和田秀樹 著「60代から心と体がラクになる生き方」
本屋の店頭で物色していたら「60代から心と体がラクになる生き方 老いの不安を消し去るヒント」と題する新書を見つけた。精神科医で特に高齢者医療に詳しい和田秀樹氏が書いた朝日新書の新刊で、本の帯には「認知症・健康・おカネ・孤独-あなたの心配はどれも『幻想』です」とある。この種の本を買って帰ると妻に「また、それ系?読んで参考になるの?、軸がない人は大変ねぇ」と笑われそうだ。しかし70歳近くなりごく近い友人が認知症になったり自分がガンの手術を受けたりすると、これまで当たり前に経験してきたものと違う問題が人生の後半にあることに気がついて、なにか考えるヒントがないか、誰かの考えを聞きたくなる時がある。
妻の反応を想像しながらもこの本を買ってみようかと決めたのは、これまで和田氏が書いた幾つかのネットニュース記事が心に残っていたからである。たしか「コロナより怖い日本人の正義中毒」として、武漢ウイルスに対する感染症専門医の暴走と、恐怖を煽るワイドショーなどに易々と乗せられる日本人のメディアリテラシーの低さに彼は警告を出していたと記憶する。玉石混交のネットの世界にも「まとも」な意見があるものだと感じ、それ以来、灘高から東大医学部に進んだその経歴がダテではないことに好感を抱いていたので、彼の本なら読んでみようと買う事にした。
年齢を重ねるとボケるのは誰にでも訪れることで、ことさらその事を不安視する必要はないと本書は述べる。認知症になると大半は過去の嫌な記憶を失い、幸せかつ穏やかな気分で多幸的になるのだと云う。これを「自己有利の法則」と呼び「認知症は私たちの人生の最後に用意されているご褒美」としてここではむしろ肯定的にとらえられている。また70歳になったらタバコ、運動、食事などに気をつけるより、好きなことをして自分の楽しいように生きたほうが得だと和田氏は説くが、これは高齢者の医療に永年携わってきた医師だけに説得力がある。なにより健康であるかないかは「ある程度、運」であり、血圧やら血糖値、医師の言葉に一喜一憂せず快適に暮らすことが高齢者に必要との筆致が心地良い。
もっとも和田氏は高齢者の消費を促すために相続税を100%にせよとか、もっと気軽に生活保護を受けて良いなどと現実にはなかなか受け入れがたい主張も本書で展開している。しかしこれらの提言の裏には「老後には金が必要である」という思い込みや「人に迷惑はかけない」とする風潮に対して、「不安に思うことは実際にはほとんど起きない」から高齢者は気軽に日々を過ごそうという彼の本音が込められているのが分かる。ボケは怖くないし、世間など気にせず好きな事をすべしと説く本書はまさに高齢者の心を軽くする一冊であった。読後、さっそく小さなことを気にすることはない、と控えめにしている晩酌のウイスキーをいつもの倍飲んで気持良くよく酔っぱらった。「単純ね」と妻が笑っている。
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