高峰高原・黒斑山
都内に住んでいると、時々自然の中へ行ってみたい気持ちになる。山道を歩きながら”ブ~ん”とブヨの羽音がまとわりつくような場面が恋しいのだ。ということで台風一過の秋晴れの下、この週末は長野県と群馬県の県境、高峰高原から黒斑山(標高2404米)に登山に行ってきた。高峰高原の車坂峠にはかつて高峰高原ロッジ(との名前だったと記憶)というユースホステルがあり、中学時代に毎夏林間学校に訪れていた。数日間の林間学校のうち一日はロッジから黒斑山までを往復する4~5時間の定例山行で、その時に心に刻んだのが雄大な浅間山の山容やそれに連なる外輪山のすばらしい眺望だった。中学校を卒業以来55年間、高峰高原を訪れたことはなかったが、足腰が丈夫なうちに思い出の登山道をもう一度踏み、あの景色をまた見たいと思ってのノスタルジックツアーである。
車坂峠でクルマを下り、登山道の取り付き口に立つと、コースの案内図の脇には入山の注意書きや登山届の投入箱があってまずはびっくりである。半世紀以上前に林間学校の生徒たち数百人で登ったような道だから、まあハイキングにちょっと毛の生えた程度のコースとの認識で来てみたが、登山届が必要な「山」だったろうかとまずは我が記憶を疑う。見ると周囲の登山客はほとんどが登山靴、山用のザックに最近流行のステッキ(杖)を携えているが、こちらはジーンズにジョギングシューズ、手にはペットボトルの水を抱えてという超軽装だ。富士山で見かける観光気分の外国人ツアー客かのごとく、これは場違いかと一瞬うろたえてしまうほどだ。「山を軽く見るな」とか「年寄りの冷や水」などという文句が頭に浮かんだのだが、足にはまだ自信はあり、台風が去ったあとの晴天で天気の急変もなかろうと山に分け入った。(本当はこういうシニアが一番危ないのかもしれないが・・・)
歩き出すとコースはやはりそれなりの登山道で、あちこちにガレ場や急坂もある。手を使って体を引っ張り上げたりバランスをとらねばならぬ場所もあるが、軍手さえ携行してないから困ったものだ。黒斑山頂まで登りは2時間、踏み外せば滑落のおそれがある危険な箇所も幾つかあって「気楽なハイキング」よりはちょっと難儀な山道であった。かつて林間学校では山好きの先生が引率してくれたのだろうが、男女混ざっての都会の子供たち、それも大勢で毎年事故もなくよくこの道を行き来できたものだ。思い出をたどりつつ一歩づつ歩を進めるうち、落伍者も出さずに引率してくれた当時の教員たちの指導にあらためて感謝の念が湧いてきた。こうしてたどり着いた黒斑山山頂から目前に望む浅間山や深く切れ込んだ雄大なカルデラは、記憶のとおりわが国でも有数の息をのむ絶景であった。この景色は2時間の登り路に耐えた者だけが味わえるものかと思うと、頬をなでる山の秋風も一層心地よい。麓のコンビニで買ったおにぎりで昼食をとり、あの頃に一緒に登った同級生たちは今頃どうしているか、などと回想に耽りながら帰路についた
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