語」に乗車である。この列車はふつうは週末のみの限定運転なのだが、この日は日曜日にも関わらず、飛鳥Ⅱ貸し切り専用列車となって一般への切符販売は行われていなかった。ツアーの参加者は約50名で、JR四国の営業社員が飛鳥Ⅱを降りる時から貸し切りバスに同乗し、クルーズと列車のコラボに力を入れている現況を説明してくれた。「(JR九州のようには金のかけられないJR四国としては)水戸岡鋭治さんの内装という訳にはいかないが、社員が知恵を出し合って作った列車です」とはバス車内でのJR営業マン氏の話である。八幡浜駅に入線した「伊予灘ものがたり」専用列車は、キハ185形を改造した3両編成車両で、外観は夕陽に映えるような黄色に赤色系塗装が施されている。内装も観光列車として十分に改装・整備されており、個人的にはこれでもかとの木目調で凝った水戸岡デザインより好感が持てるものだった。


もともと「伊予灘ものがたり」は、この種の観光列車に多いキハ47形の改造車が充てられていたが、2022年より特急用の車両だったキハ185形に置き換えられている。枕バネがコイルだったキハ47に代わり空気バネになって乗り心地が改善された上、電源が大幅に強化されて使いやすくなったことをJR営業マン氏は説明する。八幡浜を出発して間もなく車内で出されたサンドイッチやスイーツなどのアフターヌーンティーを楽しむうち、ほどなく列車は予讃線の海岸廻りの線路に踏み入れる。予讃線の大洲駅-向原駅間は短絡ルートである内陸の内子線を優等列車はじめ多くの列車が利用するため、私としても海辺を走る本線列車へ乗るのは初めての経験だ。例によって各駅では地元の熱心なお出迎えが続くなか、ハイライトの下灘駅ではホームに出てゆっくりと夕陽を眺める時間がとられる。下灘駅では雲が多かったが、伊予灘に差し込む夕陽を楽しんで2時間余り、「伊予灘ものがたり」は、正にこの日に高架化されて賑う新しい松山駅のホームに滑り込んだ。クルーズ船に乗船すると、普段はなかなか実行できない旅が実に容易に味わえて良いものである。(続く)

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伊予灘ものがたり キロ185

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下灘駅から夕陽を見る

2024年10月 4日 (金)

飛鳥Ⅱ 秋の3航海乗船記 (2) 爽秋の神戸着発、瀬戸内 九州・松山クルーズ

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摩耶山から飛鳥Ⅱを望む

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ご飯が見えない豪華なローストビーフ丼

3航海連続乗船の今回のクルーズ旅行は晴天続きで、秋というのに台風も来ず、海も凪いで絶好の航海日和に恵まれた。最初の2泊、「秋の横浜・神戸クルーズ」の旅行会社による企画旅行に参加する大勢の乗客は、神戸に到着した日の朝に下船した。その日の夕方の出港までは何をしても良いのだが、船内に残る40名ほどの乗り継ぎ客には、昼食としてダイニングでローストビーフ丼が用意された。このどんぶりは、これまでの人生の中で経験したうち最も量の多いローストビーフがテンコ盛に載せられたもので、テーブルを前に妻と共にしばしその豪華さに感激していた。思い返せば2023年6月に「にっぽん丸」に連続乗船した際に那覇港に於いて、乗り継ぎ客には朝9時から午後3時まで、食事はおろかコーヒー一杯のサービスもしないと云われてひどく閉口したことがあったが、「飛鳥Ⅱ」ではこれとはまったく対照的なサービスである。「にっぽん丸」には組合との協約やら就業規則の縛りなどいろいろ問題はあるのだろうが、同じ日本船でも「飛鳥Ⅱ」のサービスはやはり秀逸だと評価したい。食いものの恨みは怖ろしいのである。リンク:にっぽん丸「横浜/奄美/那覇クルーズ」3泊+「飛んでクルーズ沖縄Aコース~与那国島・西表島~」3泊 連続乗船 (2023年6月25日)

 

