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2021年8月13日 (金)

CRIMSON POLARIS号 八戸港沖事故

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YOUTUBE動画(Mooktie Media)より。日本時間の8月11日早暁、本船は港外より陸地にゆっくりと接近中

八戸港沖で日本郵船が運航するCRIMSON POLARIS号の船体が真っ二つに折れ、中国人とフィリピン人のクルーは全員救助されたものの、船体からは燃料のC重油(バンカー油)や潤滑油が海洋に流れ出る事故が起きた。パナマ籍(実質は日本船)CRIMSON POLARIS号は8月11日朝、八戸港防波堤の外側で座礁事故を起こし船体に亀裂が生じたために錨をおろしていたところ、翌12日早朝になり亀裂の部分から船体が2つに分断されたという。ニュース映像を見るとブリッジなどがあるハウスの直前で船体がちぎれているが、その箇所にはバンカータンクがあるため、大量の重油が流れ出したものとみられる。私にとって八戸はこれまで仕事で数え切れぬほど訪問した地であり、港についてもなじみが深いのでなぜこのような事故がおきたのか大変興味を持っている。まだ発表された経緯が断片的なので断定的なことは言えないが、これまでの経験から分かることを以下アップしてみたい。


まず本船CRIMSON POLARIS号は2008年に広島の常石造船で建造されたウッドチップ専用船で49,500重量トンと発表されている。ウッドチップは長さ数センチの木くずで、製紙工場で漉かれたのち様々な化学処理をされてパルプや紙の原料になるのだが、貨物自体の比重が軽く本船の貨物艙(ホールド)一杯に積んでも、ふつう船の満載喫水線まで満たないのが特徴である。そのためにウッドチップの専用船は同じ重量トンの貨物船より、より多くの貨物を積載するために船体がかさ上げされているのが外見上の特徴と云える。但しかさ上げされていることが直ちに船体の脆弱性につながることはないように十分な設計がなされている。また積み荷が軽いので、船体の局所に集中的にひずみがたまるという事も考えにくい。


建造した常石造船は日本でもトップクラスの建造量と技術を誇る造船所であり、また本船の安全性を担保する検査機関は日本海事協会(NK)で、その品質水準は広く国際的に認められている通りである。CRIMSON POLARIS号が登録されたパナマ法人の実際の船主は今治市の洞雲汽船で、この会社は100隻を超える外航船を保有する国内でも有数の船主として有名で、自社での船舶管理(乗組員の配乗、船舶の保守・メンテ、ドック手配、その他運航に関わる諸手配一切)もするが、今回は四国中央市(旧伊予三島市)の美須賀海運を起用している。美須賀海運はもともと大王製紙の船舶に関わる仕事から発展した会社とあって、ウッドチップ専用船の管理についてはお手のものと云えるであろう。こうした来歴やスペックを見ると、本船は第一級の堪航性を保持したバリバリの船舶であるにも拘わらず、なぜニュースで見るように一晩で船体が破断する事態になったのかが不思議だ。


現在ネットで見られるAISの DATAによれば、CRIMSON POLARIS号は7月29日にタイのスリラチャを出港している。ここは広葉樹ユーカリ種のウッドチップ原料の積出港として日本の製紙会社が多くの数量を輸入している港である。このサイトによると本船はタイから南シナ海を通り津軽海峡経由で八戸市にある三菱製紙の八戸工場に向かっていたことが分かる。以上の用船スキームを纏めると、船主・洞雲汽船‐(船舶管理契約・美須賀海運) → 定期用船契約・日本郵船(=運航会社) →航海用船契約・三菱製紙(=荷主)(但し三菱製紙は現在、王子製紙、中越パルプと三社でチップの共同調達をしておりチップ専用船を相互で融通しあっている)ということになる。この用船形態に於いて座礁・油濁事故の責任は一義的に洞雲汽船が負い、管理者の美須賀海運の責任はごく限定的(例:最大1千万円程度の年間管理手数料の10倍以内など)、また運航会社の日本郵船については法的な責任は問われない。本船の座礁事故や船体切断について船主のロスは損保の船舶保険が、油濁損害はPIクラブが、荷物に損傷あらば荷主は損保の貨物海上保険で損害がカバーされることになる。


さて、津軽海峡を抜けて北から八戸港に向かった本船は、日本時間8月10日午前3時過ぎに港外に到着していることがAIS DATAから読み取れる。ふつう八戸港で沖待ちする大型外航船舶は、港の南側にある種差(たねざし)海岸沖の錨地に錨を下すが、本船は港内の最北部のチップ専用岸壁へ向かう航路に沿い防波堤の外で行き足を止めている。これは沖待ちがなくダイレクトに接岸できるとの代理店指示で、朝6時からサービスを開始する同港のパイロットを乗船させるため港に近い場所で待ったのだろうか。本船はここで一旦投錨したように見えるが、その後午前5時過ぎから0.5ノットほどで徐々に陸地に近づいており、強風に流されて走錨している状況かと解釈できる。船体のかさが大きいのも風に流されやすい要因である。7時50分前後にもっとも陸地に近づいた後、本船は3ノット以上でまた沖に向かって移動しているが、この時刻に船長は座礁に気づいて沖出ししたという事であろうか。八戸港の港域図を見ると防波堤の外でも水深は十分にあり、本船の満載喫水11米を切って座礁するにはかなり陸地に近寄ったものと考えられる。


なぜタイから直行してきた本船は通常の錨地に向かわなかったのか、天候はどうだったのか、パイロットは強風下でも乗船予定だったのか、港外に到着した後に自船の位置を確認する見張りは十分だったのか、座礁事故で生じた船体の亀裂はそれほど致命的であったのか、など事故の原因となる知りたい情報は数多い。さらに分断された船体や残る積み荷はどう回収されるのか、今後の対応を待つことにしたい。それにしてもモーリシャスで座礁したWAKASHIO号は鋭利で強固なサンゴ礁に擱座したために船隊が折れたのは理解できるが、CRIMSON POLARIS号は座礁して船体に亀裂が入っていたとしても、水の上に浮かぶ長さ200米の鉄の塊である。荷物も積み付けに当たっては性状のごく穏やかなウッドチップで、この状態でわずか一晩で船体が完全に折れて2つに分かれてしまうという事実は衝撃的である。船舶の安全性が問い直される契機にもなりかねないこの事故の経緯やその後の状況が早く発表されないか待たれるところである。

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チップ船上のウッドチップ揚げ荷役状況
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船・船旅」カテゴリの記事

コメント

はじめまして。
C重油が漏れたということは、SOxスクラバ搭載船なのでしょうか?

Covidiotさん

コメントをありがとうございます。

2008年に建造された本船は多分スクラバーを改装工事で装備していると思われますが、その点は発表されていないので不明です。

但しその後のニュースを見ると、本船のタンク内は規制適合油、流れ出たのも規制適合油とのことです。

ご回答くださいまして、
ありがとうございました。

規制適合油が流出したとのことで、
SOxスクラバを搭載していない可能性もありますね。

油の性質が従来と異なるでしょうから、除去の方法や、難しさも違うのかなと想像いたします。

Covidiotさん

規制に適合したバンカーは従来より粘度が低くややサラサラしているはずですが、流出すると環境にどういう影響があるのでしょうか心配です。

東北地方の沿岸はこれからサンマ漁ですね。影響が少ない事を祈ります。

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