運転免許 高齢者講習
70歳になって数年経ち、今年の年末には運転免許の書き換えだなぁ、と思っていたら、突如「 免許証更新のための講習のお知らせ(重要)」なる葉書が警視庁より送られてきた。高齢者の免許更新が面倒になるとは聞いていたが、てっきり75歳以上の問題だとばっかり思っていたのでびっくりである。綴じ込みの葉書を開封すると「 70歳以上になる方で、(運転免許の)更新を希望される方は、更新手続き前に、( 免許有効期限の6カ月前から)高齢者講習等を裏面記載のいずれかの場所で受講して下さい」とあり、裏面には都内の教習所42か所の住所や電話番号の一覧表が記載されていた。75歳になる前でも何かしなきゃならないのか、とがっかりしながら、葉書の文面を読むと、リストにある教習所のどこかに自分で電話をかけてアポイントをとり、「 高齢者講習」なるものを受けなければ、次の免許更新手続きに入れない仕組みになったようだ。
教習所に今さら行かねばならないとはなんのこっちゃ?と悪態をつきつつネットで警視庁の情報などを検索すると、令和4年5月の施行により無事故無違反のドライバーでも、70歳を超えたら免許証更新時には必ず高齢者講習を受けねばならぬことになったとある。高齢者講習の会場はどこも混んでいるのでとにかく早めの予約が必要で、都内の便利な場所にある教習所はすでに8月~9月くらいまで予約で一杯のところもあるとのことだ。妻は日頃、私の運転は安心でうまいと誉めてくれるし、毎日ピアノを弾いてジョギングをし、今は週に一度は水泳と社交ダンスをこなしているから、運動神経や認知にはまったく問題なしだと自分では思っているのだが、税務署や警察などの公権力にはからきし弱い私である。「なんとも面倒だなあ」と思わずため息が漏れ出たものの、法律とあればこれも仕方がない、さっさとやってしまおうと諦め、一番早く予約がとれた都内23区の西のはずれにある私鉄某駅に近い教習所で講習を受けることにした。
まったく地縁のない郊外の教習所だったが、50数年ぶりに身近に練習コースを見つつ建物に入ると、昔と違って中は随分と明るくモダンである。我々が免許をとった頃は、イジワルで嫌味タラタラの教員が多く(今なら間違いなくパワハラ)、その物言いにアタマに来てフロントに文句を言いに行ったことも幾度もあったが、最近の教習所の雰囲気は大分違っていて、若い教習生たちが伸び伸びと運転練習に励む様子がうかがえる。指定された時間になり、一般の免許証取得者と異なる別室に通された高齢者は男女5名。まずは受講料8000円の徴収に始まり、教官からこの講習の意味や最近の道交法のポイントに関する講義である。昔と大きく違って教官の講義はユーモアを交えひどく丁寧なのだが、これは我ら年長のジジイ・ババアに敬意を表したものか、はたまた最近の風潮なのか、身構えていたこちらもやや肩透かしである。いま運転で注意すべきポイントは、クルマが動いている間はいかなることがあってもスマホを操作することの禁止と、横断歩道及びその付近での歩行者の絶対優先を心がけるべしのことである。
続いて別室に移って目の検査が行われ、普通の視力検査の他に視野角度の測定、動体視力や夜間視力の測定と生まれて初めての検査を種々行う。いろいろな視力を測定する機械の前に座らされたが、8000円も払ったのだから普段は経験できない検査をいろいろしてよとの開き直りの気持ちである。講習の最後は教官が教習車(オートマ)の助手席に乗り、講習所内のコースを高齢者一人一人、各々10分~15分ほど運転する実技走行であった。例によってS字クランクや一時停止など50年数前を思い出す懐かしい実習だったが、段差に乗り上げた直後に直ちにブレーキを踏みクルマを停車させる実技もあって、これは昨今の老人のブレーキ踏み間違いによる事故を想定したものに違いない。これらの検査や実技走行はあくまで合否を判定するテストではなく、高齢者のための講習という位置付けだそうだ。こうして2時間余、めでたく「運転免許取得者等教習(高齢者講習同等)修了証書」を取得することが出来たが、この証書があれば来たる次回の免許更新手続きは、以前より簡単に済むそうである。
さて当日配布された資料によると、運転免許保有者1万人当たりの死亡事故件数は、年代別にみると70歳~74歳で0.29件であり、これは25歳~29歳を除き他の年代とまったく同等かまたは低い事が示されている。逆に16歳~24歳は0.43件と危険率が極めて高いことが明らかで、講習が必要なのは70~74歳より寧ろそちらの方である。メディアによる「 高齢者の運転が危険」とのいい加減な報道にも押されて、70歳からこのような講習が行われるようになったようだが、75歳になれば免許更新時にもっと厳しい手続きが待っているとのこと。行政は高齢者の運転を抑制する方向にもって行きたい意図がありありだが、一方で高齢者医学の専門医である和田秀樹医師は常々「 高齢者の免許返納などもっての他」と声を大にして叫んでいる。当日の講習会に参加した高齢者5名は皆ピンピンとあって、年齢による一方的差別とも云える恣意的な行政は如何なものかというのが講習会後の率直な感想である。「人間が犬を噛めばニュースだが、犬が人間を噛めばニュースにならない」とはよく言われることだ。たまたま起きた高齢者による事故はセンセーショナルでニュースにはなるが、統計的に本当に高齢者の運転は他の世代より危険なのか、有意の確率で重大事故を起こすものなのか?(例えば免許保有者1万人当たりの事故率といっても実際に運転している人とペーパードライバーの比率が各年代でどう異なるかデータが示されていない)、高齢者の増加という基本的要因も加味して真剣な議論が展開されることを望みたい。
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