続・KAZU 1の遭難事故
KAZU1の遭難事故に関して、日夜さまざまな事が報道されている。そのうちのいくつか気になる点を記してみよう。
4月25日付の読売新聞(朝刊)は「KAZU1に甲板員として乗っていた曽山さんは、今年4月に観光船の運航会社『知床遊覧船』に入ったばかりで、それまでは船員としての実務経験はなかった。大学卒業後に各国を巡り、税理士事務所で勤務していたが、『船に乗りたい』と入社した」と報じている。今回の航海はKAZU1にとって今季初の営業航海だったから、彼にとっては人生初の海上の現場であった。知床の海の経験が一年余りの船長と、まったく船員実務経験のない甲板員の2名でいきなり事故に遭遇した後、災害からの離脱や乗客の誘導などが適切に行われただろうか大いに疑問が残る。
ネットニュースでは、冬季に観光船が上架されている間に他社の船は船体に付けられた防触亜鉛版(アノード)を交換するのに、KAZU1は行っていなかったとの同業他社の声が伝えられていた。とするとKAZU1には十分なメンテナンスが為されていたのだろうか。また4月25日のTV報道ステーションでは水難学会会長の斎藤秀俊氏が、雪国では冬の間に甲板の上に積もった雪の雪解け水が、甲板上部の給油口からしみこんで燃料タンクに水が入ってしまう事があると発言していた。それを知らずにエンジンを始動すると、その水がエンジンに回って、動かしているうちに出力が落ち、突然止まってしまうことがあるそうだ。今季初航海のKAZU1ではこのような事象が起きた可能性もあるだろう。
「水に落ちた犬は叩け」というシナの諺があるが、この会社の風評や好ましからざる実態が、ここ数日メディアより次々曝露されている。数年前にこの会社の船員は全員解雇されて知床の海を熟知していない船長が操船している、昨年は2度の事故を起こしている、社長は陶芸家で船舶や観光業とは無縁だった等々である。有名なハインリッヒの法則によれば、一つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景に300のヒヤリ・ハット異常があって、それらが一直線で結びついた時に悲劇的な事象が起こるとされている。今回はこれらの地元での悪い評判が、ただちに事故につながったのだと云えよう。以前、小型船舶免許や安全規則に関する様々な要件の緩和措置は遊漁船の営業対策支援の面が多いと聞いたことがある。しかしたとえ小型船舶で沿岸・沿海ないしは平水限定と云えども多数の客を乗せて観光を行う船には、近海水域以上の船舶に準じたより厳しい安全基準が適用されるべきではなかろうか。
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