昼食を摂り、神戸では市バスと阪急電車を利用しケーブルカーとロープウエイで60年ぶりに摩耶山に。この日も神戸の町は30度を超える暑さだったが、秋の気配漂う山上から遥か眼下の「飛鳥Ⅱ」を展望し、イベントもなくゆったりと時間が過ごせる乗り継ぎの良さを味わうことができた。神戸港からは主に西日本からの客を乗せて、飛鳥Ⅱは6泊の「爽秋の神戸着発、瀬戸内 九州・松山クルーズ」に向かう。2航海目も700名以上乗船の満船状態で、コロナ後の旅行需要の盛り上がりを感じさせる賑やかな船内の雰囲気となった。乗り継ぎと云えば、夕食のメニューは原則として前の航海と同じパターンのものが繰り替えされるため、乗り継ぎ客には「トランジットメニュー」と称しアペタイザーなどの一部が変更になった特別メニューが供される。食事はこれで良いのだが、定番ビンゴゲームも、航海ごとに10日間で3回開催されることになる。妻は2人で行かなければビンゴのボードも2枚もらえないと、毎回「もう飽きた」といやがる私を急き立てるのでこれもとうとう3回皆勤となってしまった。自分用のボードは妻に渡して読書しながら一応黙って座っているうち、末等の方のチョコレートが一回当たり、彼女は「ね、参加しなければ何もない、参加すれば少なくともチャンスがあるものよ」と嬉しそうである。


2航海目の「爽秋の神戸着発、瀬戸内 九州・松山クルーズ」は鹿児島、佐伯、松山と3港に寄港し、最終日は「飛鳥Ⅱ」お得意、三原瀬戸経由で瀬戸内海の多島美をゆっくりと味わって神戸に帰る6泊の旅程である。まず神戸から四国沖をまる一日走る航海日をはさんで、最初の寄港地・鹿児島では、自分たちで、桜島フエリーに乗って桜島港を訪れることにした。ここ桜島はまだまだ青年期の活火山とあって、元気に噴煙を上げ爆発を繰り返す山の様子をビジターセンターで勉強することができる。博物館などこういう施設にツアーで来ると、集合時間が早すぎてゆっくりと解説や映写を見ることができない場合が多いが、桜島は鹿児島の中心からフェリーで10分とあって気軽に自分たちで訪れることができるのが便利だ。その後はフェリーで鹿児島へ戻り、薩摩藩藩主・島津氏の別邸だった仙巌園を見物した。ここは庭園も立派だが、何と言っても目を見張るのは幕末から明治にかけてこの地に、鉄をつくる反射炉や紡績工場、水力発電などの設備を島津氏が興したことだ。折しも東京では自民党党首選とあって、幕末の志士や当時の指導者にくらべ、今の政治家や実業家の志の低さにしばし暗澹とさせられる気分になってきた。


翌日の佐伯港はクルーズ船の初入港とのことで、町を挙げての大歓迎が印象的であった。佐伯にはかつて仕事で何回か来たことがあったので、今回は 「 フェリーで渡って大入島サイクリング」 というちょっと変わった趣向の寄港地ツアーに参加することに。事前の案内によるとこのエクスカーションは「 健脚向け 」とはあるが、飛鳥Ⅱの 「健脚 」は普通なら「一般」か 「らくらく」の部類なので、そのつもりで参加するとこれがどうしてどうしてハード。佐伯湾内にある大入島という島内の道路10キロ余りを電動自転車で回るツアーで、元気なガイドを先頭に時速15キロ~20キロで突っ走る本物の「健脚」コースであった。私や妻はエクササイズも兼ねて電動アシストは使わなかったため、結構な運動になったのである。途中、地元食堂でのアジフライや「 漬け」(この辺りでは「りゅうきゅう」と呼ぶらしい)の昼定食、島のおばちゃん指導の草木染の体験もあり、6時間にも亘るローカル色満点、かつ極めてリーズナブルな料金設定の楽しいツアーであった。名所・旧跡を巡るいわゆる観光とは大違いだが、地元の勧めもあって飛鳥Ⅱとしては初めてこの種の体力型体験イベントを催行したとのことで 時代に合わせて少しづつクルーズの中身も変わっていることを実感するエクスカーションであった。(続く)

