海運業界、思わぬ好決算
20,000個積み超大型コンテナ船"MOL TREASURE"(商船三井運航)2018年4月 スエズ運河・スエズ港錨地にて
2020年4月-12月期の決算が発表され、武漢ウイルスで航空会社が苦境に陥っているほか、外出自粛が広がり旅行や外食、衣料品への支出が大きく落ち込んでいると報道されている。一方でデジタル関連やゲーム機器、通販や宅配など家庭で消費する項目に関連した業種は業績を伸ばしているそうだ。そんな中で大手外航海運各社の2020年度通期予想が発表になり、近年にない高い利益水準になっているのが目を引く。期初の予想では日本郵船がトントン、商船三井は数百億円の赤字で、総じて業界として先行きが見えないとしていたが、ここへ来て郵船は1,600億円・商船三井が950億円・川崎汽船が500億円の経常利益をあげる予想となった。武漢ウイルス汚染が世界中で拡大していた昨春には誰も予想だにしなかった数字である。原材料やエネルギー関連の輸送が想定したほど悪化しなかったことに加え、何と言ってもコンテナ船部門が未曾有の好況に沸いているのが各社の業績を大きく押し上げた。
青息吐息だった邦船三社(郵船・商船三井・川汽)のコンテナ部門が寄り集まって出来た、ONE(OCEAN NETWORK EXPRESS)は通期利益が25億ドル(約2,600億円)というから大変な好決算である。武漢ウイルスの感染拡大で需要減を予想し、コンテナ船の大規模な欠航やサービス体制の合理化を図っていたところ、昨年夏からの想定以上の世界的な巣ごもり需要によって船腹スペースの供給が追い付かない状況となった。巣ごもり需要といえば家庭で消費する日用品やゲームなどの通信機器が挙げられるが、これらは総じて中国などアジア諸国で作られ北米で消費されるため、アメリカへ向かったコンテナが滞留して戻ってこないことも市況を押し上げる要因となっている。加えて世界的な港湾の混雑、さらにアメリカでは一部の港で湾荷役業者からウイルスのクラスターが出て作業が遅れる事などの事態が混乱に拍車をかけている。
顧みればここ数年、主要航路には20フィート換算のコンテナを10,000個から20,000個も積める超大型船が次々と就航して、貨物スペースの供給を大幅に増やしてきた。2018年の飛鳥Ⅱのワールドクルーズの途中、世界中の港や運河、海峡などで超大型コンテナ船が列をなして航行するさまを見て、船舶の供給過剰でコンテナ船の市況は当分回復しないと思ったものだが、あれから僅か2年でこういう需給タイトな状況になるとは世の中わからないものだ。確かに我が家でもこのウイルス禍で旅行が思うようにできないので、「飛鳥Ⅱ絶景世界旅行」のDVDセットを買ったり、高機能フライパンを買ったりと、普段なら買わない家庭用品を購入している。我が家でさえこうだから家の広いアメリカの家庭なら、もっと気軽に台所用品や家電、ゲーム機器を買おうとするだろうが、個々の家庭の消費がこれほど大きな物流の需要になるとは驚きだ。
しかしこの好況に味をしめて大型の新造コンテナ船を造ったりすると、その後に必ず到来する不況で反動が来て、その部門がお荷物になるのが海運業界の常。私が北米コンテナ船航路の企画・運営をしていた1980年代は中国という市場もなく、日本から北米西岸向けのコンテナ船は800個から1,600個積み、ニューヨーク航路がせいぜい2,000個積みと、今ではアジア域内のフィーダー航路を走る船並みの大きさだった。当時は海運業は万年不況産業などと揶揄されたが、これだけ設備や船舶が大型化された結果、巨額の利益をコンテナ船が生み出すようになるとは、世の変化の激しさ、浮き沈みの大きさに改めて目を瞠る。設備産業の投資とは難しいものだが、逆風の中でもあきらめずに投資をして商売を続ければいつの日にか陽の目をみることもある。いま世界中でクルーズ船の運航がウイルス禍で停止し、米国の大手クルーズ船会社などはキャシュフローがあとどのくらい持つかなどと取りざたされるが、この危機を乗り越えれば必ず浮かぶ瀬もあると、大手海運会社の決算を見て一人思った。
5,000個積みコンテナ船"NYK DAEDALUS" (日本郵船運航)2007年建造で15年前は大型船とされた 2018年6月 パナマ運河・ガツン湖に
