西日本鉄道旅(4)SAKU美SAKU楽
強者どもが夢のあと、かつての交通の要衝も今は無人駅の備後落合駅
昼食は各自が予め予約してあった出雲そばなどの駅弁を途中の駅でピックアップし車中で楽しむうち、「奥出雲おろち」号は12時36分に備後落合駅についた。備後落合駅は広島駅から岡山県新見までのJR芸備線と、山陰地方からの木次線が落ち合う所ということでこの名前がつけられたとのこと。駅では永坂さんというかつてSLの機関士だった地元の方が、ボランティアとして沿線や往時の様子の説明していることを、先般7月27日の読売新聞の記事で知ったばかりだった。この日も予想通り彼が「奥出雲おろち」到着に合わせ駅舎に詰めていたので「C56で木次線の30‰で客車は何両牽引できたのですか」と聞くと「最大4両です。出雲坂根からのスイッチバックでは大変でした」と当時の苦労を教えてくれた。SL時代はC56や8600(ハチロク)の付け替えや整備のため、駅構内に車庫や転車台が置かれ、最盛期には200人もの国鉄職員が働いていたそうだが、今や寂しき無人駅である。がらんとした広い敷地に数本のレールが敷かれているありさまを見ていると「強者どもが夢のあと」という言葉が浮かんできた。
この後、備後落合から次に乗車する津山線の観光列車「SAKU美SAKU楽」の始発駅、津山まで鉄道で行くとすると、新見経由でJR芸備線とJR姫新線を乗り継いで行かねばならない。ところが新見方面行きの芸備線は朝・昼・夜の一日たった3本、新見から津山までの姫新線の列車は一日6本とあって、16時21分に発車する「SAKU美SAKU楽」にその日のうちに乗車することは到底不可能だ。約100キロ離れている両駅を乗り捨てでレンタカーで行くか、などと考えてもそもそも中国山地の山合いにある備後落合駅の周りにはレンタカーどころか商店さえ見当たらない。ところがこの旅行は我々のために備後落合駅前に貸し切り観光バスが待っており、中国自動車道路を通って津山駅に運んでくれるという設定になっている。団体旅行というと足腰の弱った老人や地理に不案内な中高年の旅だとイメージしがちだが、公共輸送が不便な場所で限られた時間内に効率よく旅をするのにはとても便利な手段だと云えよう。
バスに揺られて津山駅に到着したのは15時前。津山市は岡山県県北の人口10万人の町で、かつては津山藩10万石の城下町でもあった。バスの下車から列車に乗車するまで少し時間あったので、ツアー参加者のうち有志は駅から約800米、津山駅の旧機関区用地にある「津山まなびの鉄道館」見学を案内された。ここには旧国鉄時代の扇形機関庫が残されており多くの気動車が静態保存展示されているほか、鉄道模型のジオラマや岡山の鉄道歴史などを展示する建物、その他鉄道グッズの売店などがある。この扇形機関庫は現存する扇形機関庫では京都の梅小路についで国内2番目の規模だそうで、我々ツアー参加の中からも半数ほどがせっかくだからとこの博物館まで歩いて出かけて行った。鉄道だけでなく倉敷の町や出雲大社参拝など毎日少なくとも1万歩以上歩く結構ハードな行程であるにも拘わらず、僅かな時間を利用してけっこう遠い博物館に赴くとは、やはりテツ分の濃い一行なのだと改めて感心した。
旅は終盤、ここ津山駅から岡山駅までの59キロの津山線で、今年7月から運行を始めた新しい観光列車「SAKU美SAKU楽」に乗車する。「SAKU美SAKU楽」はキハ40系気動車を改造(キハ40 2049)した車両によって岡山・津山間を一日2往復走り、9月一杯は金・土・日は単行で、月曜日は定期列車に連結されて運転される。変わった列車名だが、JR西日本の「せとうちパレットプロジェクト」ホームページを見ると、「美しさ、楽しさを『作』る、笑顔・花が『咲く』、その地の美しさや楽しさを探し求める『索』」という3つの『SAKU』を取り入れ、淡いピンク色の車体カラーにマッチする愛着ある列車名としました」とのこと。我々は津山駅のセブン・イレブンでビールとワインを買い込み、車内で出されるイタリアンばら寿司Xローストビーフを楽しみつつ、夕闇が迫る旭川とその支流の誕生寺川の車窓風景を楽しんだ。車内アテンドの若い女性2人はJR西日本サービスの所属で、この日は「SAKU美SAKU楽」に乗車だが、普段は新幹線の車内販売も担当するとの事。ほろ酔い気分で「ありがとう、次は新幹線で合いましょう」などと声をかけながら、東京に戻る「のぞみ」に乗り替えるべく岡山駅で彼女らに別れを告げた。しかしこの鉄道の旅はここで終わらず、まだハプニングが待っていた。
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