飛鳥Ⅱ「横浜発 新緑の別府・博多クルーズ」 (2)
この航海、飛鳥Ⅱの指揮を執るのは小久江 尚船長だった。小久江キャプテンは船内アナウンスが丁寧で話題が豊富、また航路選定の面でも気象・海象・スケジュールの許す限り、乗客が興味を引きそうな対象に極力近寄ってくれるクルーズ船にうってつけの船長に思われる。我々は乗船受付の際に彼が船長だと分かると、思わず「ラッキー」とつぶやいてしまうほどだ。今回も東京湾を出て伊豆大島の南端を交わした後は、本来ならば紀伊半島の潮岬まで一直線に針路をとって足摺岬に向かうところを、航路をそれて紀伊半島東岸に接近して走ってくれた。そのためクルーズ2日目は紀伊半島の山々を遠望でき、右舷のキャビンにいた手元の携帯電話の4Gアンテナも常に3~4本が立っている状態であった。小久江さんとは2011年の世界一周クルーズで彼がスタッフキャプテン(副船長)として乗船した時以来の顔見知りである。その航海中に行われた船上ビアガーデンに参加してくれて、我々と同じテーブルで呑んだのがきっかけだが、船長になった後も船内で会うといつも気さくに声をかけてくれる。クイーンエリザベスのクリストファー・ウェルズ船長、日本船なら「ぱしび」の由良元船長など「この人なら!」という名物キャプテンと共に航海をするのもクルーズの楽しみの一つである。
クルーズ開始時、横浜港を出港する際に飛鳥Ⅱでは「セイルアウエイパーティ」が開催される。見送り人の送迎に答えつつ、7デッキでバンドの音楽と共にパーティを開き、皆で出港風景を楽しむ催しで、”ダイアナ””ダンシングクイーン”や”ロコモーション”などの60年代ロックンロールミュージックに合わせて、エンタメのクルーを中心に乗客が一緒にラインダンスを踊るのが恒例になっている。ただほとんどの乗客は日常生活からクルーズ船という異次元の空間に入ったばかりで、いきなり皆の前で踊ろうという雰囲気に馴染めないようだ。特に今回の様に団体客が多い時は、初めての飛鳥Ⅱ、初めてのクルーズ船という人も多いに違いない。こんな時には本船のエンタメクルーが率先して周囲を盛り上げる必要があるのだが、新人ばかりなのか、近頃の若者の特徴なのか、はたまたコロナの余波なのかどうも最近はクルーがシャイで元気が足りない。そこでここのところ、率先して踊ってやろうと、真っ先に妻と二人でバンドの前でツイストなどで身をくねらせることにしている。「70過ぎのジジイが狂ってるんだぞ、さあみなでLET'S DANCE!」という心意気だ。遠巻きにした乗客がもの珍しいものを見るかのように我々を動画撮影するのを横目にしつつ、「旅の恥はかき捨て」「高いカネ払ったのだから楽しんでナンボ!」と人の目などは一切気にしないのがポイント。飛鳥Ⅱのノリの悪さは外国船、とくにアメリカ海域のクルーズ船とは大違いだが、我々が踊っているとそのうち乗客の何人かがオズオズとツイストなどに加わり段々と盛り上がってくるのである。
今回のクルーズでは終日航海日の2日目、午前・午後1回ずつダンス教室が開かれた。飛鳥のダンス教室ならこのところこの人という山下先生が講師である(社交ダンスでは教える人を○○さんと呼ばず先生と呼ぶのが全国的な決まりらしい)。クラブ2100で行われたダンス教室は初心者向けだったので参加はしなかったが、傍らのソファで見ていると内容はお約束のマンボとスクエア・ルンバの講習。彼の説明はダンスを続けるヒントやポイントが散りばめれており、話を聞いているだけで参考になる気がする。初心者向けとはいえ、今回の教室で印象的だったのが「ダンスがうまくなるには人の目をいっさい気にしないこと、度胸が7割です」とのコメントであった。気が小さいのに、ええ格好しいの私にはけだし名言で、改めて「ダンスは度胸が7割」というフレーズを心に刻むことにした。それに励まされて、クルーズ中はパームコートでのバンドの演奏で、人の目を気にせずに毎晩ダンスを楽しむことができた(クラブ2100は前述のとおり夜間はまだダンスが踊れない)。生のバンドをバックに心置きなく踊れるホールは都内でも減り続けている。ラテンにスタンダード、人が少なければテンポまでバンドにリクエストでき、なおかつ人前で恥をかく経験までできるのが船上のダンスである。社交ダンスのリードは男性の役目。妻からは「最近は間違えても、なんら臆することなくニコニコと人前でダンスを続けられるようになったのが凄い」と、船上では夫としての株が大いに上がるのだ。こうしてダンスが徐々に解禁、またフォトショップも再開に向けてトライアルを続けているようで、ようやく長いコロナ禍からクルーズの日常が戻ってきたようだ。
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