14,000個積みコンテナ船"MUNCHEN BRIDGE"(川崎汽船運航)2015年建造 2018年5月 スペイン・バレンシアにて
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コメント
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バルクキャリアーさま
武漢ウイルス禍による「巣ごもり需要」で邦船三社が好決算とは、専門家ならではの解説で素人には目から鱗というか非常に新鮮で勉強なります。どこで何がどう結びつくか分からないものですね、例えは適切でもないかもしれませんが「風が吹けば桶屋が儲かる」的に頭を柔軟にしなくてはとも思いました。
さて、森元首相が女性蔑視発言をしたとしてメディアで批判されていますが実に気の毒で報道の仕方に憤りを感じます、他にもっと優先して報道することがあるでしょうに。
公の場で正直に本音を漏らした不用意さはあったかもしれませんが、特定の誰かを傷つけたわけでもなく「袋叩き」にあうほど酷い発言だったとは思いません。一国の首相を務めスポーツ振興においては功績があり、83歳の高齢で病身を押してでも奮闘する人間に対して少しは「リスペクトや寛容さ」があってもいいと思います。
この問題を必要以上に騒ぎ立てているのは、学術会議任命拒否問題で「学問の自由が脅かされると頓珍漢な主張」をした輩と同種(とんでもサヨク・リベラル)だと思います。
森元首相の些細な発言が、彼らの独善的な主張を展開する絶好の機会となるとは実に嫌な風潮です。
中国海警局の船が日本領海に連日侵入しましたが、バルクキャリアーさまが仰る通りミサイルを打たれて初めて「何が今の日本に大切なのか」と目が覚めるのかもしれませんね。
那覇空港より。
投稿: M・Y | 2021年2月 8日 (月) 16時54分
M・Yさま
変わらずご活躍のご様子。お慶び申し上げます。
船便が一杯で、受注に間に合わなくなる部品や製品は運賃が比較にならないほど高くとも、今や航空貨物で運ばれているとの事。瀕死の航空会社も焼け石に水とは云え貨物輸送で一息ついているのではないでしょうか。
森さんの件
彼のしゃべった場所や表現の仕方は些かまずかったかも知れないが、それほど大騒ぎする問題なのでしょうか。まずポリコレに反する(と勝手にその筋の人から決めつけられた)発言は、すべて言葉狩りにあってメディアなどにやっつけられるのが健全な社会なのでしょうか。大いに疑問が湧きます。
少しでも弱者(と云われる人)を傷つけた(と認定される)と、背景や前後の脈絡も顧みずやっつけるのが表現の自由が保証された世界なのでしょうか。そのくせその筋の人(バカなリベラルやサヨク)たちは、安倍さんが体調を崩して辞任したことを嘆いたユーミンに対し「早く死んだ方がよい」などと暴言を発しています。自分たちの脈略内なら何を言っても良いが、敵と認定した人には容赦ない罵声を浴びせるのがバカなリベラルやサヨクですね。リベラルとは自分だけでなく他人の自由をも尊重する生き方・主義ですが、今の彼らはリベラルに名を借りた全体主義者だと云えましょう。
15年前の「エンタの神様」をVTRで見ると、今では言葉狩りにあって放送禁止のセリフが随所に。往年の名画もそうですね。私の好きだった「8時だよ全員集合」などは、いまではBS以外で再放送できないくらい差別発言が出てきます。しかしそれを見て育った大人がみな悪人になったのでしょうか。言葉狩りは健全な風刺や社会批判の文化を崩壊させるものだと私は思っています。これからの世の中は、皆が差しさわりのない無難な言葉ばかりを選び、一々ポリコレに反していないか気にしながら喋る殺伐とした社会になれというのでしょうね。
そういう本家本元の私の知っている多くのアメリカ人は(男も女も)、酒を飲んで仲間内では、我々でさえ喋らないようなエゲツナイ言葉を平気で大きな声で発しています。
区別と差別をごっちゃにし、ことさら言葉尻をとらえ言葉狩りをする風潮も、どこかで皆が「唇寒し」と気が付き、あの時代は本当におかしかったね、と反省する時代がくるのではないかと私は考えています。森さんの事はこれまであまり好きでありませんでしたが、今回の批難を見て、俄然「バカを気にするな、モリ、がんばれ!」と声援を送ることにしました。
投稿: バルクキャリアー | 2021年2月 8日 (月) 22時34分