秩父鉄道の石灰石輸送列車 中井精也氏作品
夏休みになると開催される恒例、京王百貨店新宿店の鉄道フェスティバルが、今年は8月21日(水)から26日(月)まで開かれている。今年で第60回を迎えるというからこの手の催し物の中では老舗のイベントになる。例によって鉄道好き芸人のトークショー、全国の高校鉄道研究会による鉄道模型ジオラマ展示のほか、鉄道グッズや鉄道趣味本、古い時刻表の販売、絵画の展示販売などお馴染み鉄オタ向けのラインアップである。おととし、このフェスティバルに出展する鉄道写真家 中井精也氏の 「ゆる鉄画廊」で、JR木次線の額に入った写真を購入し、これが気に入ったので、わが家の居間にもう一枚彼の作品が欲しいと京王百貨店に足を運ぶことにした。
中井精也氏は東京出身の57歳、最近はNHKBSやBS-TBSなどにもよく出演する第一線の鉄道写真家で、鉄道車両自体を撮るよりも、列車が画面の片隅に写った『 鉄道のある日本の風景』を表現するのが彼の作品の特徴である。中には車両が一切写っておらず、線路と枕木だけ、或いは踏切だけが被写体の写真もあるのだが、その情景だけで鉄道が醸し出すノスタルジーを感じさせてくれるのが見事なところだ。テレビで紹介されていたが、一枚の写真を得るために、列車の通過時刻に合わせて最適な構図や光線を求め、実に多くの手間と時間をかけていることが、印象的な鉄道写真に繋がるのだろう。前に買った木次線の作品は、川面に映った気動車を撮り、上下反対に見るという凝ったものだっただけに、今回はどんな写真に巡り合えるか楽しみである。
で、購入したのが秩父鉄道の石灰石輸送の貨物列車を撮った作品である。いかにも地方の私鉄らしい4軸動輪(ED)の電気機関車に牽引されたホッパー車が、夕陽を背に荒川であろうか橋脚を渡っていく瞬間をとらえた一枚である。木次線の緑とは対照的にオレンジ色が映えて、居間の白い壁面にメリハリが効いて良かろうと思いこれに決めた。さっそくわが家で写真を飾って見ていると、現在は横須賀線や湘南新宿ラインなどの電車が走る品鶴線の多摩川鉄橋に、貨物列車をよく見に行った子供の頃を思い出した。今のご時勢では到底想像がつかないかも知れないけれども、当時は線路に耳を当て、遠くから電気機関車に牽引された長い編成の貨車が近づいてくる響きを感じて遊んだものだった。世田谷にあった我が家でも夜になると鶴見の操車場から遠くSLの汽笛が聞こえてきたが、今回の彼の作品は我が原風景を蘇らせてくれるような気がする。
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