続・陸と海と空 にっぽん丸の「門司発着 海の京都 舞鶴と佐渡島プレミアムクルーズ」その6(下船後)・了
4泊のクルーズを門司港でおりた後、まっすぐ帰京するのもつまらない。北九州で何か楽しみはないかと考えたら、妻が大宰府に行ってみたいと言う。なんでも令和という元号は、万葉集の梅花の歌編序文「初春の令月にして気淑く風和らぎ 梅は鏡前の粉を披き 蘭は珮後の香を薫らす」が出展元であり、これら梅花の歌は大宰府で詠まれたものだそうだ。妻はもともと一度は大宰府天満宮を訪れたいと思っていたが、ゆかりの元号になったということで機会を伺っていたようだ。一方で私は大手民鉄16社の中で、ただ一社乗車したことのないのが西日本鉄道(西鉄)であり、彼女の希望が大宰府なら西鉄天神大牟田線と大宰府線に乗れる絶好のチャンスだとただちにこれに賛同する事にした。という事で門司港で下船後はまず鹿児島本線の快速電車で博多駅近くのホテルにチェックインし、翌日の大宰府訪問に備えた。夕刻大濠公園までジョギングをした後(意外と遠かった)、夕食は博多駅筑紫口の居酒屋で名物の焼き鳥に博多ラーメンだったが、にっぽん丸の上品な味に慣れた舌には濃い味付けが刺激的でつい酒を注ぐ杯も進んでしまった。
「大宰府へはそこのバスで行った方が便利ですよ」とのホテルフロントのアドバイスもものかは、地下鉄に乗ってやってきたのは西鉄福岡(天神)駅である。ほとんどの大手私鉄がJRの駅にターミナルや準ターミナルを置いているのに、西鉄はJR博多駅より2キロほど離れた天神という繁華街に立派な始発駅を設けているのが九州男児の心意気を示しているようだ。4面3線の福岡(天神)駅で二日市方面の電車を待っていると、やってきたのは折り返し5000形の花畑行き急行であった。運転席側がパノラミックウインドウなのに反対側の前面はそうではないというアンバランスな顔ながら写真などでお馴染みの西鉄を代表する電車である。福岡(天神)駅を発車するとこの5000形はモーター音や加速感が思いの外スムースで快適なことに気が付いた。5000形は最近のJRや大手私鉄で全盛のVVVF制御ではなく一昔前の抵抗制御なのだが、抵抗制御のリニアな加速音の方が人間の感性に合っているからであろう。二日市まで15キロ、わずか20分の初西鉄だったがさすが九州一、大手民鉄の一画と思わせる5000形の走りっぷりと沿線風景であった。
二日市で西鉄大宰府線の3000形観光列車「旅人」に乗り換え終点の大宰府駅へ。行き止まりホームの駅を出れば目の前は天満宮の参道である。名物の梅ヶ枝餅をぱくつきながらそぞろ歩いて到着した天満宮は、政敵の陰謀によって京から左遷され失意のうちにここ大宰府で亡くなった菅原道真が祀られている。道真の死後に京では疫病や天変地異が起こり政敵も早世したのだが、その道真の怒りを鎮めるための社殿である。道真が優秀な学者だったことから、天満宮は中世以降学問の神様として信仰されるようになり、境内には京都大学合格、国家公務員試験パス祈願など沢山の絵馬が奉納されていた。次に向かったのは大宰府政庁跡である。大宰府政庁は7世紀後半に大和朝廷が置いた役所で、西日本防衛や大陸の窓口の役割を担った歴史的な機関なのだが、こちらは天満宮に比べてアクセスも良くないせいか(我々は天満宮より2キロ半歩いて訪問)訪れる観光客はほとんどいなかった。大宰府といえば天満宮が代名詞なのだが、この政庁跡は大和朝廷時代を偲ばせる貴重な遺構であり、西鉄や地元はもっとプロモーションしたらいかがであろう。
旅の締めは福岡空港から2019年度からJALに導入されたエアバスA350-900である。南風の日の夕方15時から19時頃、羽田空港新飛行経路が運用されると、高度を下げていく航空機が我が家からは良く見える。福岡便は主にボーイング777とエアバスが運用されており、帰って来るのにちょうどよい福岡1605発のJAL320便がエアバスで、運よく左舷の席を並んで予約することが出来た。新飛行経路を使ってくれれば都心遊覧便になり我が家を見下ろすことが出来る筈だが、搭乗した日の風向きはまさにお天道様まかせである。クラスJの広いシートに身をあずけ最新のモニターで楽しみながら窓外を眺めていると、この日は房総半島上空から大きく内陸に向けて旋回を始め、どうやら新飛行ルートを使うらしい。荒川の上空あたりでは雲が厚かったが池袋近辺から南へ向かうアプローチに入り高度1000米を切ると、やっと機体は雲の下に出て「あ、うちのマンションが見えた」と二人してしばし興奮しつつ羽田着。こうしてクルーズ船に鉄道、飛行機と「陸と海と空」を堪能する旅を無事終えたのだった。
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