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2022年5月 1日 (日)

続々・KAZU1の遭難事故 保安庁の検査と小型船舶安全規則

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瀬戸内海で運航される小型船舶(18トン)の操縦席(2021年11月)。19トンのKAZU1もかつては瀬戸内海で使用されていた。

知床で行方不明だったKAZU1の船体が「カシュニの滝」沖合の深度100米の海底で見つかった。今後船体引き上げがうまくいけば事故の原因が解明されることだろう。云われていた船体の亀裂が荒れた海で耐え切れずに破孔が生じ浸水したのか、あるいは岩場で座礁し船底が損傷して浸水したのか、はたまた先にエンジンが故障して動力を失い船が荒波にもまれうちに浸水沈没したのかがわかるはずだ。それにつけても実職歴が実質半年の船長と初乗船で海の仕事は初めての甲板員のクルー、会社の船舶無線のアンテナが折れている上、船内に備えつけられているはずの衛星利用の携帯電話が故障していたなど、報道で次々にこの会社のずさんな運航体制が浮かびあがる。事故当日に会社の無線アンテナが使用できずとも、稼働していたとされる僚船KAZU3の無線でKAZU1に呼びかけなどは出来たはずだが、この事故にはまだまだ明かされない事実も多いのではないか。


今回は無線や衛星携帯電話の連絡手段がダメなので普通の携帯電話を使用することとして直前に行われた海上保安庁の検査をパスしたそうだが、そもそも相模湾や駿河灘など人口密集地に近い海上でも少し沖合に少し出れば携帯の電波は届きにくかったりまったく届かなくなったりする。ましてや知床半島など人口が極めてまばらな地域の沖合で携帯電話だけの通信手段、それも実際の疎通テストもなしに書類申請のみで保安庁は検査に合格させたそうで、なんといい加減なものであったのか呆れててしまう(かろうじてdocomoしか通じないのに船長の携帯はauだったとの報道である)。地元の顔見知りによるなあなあ体制なのか、ただやりましたという形だけなのか、どのような検査が保安庁によって行われたのか大いに疑問である。


この点では外航船舶の場合には船舶検査の他に、ISM CODE ( INTERNATIONAL SAFETY MANAGEMENT CODE ) という厳しい品質管理基準が強制的に導入されており、このような杜撰な検査はまかり通らない仕組みになっている(それでも時々大きな事故はおこるが)。ISM CODEは陸上のIS0に似た船舶の安全基準で、保船・運航・緊急事対応などの安全管理システムを船舶の所有者が自ら構築し、定期的にそれについて厳しい査察を受ける国際的な規制である。定期的に行われる審査に合格しその証書がなければ旅客船を含む外航船舶は航海ができないシステムだが、日本国内内航の小型船舶でも少なくとも多くの旅客を輸送する船舶には同じようなシステムを強制適用することが今後必要になるのではないか。


事故を受けて改めて小型船舶操縦士の教則本や、船舶安全法の小型船舶安全規則を読んでみると、沿海資格や沿岸資格の小型船は安全に関する項目については除外規定が極めて多い上に、温かい海でも寒い海でも沖縄から北海道まで基準が国内一律であることがわかった。なかでもこのブログの4月25日の追記のとおり、小型船舶安全規則第五十八条2では「沿海水域限定の小型船舶は救命いかだに代えて救命浮器でも可」との除外規定があり、これが今回の寒い海での海難事故で多くの犠牲者を出す原因になったと考えられる。知床のような寒い海水域で船が沈んでも、海上に投げ出されるのでなく救命いかだに乗り移ることが出来れば多くの人命は救われたであろう。

 

本船はもともと瀬戸内海の島々の連絡用に建造された船なので救命浮器しか装備されていなかったが、売船されて知床で営業に就くに際して本来ならば定員分の救命いかだの搭載が望ましかったはずだ。メーカーのカタログを見ると救命いかだは浮器の4倍もの値段なのだが、寒い海で営業する遊覧船には救命いかだの搭載を義務づけるように法律改正をすべきであろう。日本の海岸線の長さは世界で6位、排他的経済水域まで含めると広さは世界4位、亜熱帯から亜寒帯まで含む広大な日本の海を一つの安全基準で規制することは無理がある。また小型旅客船営業に対する保安庁(または小型船船舶検査の代行機関)の検査体制の見直しや、安全のための船舶管理システムの導入が望まれる。

 

5月3日追記:

億円単位と云われるKAZU1船体の引き上げ費用について
今回の事故に関して船主(今回は運航会社)には船舶全損につき損保の船舶保険で保険金が支払われる。被害に遭った旅客には損保の船客障害賠償保険で保険金が支払われる(社長の話では乗客に対する保険金額は十分な額が設定されているとされている)。海難上は船主にはこれ以上の賠償責任はない。もし全損となった船体を法的に撤去する必要がある場合、すなわち当該船骸が油濁の原因や航路の障害となり海岸法や港則法、海上安全法などに抵触する時にはPI保険(船主責任保険)もしくは船舶保険のPI特約で処理することになるが、おそらくこの会社はPI保険(またはPI特約)には入っていないだろうし、深海に沈んだKAZU1の法的な引き上げ義務も船主には生じないだろう。よってKAZU1の船体引き揚げについてはその必要性がある捜査機関、すなわち国が費用を支払うことになると思われる。杜撰な運航管理の結果事故が起き、その引き上げ費用を税金で賄うというのは心情的には納得できないが、法的にはこうなるはずだ。

 

2016年3月ハワイ・ホノルルでの飛鳥Ⅱ
米国COAST GUARDの検査により救命艇の是正措置で一日出港が遅れる。その際の救命艇のテストの模様。米COAST GUARDの検査は大変厳しい事で知られる。
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