仙巌園から桜島を臨む
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飛鳥Ⅱ初の体験型健脚イベント大入島サイクリング
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2024年9月26日 (木)

飛鳥Ⅱ 秋の3航海乗船記 (1) 秋の横浜・神戸クルーズ

今春のグアム・サイパンクルーズ以来、半年ぶりに飛鳥Ⅱに乗船中である。「爽秋の神戸着発、瀬戸内 九州・松山クルーズ」料金が飛鳥クラブ会員は3割引きになるので、これに前後2泊ずつの「秋の横浜・神戸クルーズ」「秋の神戸・横浜クルーズ」を繋げ、計10泊のクルーズ旅行にしたものだ。と云っても前後の2泊クルーズは、「豪華客船の旅」などと銘打ち有名温泉や新幹線と組み合わせたパック旅行用に旅行会社に販売が依頼されたため、6月ごろに予約した時点では、ほとんどの客室が満杯状態。希望のDバルコニーが確保でき、全部で10泊すべての予約が完了しましたと連絡があったのは、これらパック旅行の予約も固まった8月になってからのことだった。武漢ウイルス騒動も終わり、中高年の旅行ブームも再燃というところである。


と云うことで、最初の「横浜・神戸クルーズ」の乗船者はなんと870名の定員一杯。今まで我々が経験した中では一番多い乗客数である。そのうちなんと84%が「飛鳥Ⅱ」初乗船であり、神戸で下船後は城崎温泉や有馬温泉へのツアー、西日本から乗船客は鎌倉巡りなどを楽しんだ後の帰路に飛鳥Ⅱ利用とのこと。手荷物には鎌倉名物の大量の「鳩サブレ」があったことをクルーが教えてくれた。2回制のダイニングも、ほぼすべてのテーブルが埋まり、ウエイターたちが忙しそうに給仕をしている。と云っても船内どこも混雑ということもなく、いつもと同じようにゆったり過ごせるのが、この船の良いところ。初乗船の人たちの行動を予測し、それと反対のことをすればよい。例えば夕方のショーの時間には多くがハリウッドシアターに詰めかけるので、その時間に露天風呂に入れば湯舟でゆっっくりと手足を伸ばすことが出来る。とにかく勝手知ったる船はらくちんだ。


旅行会社によっては社交ダンス上手な添乗員が引き連れたダンス好きの一団もあり、夜のクラブ2100のダンスタイムも結構な賑わいである。東京など大都会でもダンス会場が減っている昨今、生バンドでダンスができます、というのが愛好者向けの格好の旅行プロモーションになるはずだ。もっとも同じツアー客同士の交流というのはほとんど見られず、ディナーの席は、総じてよそよそしい雰囲気が感じられた。初乗船者がほとんどということなら、こうなるのもやむ無しか。さて、久しぶりの10泊のクルーズである。こちらは早速、図書室からまだ読んでいない宮本輝全集の第11巻「海辺の扉」を借り出して、少し読んではうたたねを繰り返している序盤である。これまでのところ天気晴朗、外はまだまだ暑いが海上の風はほほに気持ち良い。(続く)


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ビンゴ会場のアリウッドシアターは早々に満席になり、もう1つの会場ギャラクシー会場もほぼ満員に

2024年9月 7日 (土)

