観光拠点再生計画 宇野港発 瀬戸内海遊覧クルーズ船 実証運航
宇野港 旧国鉄岸壁傍ポンツーンが実証クルーズ船”マリンストーク”号乗り場
この週末は、妻と岡山県に旅行に行った。目的は「玉野市宇野港から瀬戸内海を遊覧するクルーズ船無料実証運航」を体験し、その後に岡山市の天満屋デパートで11月3日から14日まで開催されているスぺシャルイベント”飛鳥Ⅱダイニング”のコース料理を味わうことである。天気も良さそうだったので、ついでに日曜日は倉敷の美観地区を散策し、秋の山陽路をゆっくりと楽しむことにした。例によって金曜日は夕方までに仕事の目途をつけ、「大人の休日倶楽部・ジパング倶楽部」の3割引切符を利用して新幹線「ひかり」号の飛び乗り岡山に。岡山駅直結のビジネスホテルに宿泊し、土曜日は朝から宇野線で終点・宇野まで行き、港から2時間弱のプチ瀬戸内海クルーズを経験した。
この催しは、国土交通省が全国的に展開する『観光拠点再生計画』に基づき催行される実証実験のクルーズという位置付けだ。「観光拠点再生計画」とは全国の観光拠点を再生し地域全体の魅力と収益力を高める事業とのことで、要は国交省の予算によって全国各地域で観光の目玉を掘り起こそうという計画である。宇野港のある岡山県玉野市では、既存の渋川海岸と王子が岳という名勝地に加え、海上からの遊覧を追加して観光事業の活性化を目指すことを国交省に登録し、その実現のために今秋は実験クルーズを毎週数航海づつ運航することにしたらしい。当該「渋川海岸・王子が岳 魅力拡大プロジェクト」のホームぺージには、「玉野市宇野港から瀬戸内海を遊覧するクルーズ船無料実証計画を実施」し「乗降者数のデータを蓄積し今後のクルーズ船利用促進に活かす」と記載されている。
乗船したクルーズは、ふだん海上タクシーに使われる小型の旅客船を利用し、宇野港から瀬戸大橋方面まで往復2時間の瀬戸内海を航行するもので、国の予算がついているために乗船料はかからない。その代わりにこの船旅が将来の観光事業に寄与するのかを調べるために、乗客は簡単なアンケート調査に応じる必要があった。クルーズの予約はネットでの応募のみで、広く全国には知られていないようだったが、我々が乗船した土曜日の朝の航海は船の定員30人が一杯となる満船状態となっていた。乗客は自家用車で港へ来たカップルやファミリーなど地元の参加者がほとんどで、遠隔地から鉄道を利用し宇野駅から徒歩で乗船した我々のような物好きは他にはいなかったようである。
宇野港と云えば瀬戸大橋開通に伴い廃止になった国鉄の宇高連絡船に乗船して以来50年ぶりである。連絡船と鉄道を結んだ可動橋はどこだったかなどとノスタルジーに浸る間もなく、17ノットの快速で小さな旅客船は瀬戸内海へ滑り出した。進行方向左手に直島の旧三菱金属直島精錬所、右手には旧三井造船玉野工場や三井金属日比精錬所などふだん通る瀬戸内海本航路からは遠い工場群がこのクルーズでは身近に見えて興味深い。船は地元の渋川海岸や王子が岳沖を通り、県境が島の真中にあると云う大槌島や貸し切り無人島になっている竪場島(たてばじま=通称くじら島)などを次々と交わしていく。やがて鷲羽山が迫って来たかと思う間もなく、このクルーズのハイライトである瀬戸大橋のうち、斜張橋の岩黒島橋と吊り橋の下津井大橋をくぐることが出来た。飛鳥Ⅱや大型フェリーで幾度か通った瀬戸大橋も、海面近い小型船の視点で眺めると違った迫力を感じるものだ。
この間に適宜船長の案内放送があるものの、彼はふだんは海上タクシーの業務専任とあってバスガイドのように次々と流ちょうな解説があるわけではない。また肝心の近辺の地図が配布されないのも残念だった。しかし瀬戸内海といえば上代から大陸と畿内、あるいは九州と畿内を結ぶ重要な回廊であった。瀬戸内の各地には水軍と呼ばれる勢力が存在したし、下って江戸時代になると北前船の風待ちや潮待ちのための津が賑わい、明治以降は今でも見える高い工場の煙突から近代日本を作る煙がたなびいていた。日本で最も早く国立公園に指定されたように世界に誇れる多島美と歴史、産業の槌音が共生してきた地が瀬戸内海である。最近は超高級クルーズ船”ガンツウ”だけでなく、瀬戸内しまたびラインの”SEA SPICA"など、移動の手段としてではなくこの海を楽しむ新たなサービスも始まった。玉野市の前には最近芸術面でも有名になった直島もある。歴史の旅、産業の遷移を見る旅、地質学的な旅、芸術の旅、無人島の旅など様々な切り口で小回りの効く小型船によるサービスを提供し、適切なガイドを配置すれば、新たな「観光拠点再生の拠点」になるはずだと玉野への帰路、波に揺れる船内で考えた。
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