飛鳥Ⅱ「横浜発 新緑の別府・博多クルーズ」(3) 宇佐神宮と豊後高田
別府は幾度か行ったことがあるが、海から訪れるのは初めてだ。高崎山を左手に、前方に鶴見岳や由布岳を望みつつ、飛鳥Ⅱは別府観光港の石垣地区第4埠頭に9時に着岸した。目の前には大阪~別府航路に今年投入されたばかりのLNGを燃料とするフェリー ”さんふらわあ くれない”が着いており、さかんにトラックのシャシーを積み下ろしている。海に向かって傾斜した別府の街は、船から眺めると所々に湯けむりが立ち上り、ここがいで湯の里だという風情を漂わせている。この日の出帆は17時、乗客の最終帰船時刻は16時30分で、停泊の実質7時間ほどの間に、船から約50キロ離れた宇佐神宮と「昭和の町」豊後高田市をJR日豊線で訪れることにした。とは云え岸壁から3キロ以上離れた別府駅から、1時間に1~2本しかない列車に乗り移動、宇佐駅の西と東にそれぞれ4キロほど離れて位置する2つの目的地を、制限時間内で訪れるスケジュールを作成するのは、ちょっとしたパズルを解くようなもの。本当はレンタカー利用としたいが、最寄りのレンタカー会社は岸壁から遠くて歩いて行けないし、土地勘がないので渋滞にでも巻き込まれたら帰船時間に間に合わなくなる恐れもある。よって今回はJR線の電車や大分交通バスの時刻表、それにネットの情報などを駆使して、これしかないという予定を立てて飛鳥Ⅱの舷門から上陸した。
やって来た宇佐神宮は山や森を背に、寄藻川(よりもがわ)が境内を流れる、いかにも神のおわす場所らしい壮大な神社であった。この神社は歴史的な経緯から、我が国皇室においては伊勢神宮に次ぐ宗廟として位置づけられると参道の由緒書きにある。宇佐神宮は全国八幡社の総本宮とのことであり、八幡信仰とは応神天皇の正徳を称えつつ、日本固有の神道と外来の仏教が融合する宗教なのだそうだ。神仏混淆は日本人の優れた習俗だとかねがね思っていたが、その大もとが宇佐神宮だったとは今まで知らなかった。SEEING IS BELIEVING、何でも来てみるものである。お参りを終え神社そばのバス停から、次は一時間に一本の大分交通のローカルバスで豊後高田に向かう。豊後高田市はかつては国東半島の商業中心地だったが、1965年にこの町が起点だった宇佐参宮線が廃止されたあと、御多分に漏れずモータリゼーションや郊外大型店の進出で町の商店街はさびれる一方だったとのこと。そこで21世紀に入り、町おこしの一環として、昭和の町並みをそのまま活かし観光客を呼び込むことにしたそうだ。昭和30年代のまま残った商店街では、代々伝わるお宝の展示や懐かしい味の店売りが展開され、訪問した人たちはノスタルジックな世界へいざなわれる趣向になっている。ここはテーマパークではなく、今もそこで人々が生活しているままが昭和の世界になっているところがミソだと云えよう。
昼食はバスターミナルにほど近い、カフェ&バー・ブルバールの「懐かしい!!昭和の『学校給食』をとる」セット定食とした。クルーズ船の豪華料理から一転、私は揚げパンと牛乳のセット、妻はソフト麺とカレー汁(カレーではなく汁と書いてあることが重要だそうだ)と鯨の竜田揚げの単品を注文し、あの欠食の時代の昼食をとることにした。学校机のテーブル上に出された「給食」はお約束どおり、アルマイトの食器に先割れのスプーン(割り箸も付いていた)。当時と同じくらい大きなコッペパンを一口かじれば、昔と違ってウマいのが憎いところだ。当時の噛んでも噛んでも噛み切れなかった味のない固いコッペパンに、なんとも説明しがたい程ひどくマズかった脱脂粉乳と較べると、ここで出された「給食」は天国である。妻の方は久しぶりのソフト麺は懐かしかったが、出てきたカレーが今風のいわゆるカレールーだったので、薄い汁への期待が大きかった分「コレジャナイ」感が募ったようだ。私の時代なら「カレー」というだけで嬉しくて飛び上がったものだが、東京で給食が美味くなったのは1964年の東京オリンピックが境だそうで、オリンピック前に小学生だった私と、その後に小学生になった妻とは給食の思い出も異なることが分かった。こうして時計を気にしつつ、無事に戻った飛鳥Ⅱではその晩も贅が尽くされた和食が供された。給食の味から高級な晩餐まで、クルーズ船の旅は変化に富んで楽しいものだ。
« 飛鳥Ⅱ「横浜発 新緑の別府・博多クルーズ」 (2) | トップページ | 飛鳥Ⅱ「横浜発 新緑の別府・博多クルーズ」(最終4) 吉野ヶ里公園 »
「船・船旅」カテゴリの記事
- 飛鳥Ⅱ 2024年世界一周クルーズ 乗船キャンセル(2023.09.02)
- SEA SPICA (シースピカ)号 せとうち島たびクルーズ(2023.07.12)
- 日本のクルーズ船の魅力・ライブラリー「灯台からの響き」(2023.07.06)
- にっぽん丸 「横浜/奄美/那覇クルーズ」3泊+「飛んでクルーズ沖縄Aコース~与那国島・西表島~」3泊 連続乗船 (2) (2023.06.25)
- にっぽん丸 「横浜/奄美/那覇クルーズ」3泊+「飛んでクルーズ沖縄Aコース~与那国島・西表島~」3泊 連続乗船 (1) (2023.06.23)
« 飛鳥Ⅱ「横浜発 新緑の別府・博多クルーズ」 (2) | トップページ | 飛鳥Ⅱ「横浜発 新緑の別府・博多クルーズ」(最終4) 吉野ヶ里公園 »
コメント