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2021年3月26日 (金)

"EVER GIVEN"スエズ運河で巨大コンテナ船座礁(続)

20210326
スエズ運河を船団を組んで航行する巨大コンテナ船群(2018年飛鳥Ⅱワールドクルーズで撮影)

その後の報道では、"EVER GIVEN" 号は船主である正栄汽船が事故の処理に奔走している事からして、本船は「定期用船」によって正栄汽船(のパナマ法人)から借り主のエバーグリーン社側にチャーターアウトされているようだ。よってこの事故については、まずは日本側が責任を負うことになるのは間違いないだろう。では正栄汽船は、船舶管理や乗組員の配乗を任せていたとみられるドイツのベルンハルト・シュルテ・シップマネジメント社に求償することができるだろうか。この点について国際的な船舶管理契約書の標準様式であるSTANDARD SHIP MANAGEMENT AGREEMENT "SHIPMAN 2009" を読むと、管理者(シュルテ社)は「本船に関わる損失,損傷,遅延または費用について,船主(正栄汽船)に対して一切の責任を負わないこと」となっている。同様式には管理者の過失、重過失または故意のみから損害が生じたことが立証された場合には、年間管理手数料の10倍を超えない範囲で責めに応じるとあるものの、管理手数料そのものは一般的に一年で数百万円からせいぜい一千万ほどゆえ、この事故による賠償責任はほぼ正栄汽船が負うということになる。(乗り組員を船主が直接手配する管理契約もあるが、その場合も配乗会社は船主に対して責を免れる。)


船主が今回の事故責任を負うことに関して、"EVER GIVEN"号がスエズ運河のパイロット乗船中だったために、パイロットの責任はないのかと問う声もあるようだ。スエズ運河を通る航路の選定は確かに借り手であるエバー・グリーン社であり、パイロットの手配も実際はエバー社の現地代理店が行なっているので、こうした疑問が生じるのも無理からぬものと云える。しかし船主:正栄汽船と用船者:エバーグリーン社が交わしている定期用船契約書の約款に "The Owners shall remain responsible for the navigation of the Vessel, acts of pilots and tug boats" との条項が入っているであろうことは間違いない。すなわち「本船の航行に関する事項、及びパイロットやタグボートの行為・行動に関する一切は用船者(エバー社)ではなく、船主(正栄)に責任がある」ことが用船契約で定められているのである。"WAKASHIO"号の事故の際にこのブログでも取り上げたとおり、定期用船契約の下で運航に関わって生じた事故については、これまで多くの係争が内外で起こってきたが、借主ではなく船主の責任であるという事は、国際的にほぼ確立されたルールとなっている。では船主はパイロットに求償できないかというと、極く一部の判例を除き、事故は船長責任であると判断されるのが世界の通例である。


このように今回の事故では船主が全面的に責任を負うことになるはずだが、では船主の現在の損害と今後受けると予想される損害賠償は何で、それがどう処理されるであろうか。"EVER GIVEN"号の船体損傷の修理や離礁のための直接的費用は、まずは正栄汽船(または船舶管理のシュルテ社)が付保している損保の船舶保険でカバーされるだろう。また本船の事故で運河が閉鎖されたことによる運河の利益逸失や他船の遅延損害を、当局や他船の関係者が正栄汽船に求償できるかどうかは判断が難しいところだが、もし、その損害賠償が裁判や仲裁で認められれば、PI保険(船主賠償責任保険)がカバーする事になるはずだ。その他、損保ではこのような用船契約中に起こった一切の船主の賠償責任をカバーする保険や、事故期間中に入らなくなるチャーター料を補填する保険もあるので、本船もこれに入っていたかもしれない。


荷物に関しては、これまでのところ積み荷のコンテナには損害がないようなので、荷主から貨物損害に関わるクレームは起きていないと思われる。ただ冷凍コンテナに積まれた食料品などはいつまでもつであろうか。仮に荷主より何らかの賠償請求があったとしても船荷証券(積荷の引き受け証)に記載された「航海過失は免責」とされる国際条約のヘーグ・ルールにより、まず船主は支払いを免れようとするはずである。なお船荷証券は通常は船社(エバー社)のフォーマットで、船社またその代理店が荷主に発行するが、用船契約と同じ法理によって運送に関する責任はエバー社でなくで船主にあると約款に記されている。今後もし本船の喫水を浅くして離礁させるために、クレーン船などを手配して荷物を一時陸揚げするなり他船に移動させれば、海上保険契約上で「共同海損」と呼ばれる事態となる可能性があり、多くの荷主を費用精算に巻き込む事になる。そういう事態に陥らないためにも、早期に本船が引き出され航海に復帰する事を望みたい。


「運河はスルっと通過するに限る」とパナマ・スエズ運河通峡の際に飛鳥Ⅱで出されるウナギの昼食
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