飛鳥Ⅱ 2025年 世界一周クルーズ 乗船説明会に参加して

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さて飛鳥Ⅱ2025年世界一周クルーズ説明会参加である。これは運航会社である郵船クルーズが、8月~9月にかけて日本各地で飛鳥Ⅱ2025年世界一周クルーズ乗船を 『ご検討中の方向け』に行うもので、昨日は東京駅前のKITTEで開催された。世界一周クルーズの内容は大体分かっているので、暑い中をわざわざ出かけるのは億劫とは思ったが、これが契機となってまだ逡巡する気持ちを「 エイヤ!」と振り切り 「よし、行くか」との意欲に一気に火がつくかも、と考えて会場に足を運んだものである。例えて言えば、クルマを買い替える際に迷っていても、実際にディーラーに行き、実車を目の前にしながら話を始めると一気に購買意欲が高まるのが普通で、それと同じ効果を期待しての説明会参加である。この会場で古い船友にでも再会し、「 あーら、お宅も参加されるの? 楽しみね~、またヨロシクね」などと声をかけられると、もう後へはひけないと云う気持ちになるのだ。


これまで旅行社などから漏れ聞いた話では、飛鳥Ⅱ2025年世界一周クルーズの集客は、今一つ盛り上がらないとのことだった。本船はついこの7月に6年ぶりの世界一周を終えたばかりだし、2025年夏には新造船である”飛鳥Ⅲ”も就航する。発表された来年のコースは寄港地が少ないばかりか、値段も更に上がっているためにセールスに苦労していると見え、すでに船内のアルコール料金フリーやWi-Fi繋ぎ放題を発表したほか、今後、欧州や米国の区間乗船も募集することが噂されている。パンフレットには「乗客数が350名に満たない場合は運航を中止する場合がございます」と明記されているので、2025年は本当に世界一周クルーズができるのかと、個人的に危ぶんでいたのも事実である。さて説明会はどんな具合かと KITTE 4階の会議室に入ると、予想に反して会場は結構な人の入りで、定員が80名のところ出席が70名ほどの盛況。これなら日本全国400~500名ほどの乗船者は固いのでは、という雰囲気である。


説明会は、例によってスクリーンの動画と共に、寄港地の説明や飛鳥Ⅱの船内案内、食事や100日間の生活ぶりなどが案内されたお約束の1時間半であった。なかんずく郵船クルーズのプレンゼンターは、飛鳥Ⅲが就航しても2025年には世界一周は行わず早くとも2026年以降であること、その時の料金はさらに高くなり、カテゴリーによっては飛鳥Ⅱの1.5倍以上になる可能性があるので、是非とも来年にご乗船をと参加者の気持ちをぐっとつかみそうなポイントを強調する。さて、この日、会場を見回しても顔見知りは見当たらなかったが、年恰好が同じような世代が多いようだ。2011年に初めて飛鳥Ⅱの世界一周に乗船した時は『 この若憎が 』と見られやしないかと小さくなっていたものだが、あれから10数年経ちようやく乗船世代のマジョリティに到達したように感じる。料金が1.5倍にでもなったら、多分もう世界一周クルーズには行けないし、今回乗船すればこの中からまた夕食を共にしたり下船後も交流する同年代の友人が生まれることだろう。レユニオン島やテネリフェ、バルセロナは初めてだし、セーヌ川をまたクルーズできるかと思うと段々気分が盛り上がってきた。

2024年9月 1日 (日)

飛鳥Ⅱ 2025年 世界一周クルーズ 乗船説明会

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2025年も寄港するセーヌ川・ルーアン(仏)の飛鳥Ⅱ(2011年5月)

時の経つのは早いもので今年も既に2/3が終わり9月になった。折よく9月6日(金)に都内で飛鳥Ⅱ2025年世界一周クルーズの説明会が開催されるので、まずはこれに参加することにした。飛鳥Ⅱの世界一周クルーズと云えば、2020年以降、世界的な武漢ウイルス感染症騒動でその実施が伸び伸びになっていたが、ようやく再開した2024年は乗船料金がひどく高くなってしまい、乗船をキャンセルしたことは『 飛鳥Ⅱ 2024年世界一周クルーズ 乗船キャンセル』(2023年9月2日)に記したとおりである。2024年の世界一周クルーズを前にして、飛鳥Ⅱ船内のクルーズセールスオフィスでは「 2025年は催行しないので、是非2024年にご乗船を」と勧められたので、最終的にキャンセルするか否かはかなり迷ったのだが、少ない寄港地に加え以前行ったことがある場所が多いこともあって止めたのだった。当時は2025年夏に就航する「 飛鳥Ⅲ」や、本年秋から商船三井クルーズに投入される「 MITSUI OCEAN FUJI 」の仕様や動向を見極めようという気持ちも強かった。


