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2021年10月 8日 (金)

太平洋戦争の大誤解

20211008

先日、新幹線に乗る間際に車中で読める本を駅構内の小さな売店で探したことがあった。ビールやみやげ物に混じった売り場で、その時に見つけたのが2021年9月の新刊、武田知宏著「教科書にはのっていない 太平洋戦争の大誤解」(採図社)であった。著者は高名な歴史学者ではなくフリーライターなのだそうだが、車中の退屈を紛らわすには余り難解な本ではなくこの位の軽い読み物が良いと思って買うことにした。そんな気軽な気持ちで読み始めた文庫本だが、ページを繰ってみると文章・文脈が大変こなれていて読みやすく、明治維新から大東亜戦争に至る歴史上の要点をコンパクトに纏めたなかなか素晴らしい文庫本であることが分かった。私はふつう読んだ本は直ぐにごみに出してしまうのだが、僅か750円でふと手にしたこの「太平洋戦争の大誤解」を旅行後も大事にとっておくことにした。


本書では明治維新が世界に例をみない優れた改革であったことや、戦前の日本は高度成長社会であったこと、それにもかかわらず貧しい農民が多く今では想像できない格差社会であったことなど我が国の近代史の特徴が語られる。そのうえで、日本が満州や中国に進出した動機、米英の対日戦略、ナチスドイツやソ連(ロシア)の存在、コミンテルンの謀略、ゾルゲや尾崎秀美などの共産主義スパイの暗躍など、日本がなぜ戦争への道を突き進んだのかが多様な切り口から解説されている。学問的にみればこの本の内容はかなり大胆なのかもしれないが、分かり易い説明のうえに写真や図表も適宜載せられており、私のような普通の人間には難しい専門書より、なぜ日本が戦争へ向かったかの歴史がすとんと腑に落ちる展開である。読み進めるうち、もし自分が昭和初期に生きていれば戦争を歓迎していたかも、との気持ちにさえになってくる。


たしかマルクス史観では、明治維新から大東亜戦争までの日本の近代は、明治天皇の新体制下ではあるものの封建主義をベースにした近代化に過ぎぬとし、日本が第二次大戦に向かうのは必然的な道だとしていたはずだ。一方でいま保守派からは、大東亜戦争はアジア解放の正義の戦いだったとの声が澎湃として湧き起こっている。日本近代史の評価というものは甚だ難しいものである。本書は明治日本の近代化を称える一方で、戦争に至る社会の貧しさや、国家統治システムの不備など、明治憲法下の多くの問題点も指摘しており、特定の史観によらない広い視点から歴史を俯瞰しているのが特長である。こうした簡潔かつワイドな展開が本書を読みやすくしていると云えるであろう。著者の武田氏のことはまったく知らないので、読後に彼の評判をネットで調べてみると、2012.2.22の「ビジネス+IT」というコラムに武田氏がこんなコメントをしていた。


「大日本帝国の実情を知ろうとするとき、壁になるのがイデオロギーの問題です。大日本帝国を論じた書物の多くは、天皇制や全体主義を批判するものであったり、逆に擁護するものであったり、とかくイデオロギー論に傾きがちです。そして、イデオロギーが主体の本では、実際の国民の生活や社会の様子が、具体的、客観的に語られることがあまりありません。私は大日本帝国の実情を知るためには、イデオロギーよりも、実際に国民はどういう生活をし、社会はどういうふうに動いていたのか、ということの方が重要な情報だと思います。 が、残念ながら、大日本帝国の実情を客観的、具体的に書いた書物は、専門書以外では非常に少ないのです」。ネット記事から9年後、新刊で出された「太平洋戦争の大誤解」は彼のこういう考えを具現化したものだといえよう。駅の売店といえども、心に残るなかなか良い本との出会いがあるものである。

 

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