東京六大学野球 慶應の渡辺憩君 初スイングがリーグ史上初の快挙
渡辺選手の史上初の初打席代打サヨナラホームラン(BIG 6 TVより)
風薫る季節、昨日は恒例の東京六大学野球春季リーグ戦の法政‐慶應、早稲田-明治の試合を観に明治神宮野球場に行ってきた。両カードとも1勝1敗で迎えた3回戦、この日勝てば優勝に一歩近づく大事な2試合とあって、観客席には1万余の観衆が入っていた。第1試合の慶應 対 法政戦は今秋のプロドラフト会議で上位指名が期待される法政の篠木君(木更津総合)と慶應の3年生エースの外丸君(前橋育英)の投手戦が予想されていた。篠木君は、1990年ごろに法政のエースとして活躍しプロ入りした高村祐投手(宇都宮南)を彷彿とさせる本格派の右腕で、下級生の頃から注目されていた投手である。片や外丸君は変化球をうまく使い、昨秋は慶應を大学日本一に導いたクレバーな投球が持ち味。試合は見込み通り投手戦が続き、後を継いだリリーフ陣の頑張りもあって、9回を終わってスコアは1対1のまま延長戦へともつれこんだ。
1対1のタイゲームのまま、連盟規定によりこの回を以て引き分け再試合となる12回裏の慶應の攻撃に、代打で起用されたのが一年生の渡辺憩君。昨年夏の甲子園大会で優勝した慶應高校の捕手で、これが神宮デビューとなる。このまま引き分けになるかとの雰囲気も漂い始めた一死後の打席、3ボール、見逃しの1ストライクの後、法政3年の宇山君(日大三)の高めの直球を渡辺君が思い切りよく振ると、なんと打球は高々とレフトスタンド中段に飛びこむ大ホームランになった。初打席の代打サヨナラホームランは長いリーグ戦史上でも初の快挙だそうだが、さらに彼の場合には大学に入った春の打席の初スウイングでもある。大学の公式試合で初めて振ったバットに当たった球が、優勝を左右するかもしれないサヨナラホームランになるとは劇的な幕切れであった。まさに野球は筋書のないドラマである。明治や法政に較べて選手層が薄い慶應が良く戦っているのは、堀井監督の采配が冴えていることが大きな要因だと思える代打の一振りだった。
眼前でプレーする選手たちも、もう孫の年代になってきた。母校が勝っても子供たちの勝敗にあまり興奮しないように、相手校の良いところも見ようと自制しているのだが、やはり第1試合で慶應が勝てば気持ちよく第2試合も見られるというものである。第2試合の早明戦は、これまたプロが注目する明治のショートストップ宗山君(4年・広陵)が出場するので試合中盤まで観戦することに。残念ながら宗山君は早稲田の伊藤投手(3年・仙台育英)の奮闘でこの日は良いところがなかったが、実力に加え甘いマスクでこの後人気も高まることだろう。ということで、こちらも延長戦の末に早稲田が5対0で明治を下して早慶が今週は勝ち点をゲットした。プロに進むにせよ一般企業に就職するにせよ、神宮球場で大勢の観客や母校の応援団の前で野球が出来ることに誇りを持って、各校の選手達はこの後もリーグ戦を盛り上げて欲しいものである。
ふと気が付けば、隣はかつて昭和の時代、リーグ戦を沸かした慶應の大エースが一人静かに観戦している。周囲には選手の友人や父兄に混じって、腰が曲がったり杖をついたりして来場した老人が、日がな一日、のんびりと野球を眺めている。老人たちの中には相手側スタンドの校歌も一緒に口ずさんでいる人もいて、きっと彼らは長い間このリーグ戦を見てきたに違いないと密かに共感を覚える。私も各校お馴染みの校歌や応援歌を聞くと、かつて目の前で繰り広げられた情景や六校の選手が活躍するありさまを思い出し、その折々に自分が置かれていた境遇やその後の来し方が自然に頭に浮かんで懐かしい気持ちになる。東京六大学野球のリーグ戦を見始めて60年、今日もここで元気に野球を観戦できる幸せを噛みしめながら、若者の溌剌としたプレーに自分も元気を貰った。神宮球場は「私の居場所」という空間である。
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