ところがその後、飛鳥Ⅱは(本船での)『最後の世界一周』と銘打って、2025年もワールドクルーズを催行することを発表した。前言を簡単に翻したかのようなニ枚舌セールスには驚くが、それはそれとして、我々としても元気なうちに「飛鳥Ⅱ最後の世界一周クルーズ」にまたチャレンジしようかという気持ちに傾いてきた。これは ①将来、新造船の飛鳥Ⅲで世界一周クルーズを行うとなれば、乗船料金が更に高くなることが必至。殊に飛鳥クルーズには利益優先のファンド資金が入っている以上、乗船客にとってリーズナブルな値段設定が望めないこと。 ②完成ま近である飛鳥Ⅲの(造船所における)姉妹船や MITSUI OCEAN FUJIのデッキプランをみると、全通する気持ちの良いプロムナードデッキがなかったこと。特に我々が毎日ジョギングする飛鳥Ⅱのデッキに張られた天然のチーク材は、飛鳥Ⅲには採用されないであろうことが分かったこと。 ③セルフの洗濯機の数、露天風呂、広いダンス会場、パームコートの雰囲気、入出港時にブリッジのウイングで操船する船長と会話できる親しみ易さ、など現在の飛鳥Ⅱの数々の特徴が我々には心地良いことなどが理由として挙げられる。


とは思うものの、100日間の旅行というのは費用の工面もさることながら、様々な制約があるのは事実。まずは医療面でかかりつけの医師の予約や処方箋の調整、税金や各種社会保険料などの送金、留守中の自家用車のバッテリー上がり対策などが揚げられる。なにより今も細々ではあるが仕事は続けているので、取引先に少なからず迷惑をかけるのも心配なところである。ただ大学を卒業して以来、もう50年も働いてきたのだし「そんなに休むならこの契約は終了」と言われたら、それはそれでまぁ仕方ないとも思っている。前回、2018年世界一周クルーズ下船後に手術した二つのガンもいまは問題なしとの医師の言である。危急の状況にあったり介護が必要な親族もない。亡くなった母親からは「サラリーマンなのに、何度も世界一周クルーズに行くのは身の丈を越えている」と何回か嫌味を言われたものだが、このあと何が起こるのか将来のことは誰にも予測出来ない。最近は、出来ることは出来る時に楽しもう、という気持ちがとても強くなってきた。「金を残して死ぬことは、その金を得た時間の分だけ人生損していることになる」と言う考えを以前ネットの記事で読んだことがある。思い切って4度目の世界一周クルーズに行くか!。

リンク 飛鳥Ⅱ 2025年世界一周クルーズ 急遽発売 (2024年5月27日

次回も寄港するビルバオ(西)のビスカヤ橋から飛鳥Ⅱを見る(2018年5月)
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2024年8月20日 (火)

クイーンビートル 運航停止

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門司港のクイーンビートル(2022年5月にっぽん丸より撮影)

JR九州高速船株式会社の「 クイーンビートル 」が8月13日以降、11月末まで乗船予約を中止すると発表した。2月に船体への海水浸水が判明したにも関わらず、修理や検査、国への報告をせず、浸水センサーの位置を故意に上方に動かしてポンプで排水しながら、6月の入渠までの約4か月にわたり運航を続けていたと報道されている。8月の国土交通省の抜き打ち検査でこれらが判明し、今般運航中止に追い込まれたとのこと。「 クイーンビートル 」は豪州オースタル造船所で建造、鳴り物入りで2021年に引き渡された2,582総トンの三胴式高速新鋭船で、定員502名、長さ83.5米、幅20.2米、航海速力37ノット(約70キロ)、博多と釜山間213キロの航路を3時間40分で結ぶ。この船は就航時がちょうどコロナ禍にあたり、日韓航路も休止状態だったため、暫く博多/門司港間の航路に就航していたが、私たちは、たまたま2022年5月の門司発着の” にっぽん丸  海の京都舞鶴と佐渡島プレミアムクルーズ "に乗船した際に、門司港に両船が同じ時間に入港、その時に”にっぽん丸”から撮影したのが上の写真である。


