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2023年4月 5日 (水)

弘南電鉄7000系に乗車

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黒石駅の弘南鉄道7000系 フルステンレス車体とパイオニアⅢ台車が特長的

「ツガル ツナガル」号に乗り往路の終着駅である弘前駅の手前、大鰐温泉駅にさしかかると進行右手の車窓に懐かしい銀色の電車の姿が見えてきた。弘前市を拠点とする弘南電鉄の大鰐線を走る7000系で、もと東急電鉄7000系を譲り受けた車両である。東急7000系は、昭和37年(1962年)アメリカのバッド社のライセンスの下、東急車両製造(現・総合車両製作所)で日本で初めてのフルステンレス車両として製作され、パイオニアⅢ型というユニークな台車を履いて一世を風靡した革新的な電車だった。私にとっては、学生時代は東急東横線の日吉にあるキャンパスやグラウンドへの通学時に乗車し、社会人になっても通勤に東急と相互乗り入れの地下鉄日比谷線で利用した思い出の電車である。7000系は1990年ごろから東急線での運用が終わったのち全国の私鉄に譲渡され、弘南電鉄に於いては20両以上が弘南線と大鰐線の2つの路線で第2の人生を歩んでいる。かつて「弁当箱」と呼ばれたステンレスの角ばったこのユニークな車体を、遠く離れたこの弘前の地で見るのがなんとも不思議な気がしてならない。


「ツガル ツナガル」号は11時26分に弘前駅に到着し、15時13分に折り返し秋田に向かって出発する。その間の4時間弱の自由時間は、弘南鉄道黒石線の7000系電車に乗り、藩政時代の町並みが残る黒石市へ行き ついでに名物の黒石やきそばを食べて帰ろうと云うことにした。弘南線はJR弘前駅に隣接したプラットホームから発車(大鰐線の中央弘前駅は市内の別の場所にある)する全長16.8キロの路線で、終点の黒石まで電車は途中11駅に停車して約35分で走る。この路線の運転頻度は1時間に1本~2本なので、帰りの「ツガル ツナガル」号発車までに帰って来られるかを慎重に計算してから、黒石市に向かうことにした。始発の弘前駅で乗ったのは1964年製の7012(東急時代は7025)+7022(同7026)の編成で、この車両もかつては東京で何回も乗車したに違いないから約30年ぶりの再会だ。こちらでの外観は雪国用のスノウプロウが運転台下につき、ドアが半自動開閉式になったものの、それ以外は東急時代とほとんど変わっていないし、ディスクブレーキが台車枠より外側にある独特な形状のパイオニアⅢ型台車がまだ健在なのを見て何だか嬉しくなる。


車内に足を踏み入れると、まずは運転台の懐かしい跳ね上げ式デッドマン装置のマスコンが目についた。運転士が病気などで不省状態になり動作をしなくなった際に、緊急ブレーキをかける装置で、当時の車両には跳ね上げ式がよく採用されていた。座席のモケットはたしかエンジ色だったが、今は違う色に張り替えられ、かつてなかったロングシートの仕切り板も一部に設置されていた。車端妻板にあった東急車両製造の銘板と、BUD社のライセンスで製造されたとする誇らしげなプラスチック板の表示は残念ながら取り払われている。車内蛍光灯が一部切れたままになっているのが何とも寂しい光景で、赤字に悩む地方民鉄の悲哀を映し出しているようだ。ただ一旦走り出すと、抵抗制御、平行カルダンの直流モーターの奏でる走行サウンドが耳に心地よい。最近のインバーター制御、交流モーター電車が垂れ流す金属の擦れたような電子的サウンドはどうにも不快で、昭和30年代の車両の機械音・電気音の方が人間の感性に沿っていると日頃私は思っているのだが、その思いがますます強くなった。東急時代に発揮していた加速の良さも相変わらずである。


軌道強化までに金が廻らないのがローカル私鉄のつねで、電車は右に左に大きくゆれながら最高速度も60キロ以下でごとごとと津軽平野を走って行く。終点の黒石で古い町並みを歩き、妻と二人で名物の焼きそばとつゆ焼きそば(なんとソース焼きそばに日本蕎麦のつゆがかかっている)を分けあって食べた帰路は、同じ1964年製造の7013(旧7029)+7014(旧7030)の編成に乗り、雄大な岩木山を車窓に臨みながら「ツガル ツナガル」号の待つ弘前駅に戻った。日曜の午後とは云え、行きも帰りも2両編成の電車には10人~20人ほどの乗客とあって、地方民鉄の経営の困難さを目のあたりにした感があるが、弘南鉄道も地元の足としていつまでも存続してほしいものだ。それにしても毎日のように利用した車両がまだ現役で活躍していると、世話になった老人に再会したようで、ついねぎらいの言葉もかけたくなってくるのである。

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黒石名物 焼きそば と つゆ焼きそば

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岩木山を臨みながら弘南鉄道・弘南線は走る

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