続・陸と海と空 にっぽん丸の「門司発着 海の京都 舞鶴と佐渡島プレミアムクルーズ」その3
さて「食のにっぽん丸」である。今回の4泊のクルーズでは洋食が2回、和食が2回でいずれもオーソドックスな味で楽しめた。特に和食はダシが適度に効き洋食はドレッシングがとても美味である。せっかくだからディナーも飛鳥Ⅱのように「何でもお替りしてください」と言ってくれると嬉しいが、にっぽん丸は原則お替り不可なのはかえすがえすも残念なところだ(尤も今回はクルーを煩わせては気の毒だとリクエストはしなかった)。また船内のサービスクルーは日本人、フィリピン人とも良く頑張っているも、飛鳥Ⅱと比べ総じてシャイで乗客との距離も控え目だと乗船する度に感じる。例えばフィリピンクルーに知っている限りのタガログを使って話しかけた時は、飛鳥Ⅱのクルーは嬉しそうに返事をして話も弾むが、にっぽん丸は照れ臭そうににこっと笑ってそれっきりということが多い。もっともこれは善し悪しで、飛鳥Ⅱのクルーは馴れ馴れしいとの声が一部にあるようだ。だが、私はせっかくの乗船なのだから飛鳥スタイルの方が楽しめるし、タガログ語の単語をもっと覚えようという気にもなるのである。
乗船した夜は藤田卓也テノールコンサートに先だって船長・機関長・GMの紹介があった。飛鳥Ⅱは感染症対策でオフィサーが乗船客の前に出て来ることはないし、そもそも短いクルーズでは挨拶自体がないが、久しぶりの紹介は客船らしく良いなと思っていたら、肝心の船長のスピーチは、名前を云う程度の余りにそっけないものでびっくりした。これまで内外のクルーズ船に数百泊したが、その中でも最も短い船長スピーチであった。これからのクルーズに先だって航路の予定や天候予報などを聞けば旅への期待も高まるのに、なんだか肩透かしを食らった感じである。フロントで尋ねると本船の船長は商船三井本体から来ているキャプテンだそうである。貨物船ではないのだからせっかくの機会に客とのコミュニケーションが必要ではないか、と思っていたらやはりその懸念が現実のものになった。佐渡小木港はオーバーナイトでステイの予定が、入港日の出港と変更になったのだが、その際のアナウンスが「翌日の出港時に強風が予想されるため、入港した日の夕方に出帆することになった」との味も素っ気もない極めて事務的なものだったからである。
予定変更に関するブリッジからの船長の放送は、前線が通過するのか低気圧の影響なのか、どのくらいの風がどちら側から吹くのか何も言わない。タグが1隻配置されていたのに拘わらず翌朝の出港が無理なのかなど知りたいことは山ほどあるのに、「なんだこのアナウンスは、これで客を納得させようというのか?」と思わせる簡素なもので思わずのけぞった。我々は停泊二日目の早朝に予定していた小木の町でのジョギングができなくなったし、佐渡で友人と再会したものの急遽予定を繰り上げて帰船した知り合いの船客もいた。安全上の理由によって予定が変わることそのものに異論はないが、大きな変更に際しては十分な説明が必要であると私は考える。と言うのも本船が慌てて出港した翌日に、普段は伊豆諸島航路に就航している東海汽船のさるびあ丸が、にっぽん丸が着いていた同じ岸壁、”強風の時刻”に問題なく着岸したことがすぐにわかったからである。
さるびあ丸は東京の青山学院の小学生の「洋上小学校」としてチャーターされ日本一周の航海途中で小木に寄港したもので、SNSの情報によれば「強風」のはずの小木港に朝に着き、子供たちは問題なく下船して島内を廻っている。排水量(重さ)に比べ風袋が大きい客船は風の影響を受け易いのはわかる。とは云え22,472総トンのにっぽん丸が早々と小木港から退散した同じ岸壁に、アジポット推進とはいえわずか6,000総トンのさるびあ丸が何も問題なく着岸できたのは不思議なところだ。港湾設備が十分でない伊豆諸島で大きなうねりの中で着岸させる技術にたけている東海汽船だから小木港でも問題なく着けたということなのだろうか。SNS時代で乗客も様々情報が簡単に手に入る時代である。船長の情報伝達能力には首を傾げざるを得ず、乗船客を納得させる航海情報を常々提供するように心がけてほしい。
などといろいろ注文をつけたがが、中南米移民船以来一貫して客船サービスを提供している商船三井客船とあって、船内は諸所でクルーズを盛り上げようとする気概を感じた。特に新しく始まったクルーズディレクターによるスポーツデッキにおける入出港時の解説は、彼の乗り物好きの本領発揮のようで海陸のあれこれ蘊蓄も混ざり聞き応えがあって秀逸であった。彼はドルフィンラウンジにHOゲージとNゲージの線路を敷き、ここには鉄道模型を持ち込んでも良いらしいからこれからどうなるか興味深い。また予定変更の結果、ゆっくり見ることができた隠岐諸島、特に西の島沖から見る断崖絶壁は、ハワイのナパリコーストを彷彿とさせる絶景でしばし息を吞んだ。にっぽん丸には伝統のサービスをシェイプアップし、より良いクルーズをこれからも展開して欲しいと願っている。
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