同船は、今年2月に船首部のFOREPEAK TANK内に2~3リッター程度の浸水を認めたが、修理や九州運輸局への報告を怠り、正規の航海日誌には「異常なし」と記録。別の管理簿に浸水量を記録しながら運航を継続しており、その事実は会社のトップも知りながら営業を続けたとのことだ。5月末に700リッターを超える浸水があり、さすがに監督官庁に報告を挙げてドックに入り、その後運航を再開したばかりの抜き打ち検査であったらしい。また昨年6月には浸水を報告せずに運航を続けたとして、国交相から行政処分を受けており、その際に提出した安全確保策を実行していなかった点も今回問題視されている。尚、7月11日に本船が博多港に停泊中に高波にあおられ、左舷が岸壁の防舷材に接触、船首部に亀裂が生じ、この事故に関連して検査が行われて、一連の問題が分かったとの報道も一部にある。海難事故の報道に関しては、総じて記者の不勉強で要領を得ないものが多く、事実関係をつかむことが難しいが、この件も様々な事象に関して時系列的にまだ分からない点が多い。


FOREPEAK TANKには厳重な隔壁があるので、700リッター程度の海水が入ったとて直ちに沈没や航行不能になるとは考えにくい。しかし船内への海水の進入は最も船乗りが注意が払う事象である。いくら現場を知らない会社のトップからそのまま営業を継続すべしと言われたとしても、運航管理者や事故の際には全責任を負う船長が 、簡単に『イエス』 と言うだろうか?。一般に座礁や他船・他物との接触で、船長が真っ先に心配するのは「各タンクの測深」であり、浸水の有無を確認するのは船員の最も基本的な行動、船乗りのイロハのイである。当初の船内の2~3リッターの海水はビルジ(船内に貯まる不要な汚水)として片づけたとしても、連日、船首部から無視できない量の海水が流入すれば、堪航性に重大な疑義ありと現場は認識するはずだ。また最近は各社とも様々な認証制度を導入しており、この程度なら次のドックまで騙しだまし行けると認識していたとも考えにくい。発航時に堪航性がなかったり、船員の故意や重過失があった場合には保険も適用されない。今後、この件についてのより詳細な真相が分かれば、運輸局とJR九州の検査体制に様々な議論が巻き起こる可能性があると私はみている。なお本件に直接関係があるのかは不明だが、昨年乗車したJR九州 鹿児島本線の811系快速電車は、荒天後でもないのに外の景色が遮られるほど、編成の全車両に亘って窓ガラスが汚れていた。その時、この会社は一番の商売道具を粗末に扱うのかと少々驚いたが、もし子会社の高速船会社も同じ体質だとすると問題の根は深いのかもしれない。

JR九州811系快速電車の窓のひどい汚れ(2023年5月)
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2024年7月10日 (水)

ディズニークルーズ日本に上陸

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ナッソーに入港する同年1月に就航した新造船「ディズニー・ドリーム」(2011年6月14日)

ディズニーランドやディズニーシーを運営するオリエンタルランドが、新造船を投入し2028年度からわが国でクルーズ事業を始めると発表した。2011年6月の下記ブログのように、かねてからディズニークルーズが日本に来ないかと勝手な期待を寄せていたが、我が願望が実現すると聞いてびっくりである。”ふじ丸”や初代”飛鳥”が本格的なクルーズに取り組んでから30数年、最近は各種の外国船も日本を中心とするクルーズを展開しているものの、どのフネも似たような旅程の上、カボタージュ規制(外国船は国内輸送のみはできないので外地に寄港する体裁が必要)で立ち寄らねばならない外地の港も韓国(釜山または済州島)か台湾(主に基隆)ばかりである。日本船、外国船とも国内の寄港先はクルーズ船の誘致に意欲的な港が中心となり、熱心なリピーターがいる一方、我々の場合は「あそこは何度も行ったからもういいかな」とクルーズラインアップの選択肢がかなり限られてきてしまった。


