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2023年5月 6日 (土)

ダイヤモンド・プリンセス号 長崎港でパイロット乗船時に事故

20230506h
左端 赤白の2色旗がパイロット乗船中を示すH旗(飛鳥Ⅱ)

5月5日早朝5時半、長崎港港外に於いて、クルーズ客船ダイヤモンド・プリンセスに乗り込もうとしたパイロット(水先人)が海中に転落し死亡する事故が発生した。亡くなったのは69歳になる水先人で、転落してから14分後に救助されたが死亡が確認されたと報道されている。ダイヤモンド・プリンセスは4月29日からの横浜発着の「北日本と韓国9日間」クルーズの際中で、この日釜山から最終寄港地である長崎に入港してきたところであった。パイロットがタグボートやパイロットボートと呼ばれる小艇から本船に乗り込む際、あるいは出港時に下りる際に移乗に失敗し、大怪我を負ったり亡くなったりする事故は世界中の港で起きている。私もこれまで仕事で港外に停泊する大型船に通船から飛び乗ったり、飛び降りたりしたことが何度かあり、その危険性について身を以て経験してきた。軍手をはめ袈裟懸けにしたカバンを背中に廻し、うねる小型船船上から大型船の舷側に垂らされた梯子に乗り移り3点支持でよじ登る、あるいは反対に下船するのは命がけの仕事だと感じたものだ。亡くなった水先人はライフジャケットを付けていたと云うから、移乗に失敗した際に本船とタグボート(ないしはパイロットボート)の間に挟まれて海中に転落したのであろうか。ご冥福をお祈りしたい。


貨物船と違ってクルーズ客船は、入港後ショアエクスカーションや各種行事の日程が細かく組まれている。桟橋には観光バスが待機し地元特産品のブースが出店し、場合によっては市長などVIPの歓迎セレモニーなども予定される。貨物船なら一日沖待ちとなる場合でも、何とか入港したいと関係者が願うのも無理からぬが、事故当時の長崎港の気象・海象はどうであったか? データを見ると、この日の長崎市の日出はちょうど5時30分で、ダイヤモンド・プリンセスがパイロットステーションと呼ばれる水先人乗船海域に到達した時間と一致する。天候は小雨とあるからまだ周囲は薄暗かったであろうが、乗り込もうとする現場ではダイヤモンド・プリンセスかタグボートなどからの照明もあったはずだ。事故の時刻には風は南東からゆるく吹き、長崎県では南からの波は2米ほどとのこと。もっとも長崎港のパイロットステーションは南側に長崎市の香焼地区や伊王島があるため南からの波はそれほど大きくならないと思われる。報道では事故時の波高は1米以下とされているので、移乗に際して特に危険な状況ではなかったであろう。


日本水先人連合会のホーム頁によると、長崎港の水先人は令和3年時点で3名とある。亡くなった方はもと東京湾のベテランパイロットだったようだが、長崎に移り70歳を目前に予期せぬ状況に陥ったとみられる。水先人は水先法による国家試験に合格し、免許を取得し各地の水先人会に所属する必要があるものの、地位はあくまで自営業者であり特に定年などの規定はない。これまでは主に外航船の船長を長く勤めた人が水先人となっていたが、平成19年に規制緩和で海洋大学(旧東京商船大学、旧東京水産大学)、神戸大学(旧神戸商船大学)、海技大学校などで水先人を養成する課程も設けられている。もっともこれまでクルーズ船で国内各地の港に入出港した際に乗り込んでくるパイロットをウイングの上から見ていた限り、みな中高年で、養成機関から実職として独り立ちしたようなパイロットがクルーズ船を嚮導する例はほとんどなかったと記憶する。多くの船客を乗せたクルーズ船には熟練のパイロットを各地の水先人会が派遣するのだろう。特にダイヤモンドプリンセス(11万6千総トン)のような大型船は外航船の船長経験のある1級水先人しか嚮導できないため、シニアクラスが担当するのが常であり、今回亡くなった水先人もやはり大手海運会社の船長OBである。


このようなパイロット乗下船の際の事故を防ぐために、SOLAS(海上における人命の安全のための国際条約)によって、移乗設備にさまざまな規定が定められている。貨物船の場合では乾舷(水面からデッキまでの高さ)が9米以上ある場合は、梯子のみ頼らず途中に本船に設置されているACCOMODATION LADDERを使用するなどと決められているのが一例(下に図示)だが、クルーズ船では海面近くに開口ハッチがある場合が多く、通常パイロットはあまり高さを意識せずに小艇と本船を乗り降りすることが可能である(下写真参照)。さらに海外の港ではヘリコプターでパイロットを運ぶ例もある。そのために貨物船には貨物艙ハッチの上、クルーズ船では船首などに大きく H とランディング目標を描いた船も多い。また水先人自身も安全に業務を遂行できるように、定期的な健康診断を行っていると日本水先人連合会のホーム頁にはある。ただ高齢になるに従い咄嗟の際の運動能力が十分なのか、今回の事故が若い水先人であったら防げたかなど、老化に伴う敏捷性の問題や健康状態が今後議論を呼ぶ可能性もあるだろう。世界中の港で現実に起っているこの種の事故である。ヘリコプター輸送がベストとしても、どの港でも、大小問わずあらゆる船種でのヘリ輸送はコスト面もあり難しい。この種の事故を少なくするための設備が考案されないものだろうか。例えば水先人にハーネスを装着し、本船デッキ上に小さな専用クレーンを設置して、うねりに同期させて吊り上げ(吊り下げ)するアイデアなどはどうだろうか?

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”セレブリティミレニアム”号から下船しタグボート上で手を振るパイロット(2017年4月新潟港)

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SOLAS規定の水先人用上下船設備要件


飛鳥II「秋の瀬戸内航行 土佐クルーズ」高知港出港時のパイロット下船シーン(2021年10月21日)

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