« 中国海警法が明日から施行・トランプ氏をけなしバイデン新政権を礼賛している場合か | トップページ | 海運業界、思わぬ好決算 »

2021年2月 3日 (水)

半日鉄道プチ旅行・「妙な線路大研究」(竹内正浩・著)を読んで

20210203

かねてから不思議に思っていたことがある。東京の西郊外に延びる東武東上線や西武新宿・池袋線、小田急線や京王線はターミナル駅から真っすぐ西に向かっているのに、都心の東側に路線を展開する東武伊勢崎線や京成線は東京近辺でなぜあれほど線路が複雑に曲がっているのだろうか。東武伊勢崎線は北千住から南は線路がくねくねと方向を変えるし、京成本線も上野公園下や日暮里に急カーブがあるほか、路線図を眺めるとあちこちで線路が屈曲しているのがわかる。また京成押上線はせっかく都心近くまで来ながら、永い間なぜか隅田川の向こうの押上で寸止めだったなど、東京の西で生まれ育ちこの辺りに地縁のない私には分からないことが多い。極めつけは両鉄道の線路が平行して走っている千住付近(下地図の黒〇中、京成本線の関谷・東武線の牛田駅近辺)で、ここでは浅草方面行きの東武上り線と、千葉方面に向かう京成の下り線が500米ほどまったく同じ向きに走っている。上り電車と下り電車が同じ方向に向かって走るさまを見る度に、ここはまるで鉄道のラビリンスかと妙な錯覚にとらわれるのだ。


新刊「妙な線路大研究・東京編」(じっぴコンパクト新書・竹内正浩著)がこの疑問を解決してくれた。筆者は膨大な資料に当たり、地理的条件だけではなく政治・行政、往時の軍の施設など多角的な視点から「なぜ鉄道がこの場所を通るのか」「なぜこの鉄道はこんなに妙な線形をしているのか」について詳しく述べている。品川駅の南に北品川駅があるとか、東武東上線や西武新宿線は山手線の内側まで進出する計画があった、などのトピックスに加えて、地下鉄・大江戸線は各駅を出るとまず下り勾配になって節電しながら加速し、駅の手前は上り勾配で減速しやすい構造になっていると目からウロコの解説もあちこちに散りばめられている。とくに本書には「なぜ東武と京成の都心の線路はY字なのか」「浅草と亀戸で悶え苦しむ東武鉄道」「京成の疑惑事件と浅草延伸断念」「なぜ東武線は荒川堤防ギリギリを通っているのか?」と興味深い事項に頁が割かれており、これを読んでやっと永年の疑問が氷解した。


なぜ、東武伊勢崎線や都内の京成線の線路が複雑なのかはこういう事らしい。そもそも武蔵野台地が広がっていた東京の西郊外に較べて、東側は早くから集落が発達していた上に、荒川(隅田川)・中川・江戸川など大きな河川が集まっており、鉄道敷設のための環境が厳しく真っすぐ線路を建設できなかった事が挙げられる。また隅田川より西の都心部は東京市電の路線網が広がっていた上、すでに関東大震災前に地下鉄(銀座線)の建設計画もあり、都市計画上、東武伊勢崎線や京成押上線が隅田川を超えて都心に進出する許可がなかなか下りなかった。そのため京成電鉄は押上から隅田川を超えて西進するのをあきらめ(ただし後年、都営地下鉄・浅草線に乗り入れて都心進出は実現)、別の鉄道会社が日暮里へのルートについて免許を持っていたのでこれを吸収合併しようやく上野方面に路線を伸ばした。また隅田川は川筋が蛇行しているので、その東岸に線路を敷いた東武は川の屈曲に沿って鉄道を作るしかなかった上、大正末期に隅田川のすぐ東に荒川放水路が掘られたため、一旦作った線路の付けなおしを余儀なくされ、ますますウネウネと曲がる路線となった。


この「妙な線路大研究」を読んで現地踏査をしてみようと思い立ち、過日、上野駅から京成本線の各駅停車で関谷駅で降り、そこから東武伊勢崎線の堀切駅経由、鐘ヶ淵駅まで探索に行ってきた。関谷駅で千葉方面に向かう京成電車の各駅停車を下車すると、目の前に東武の牛田駅がある。この牛田駅から東武線で都心に戻るためには、改札口を入り向かい側の千葉県に向かうかのホームに立たねばならないのがなんとも奇異である。しかしここから東武の線路は90度近い急カーブで右に折れて南へ下り、堀切駅から荒川放水路の築堤に沿って鐘ヶ淵に向かうルートをとる。「妙な線路大研究」によると荒川放水路ができる前は、東武の線路は景勝地の堀切菖蒲園近くまで今は水路となった地をもっとゆったり大きなカーブを描いていたが、工事の完成で築堤の下をショートカットで南下せざる負えなくなったのだと云う。線路は鐘ヶ淵でまた右に急カーブをとって元々あった線を浅草や押上に向かうようになっており、水にまつわる歴史がこの近辺のトリッキーな線路配置を際立たせている。夕暮れにぶらぶらと歩きつつ、荒川放水路の築堤から東武伊勢崎線の線路を見ていると、ひっきりなしに通るのは地下鉄・半蔵門線経由で乗り入れてくる東急の車両で、東武が都心乗り入れに苦労したのは遠い過去の出来事なのだと改めて思い起こさせてくれた。

20210203_20210203201001
東武伊勢崎線と京成線
東武線(赤)は荒川(中央)と隅田川(その左)の間を苦労しながら走る。牛田と鐘ヶ淵間は荒川開削までもっと大きなカーブだった。
京成線は押上線(下の紫)が隅田川の手前で終わり、日暮里までの現本線(上の紫)は後年に吸収合併した他鉄道の免許線である。
〇印が京成と東武が逆方向に向かって走る牛田駅付近

20210203_20210203201002
荒川放水路開通で築堤の下を走るようになった東武伊勢崎線の線路(鐘ヶ淵から上流を望む)

20210203_20210203201101

鐘ヶ淵駅の大カーブ。築堤下(右)を走ってきた線路はここから本来の経路で浅草(画面奥)へ向かう

« 中国海警法が明日から施行・トランプ氏をけなしバイデン新政権を礼賛している場合か | トップページ | 海運業界、思わぬ好決算 »

鉄道」カテゴリの記事

コメント

バルクキャリアーさま

今回のテーマは親子で大変興味深く拝読させていただきました。鉄道の線路から「地理、政治行政、歴史」を学べるとは一つの立派な「学問」ですね。大学の有り体の経済学等より遙かに奥深く値打ちがあると思いました。

単なる鉄オタ中学生には少々難しいようですが「何故この様な線形なのか」と視点を変えて乗車するだけでも、これまでと違った世界が展開し「思考力を養える」のではと期待しております。これまた良本の紹介UP記事感謝申し上げます。

M・Yさま

鉄道趣味はちょっと思いつくだけで理工系では機械工学、電気・電子工学、冶金、土木、デザイン、経営工学などと関わり、文科系では経済・経営、地理、政治、法学、社会学などが含まれます。これに写真や絵画、旅行なども加わるので、裾野の広さからしても鉄道趣味は数ある趣味の中でも王道に近いのかもしれません。

ご子息は今はいろいろな列車に乗り、社会見分を大いに広めておかれたら如何でしょうか。成長して将来は鉄道の興味から離れても、きっと鉄道の旅から得た体験は何か人生の役にたつものと信じております。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 中国海警法が明日から施行・トランプ氏をけなしバイデン新政権を礼賛している場合か | トップページ | 海運業界、思わぬ好決算 »

フォト
2021年4月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想
無料ブログはココログ