東京九州フェリー”それいゆ”乗船記(1)/(2)
この週末は7月1日に航路が開設されたばかりの東京九州フェリー横須賀・新門司航路に乗船して来た。帰りは新幹線のトンボ帰りなので、クルマではなく徒歩での旅である。この1年以上”飛鳥Ⅱ”や”にっぽん丸”のクルーズを幾度も申し込んできたが、多くの航海が武漢ウイルス騒動によってキャンセルとなりフラストレーションは溜まる一方。この辺りで潮気の補充が是非したくなってのフェリーだ。首都圏から九州方面に向かう長距離フェリーは、かつては川崎‐宮崎間や久里浜‐大分間にサービスがあったが10年以上前に廃止されている。残ったのは徳島港経由のオーシャン東九フェリーだけだが、こちらはカジュアルクルーズと銘打たれサービスは簡素、特に船内にレストランがなく、冷凍食品を自分で温めて食べるなどおよそ船旅を楽しむという感がしない。いま潮気充填の船旅を楽しむならこれしかない、どうせ乗るなら船も新しいうちにということで新造船”それいゆ”に乗船することにした。
東京九州フェリーの横須賀ターミナルは、最寄の京浜急行・横須賀中央駅から約1キロほどで、ゆっくり歩いても15分の場所にあった。品川駅から横須賀中央駅までは頻繁に運転される京急の快特で50分である。出港1時間前までに乗船手続きをする必要があるものの、出港は23時45分と遅いため、都心や横浜の繁華街でゆっくり食事をしてもゆったりと乗れるのがとても便利だ。もっとも横須賀中央駅に降り立つと周囲には乗り場の案内らしきものはなく、スマホの地図を片手に港の方向に夜道をまっすぐに歩くことになる。ほどなく寂しい夜の海岸通りに出るが、目の前には横須賀警察署や市の救急医療センターがあり、この辺りからフェリーの大きなフェンネルが遠望できる。とかく港の周辺は夜間は寂しいものだが、ここでは駅からフェリーまで特段怖いということもなかった。ただせっかく鳴り物入りで航路を開設したのだから、横須賀中央駅や途中の街路には徒歩乗船者への案内表示を設けてもらいたいところだ。
乗船手続きを行い出港まで待つターミナルは、簡素ながら新しくモダンなつくりであった。しかし照明に煌々と照らされて目の前に広がるエプロンには乗船を待つ自家用車が数十台、トラックのシャシーも数えるほどで、サービスの周知や運送業者への営業はこれからという印象を受ける。東京九州フェリーがこの岸壁を新しく借り受けて使用するのに際し、直前まで既得権益を主張する既存の港運業者とごたごたがあったそうだが、そのような紛議のあとはまったく見られない整った施設と整備されたターミナル構内であった。ターミナルの船客待合室でビール片手に待つことしばし、ほどなくボーディングゲートがオープンし、何もかもがが新しい施設の中を新しい船内へと案内された。船内中央部に開いた乗船口を通って一歩船内に踏み入れると、煌々とした照明に照らされた廊下(パッセージ)が船主方向に向かって伸び、いよいよこれから新造船の旅が始まると期待に胸が膨らむ。本船”それいゆ”はここから新門司まで約1000キロ(540マイル)を21時間余、実に平均スピード26ノット程で航走する。
”それいゆ”は三菱重工長崎造船所で姉妹船”はまゆう”と共につくられた新鋭船である。総トン数は15515トン、全長222.5米・幅25米で、何といっても親会社である新日本海フェリーグループの他航路の船と同じく時速28ノット(時速約50キロ)以上で航海できる高速船になっているのが特徴と云える。省エネに効果があるとされる垂直船首を採用し、揺れを軽減するフィン・スタビライザーやそれぞれ2基のスラスターを船首・船尾に装備、高速を活かして”はまゆう”と両船で横須賀・新門司間をデイリーサービスする。私たちは今回も奮発して本船に2部屋しかないデラックスルームに乗ったのだが、ベランダがついているのはデラックスルームのみであり、グループ僚船にある上級キャビン向けの専用グリルも本船にはない。従来のフェリーの特徴であるザコ寝部屋こそ廃止されたものの、船客向けの設備が総じてシンプルに配置されているのは、日本海や瀬戸内で事業展開する同グループ初の太平洋航路進出とあって、さまざまな試行錯誤を行うその表れであるように感じたのだった。(続く)
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