そんな時にオリエンタルランドは総額3300億円の投資をし、4000人の乗客を収容する14万トンの新造船、それも日本籍船を独・マイヤーヴェルフトで建造して2028年度からクルーズを展開するというから注目である。我々がディズニークルーズの楽しさを垣間見たのは、2011年と2018年に飛鳥Ⅱでナッソー(バハマ)に寄港した際に、すぐ真横に”ディズニードリーム”が着いた時だった。飛鳥Ⅱに続いて”ディズニードリーム”が岸壁に到着するやいなや「星に願いを」を模した汽笛を吹鳴し、多くの家族連れの乗客が華やいだ様子で下船してきたことを思いだす。その様子は2011年6月17日のブログ「クルーザーズ・オン・パレード」や、2018年6月18日の「ナッソーの客船天国」に記したとおりである。どちらかと云えば高齢者が多いクルーズ船の乗客のなかで、ディズニーの船から下船した人たちの若やいだ雰囲気がナッソーの町を一層愉し気にしたことが印象的で、それ以来ディズニーのような船が日本に来れば、我が国のクルーズ環境も大きく変わるだろうと密かに期待していたのである。


現在アメリカのディズニークルーズは14万トンのディズニーウイッシュクラス船を中心に、主にフロリダ半島をベースにナッソーやクルーズ専用の島であるキャスタウエイ・ケイ(バハマ)に寄港する3泊から4泊のショートクルーズを展開している。クルーズ業界のカテゴリーによるとスタンダード・カジュアル船に分類されており、大型船を使い、価格も家族連れで旅行できるリーズナブルな設定である。船内ではディズニーキャラクターたちとのダンスパーティや交流のほか、船上でしか観ることができないショーなどが催され、子供連れのファミリーを中心に3世代楽しめる工夫が凝らされている。日本で運航の暁には2泊から4泊の日程で10万円~30万円の価格帯で料金が設定されるというから、母港を出て沿岸・近海をグルーっと回る定点のカジュアルクルーズを催行するものと思われ、そのために船もわざわざ日本籍にしたのだろう。3世代乗船ならジジ・ババの財布の紐を緩ませるにも、これはちょうど良い価格だと云えよう。4000人もの客を乗せて価格を抑える方式にするために船体内側の窓無しキャビンも多いだろうが、乗船自体が目的のこのようなクルーズならそれでも十分船旅を愉しめるから、なかなかうまい線をついていると思う。

 

多くの乗客が上下船するとなると、それに対応できる母港がどこになるのかが気にかかる。遠浅の浦安では浚渫が必要で直ちに施設が造れないとなると、ゲートウエイブリッジを利用してディズニーランドやディズニシーにほど近い東京港お台場地区の新クルーズターミナルを関係者は念頭に置いているのか。とすれば今の公共交通機関である「ゆりかもめ」ではキャパシティ不足と思われるが、浦安側でチェックイン・アウトをしてバスを利用するオペレーションを予定しているのかもしれない。はたまた京葉線沿線の千葉港の一画に新ターミナルでも準備するのか? クルーズの寄港地については伊豆諸島の一つでも借り受け、本船は沖止めとし夢が溢れるようなテンダーボートで上陸し、ディズニークルーズの専用ビーチを作り、日本版キャスタウエイ・ケイにしたらさぞ楽しいのではないだろうか。もしこの様な案が実現したら子供たちの笑顔が目に浮かびそうだ。2028年の就航に向けて今後さまざまな発表がなされるだろうが、いろいろと勝手な想像を廻らしていると、シニア世代の我々夫婦でも是非とも乗船したいという気になってきた。

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「ディズニー・ドリーム」の船尾キャラはミッキーマウスと箒

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