鳴子温泉へ師走の旅行
この週末は宮城県北にある鳴子温泉に行って来た。温泉番付けなどで西の別府温泉などに対し東日本で常に上位に入る名湯で、雪景色を眺めつつ入浴を楽しみたいと思っての初訪問である。鳴子は源義経も利用したと伝えられる古くからの温泉で、日本に11ある泉質のうち9種類も湧き出ているそうだ。鉄道では東京から東北新幹線の古川駅または山形新幹線の新庄駅から陸羽東線で訪れるしかなく、奥羽山脈の山ふところに僅かに分け入った所にあるというのが名湯らしくて良い。武漢ウイルス騒動で列車も宿も空いている今こそ、我々のようなシニアにとっては旅の好機といえよう。ただ東北新幹線に乗車すると、中高年者の団体旅行や我々と同じく「大人の休日俱楽部」割引を利用したようなカップルが多数目につき、想像したよりも高い乗車率に少々驚いた。世の中すべからく自粛といいながら面従腹背、一筋縄で行かない元気な年寄りが多いというところだろう。
古川駅で東北新幹線を降り一時間に一本もない陸羽東線のディーゼルカーに揺られること40分余、鳴子温泉駅に到着すると駅のホームにはほのかに硫黄の臭いが漂っていた。雪の積もる駅前は少し前ならストリップ劇場やら射的場があっただろうと思われるいかにも温泉の街という風情で、今でも土産物屋やこけし販売店に並んでフィリピンパブが営業している。妻が検索で厳選した宿は「源泉かけ流し」「部屋食」「部屋トイレ」を満たした駅から徒歩圏内の「旅館 すがわら」で、比較的こじんまりした昭和の風情漂う木造の和風旅館である。館内は温泉熱による暖房が効いているものの、部屋の端にあるトイレ等は暖房が届かずマンション住まいに慣れた我が身にはちと寒い。もっとも妻は父親の実家のあった舞鶴の寒いトイレを思い出すと懐かしがっており、こんな体験も思い出の一部になるのだろう。
足湯も入れて9箇所ある館内の湯のうち、まずは夕食前にこの時間帯は男湯になっている「美肌の湯」に入る。冷えた身体を最初はヒリヒリする位に熱いアルカリ泉に浸し、露天風呂でチラチラと舞う雪の景色を眺めていると、武漢ウイルスや我が手術の事などこの一年の出来事が脳裏に浮かぶ。妻は女湯になっていた「摩天の湯」に「青色(すがわらブルーと呼ばれるらしい)になっているかもしれないから、明るいうちに」と急いで出かけていったが、戻るなり上気した顔で「青くなかったけど、露天の熱いお湯に浸かった瞬間一年の邪気が音を立てて体から出て行った」と絶賛している。さっぱりした後の念願の部屋食は、食べ切れないほどの皿に仙台牛のメイン料理で、妻はすき焼き、私はステーキだった。サービスで熱燗のお銚子が1本づつ付いたのをゆっくり呑みつつ地元のテレビ番組をつけっ放しにして、見るとはなしに見られるのも部屋食の醍醐味である(家では基本的に食事中のテレビは禁止されている)。ひさしから垂れ下がっていた雪庇が、突如ドドズズンと音をたてて落ちるのを聞きつつ、旅館の湯をいくつか巡ってほっこりと楽しんだ雪国の宵であった。「大人の休日倶楽部」で運賃は30%、GOTO トラベルで宿代は35%引き、その上に地域共通クーポン券でお土産代まで貰って、いまは旅をしなければ損々という感じだ。
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バルクキャリアーさま
文章から深々と雪降る東北名湯での美しい情景が目に浮かびました。
私が評価するのもおこがましいですが、「戻るなり上気した顔で」の件はどこか川端康成のタッチを連想させ「秀逸」だと思いました。ディーゼルカーで雪をかきわけ進む陸羽東線もからの景色もさぞかし美しかったことでしょう。
時を同じくして週末は家族で別府温泉に滞在しましたがこちらは超大箱のホテルで子連れが走り回り活気はあるものの風情はありませんでした。まさに大人の休日のこの記事を読んで偶には夫婦で純和風の温泉宿もいいなと思いました。
投稿: M・Y | 2020年12月22日 (火) 18時37分
M・Yさま
温泉評論家の八岩まどか氏なる人が作った「温泉番付」では東の横綱が鳴子温泉に対し西の横綱が別府となっていました。期せずして東西の横綱温泉に旅行したわけですね。和風の温泉宿も手作りでなかなか風情がありました。
外出自粛などいろいろ煩わしいですが、一応の当たり前の対策をした上で、旅行に観光に普通に暮らしたいですね。
今月は25日で実質終了という会社も多いようですが、年内残り少ない仕事もどうかお元気でご活躍下さい。
投稿: バルクキャリアー | 2020年12月22日 (火) 23時01分