アーミテージ・ナイ 第5次報告書
同盟重視のバイデン政権の誕生がどうやら確実になりそうな情勢の下、リチャード・アーミテージとジョセフ・ナイの二人の米国知日派の名前がまたメディアの紙面を賑わすようになってきた。一昨日(20日)の読売新聞朝刊「地球を読む」にはアーミテージ氏が、これまで安倍政権がアジアと周辺地域の安定に大きく貢献した事を高く評価し、日米同盟に於いて、もはや日本は従属的な立場ではなく「米国の指導者たちは戦略的思考の面でも日本側を頼りにしている」とする論考を寄せている。彼は日米同盟をいま責任の分担や負担の面から捉えるのではなく、これが「神聖な絆」であり「力の共有」であると述べ、「日本は幾つかの分野で先頭に」立っていると共に、日米の新政権が手を携えて多極的な世界の難局に立ち向かうことに期待を寄せている。
アーミテージ氏は元国務副長官で、海軍特殊部隊の一員としてベトナム戦争に参加、いくつもの修羅場と死地を潜り抜け、日本の外国当局と幅広く気脈を通じこれまで日米関係を切り盛りする役割を担ってきた。彼が、これまた日米同盟の重要性を常に発信してきた知日派のジョセフ・ナイ氏(元国務次官補)と共に過去に4回の「アーミテージ・ナイ緊急提言」を発表してきたのは良く知られる通りだ。私もかねてからわが国を取り巻く安全保障の分野で積極的に発言するアーミテージ・ナイ両氏の言動に興味をもっており、このブログでも両氏のレポートについて2010年12月21日「日米同盟 VS 中国・北朝鮮」及び2011年8月26日「アーミテージ・ナイ対談」でアップしてきた。
この12月になり、日米の新政権発足を好機としたのか両氏による最新(第5次)の超党派レポート(The US.-Japan Alliance in 2020・ AN EQUAL ALLIANCE WITH GLOBAL AGENDA)が米国ワシントンDCのCENTER FOR STRATEGIC & INTERNATIONAL STUDIESより出されたので、ボケ防止となまった脳内の活性化のために原文を読んでみることにした。と云っても提言は実質9ページほどで難しい単語もわずか数か所、かつ論理が一貫しているため主な内容を理解するのにさして骨が折れるわけではない。小説などと違って書き手の意図や目的をなるべく直截に読み手に伝えるこのようなレポートなどが、やはり頭の体操には良いなどと思いつつ読み進んだ。
レポートは冒頭で「中国の台頭とアジアの混迷の時代に日米安保がかつてなく重要であり、日米両国は同じ価値を共有する者として協力が必要である」ことが述べられる。さらに安倍政権の卓越した手法で集団的自衛権が認められTPPが発効し、インド太平洋構想が掲げられた事を多とし、菅首相とバイデン大統領はなるべく早い時期に会談を行うことが提言されている。次に地域と台湾問題での最大の脅威は中国であり、日米同盟はこれに対処しなければならないが、同盟国と同陣営はCOMPETITIVE COEXSITENCE(競争的共存?)の枠組みを構築する必要性を説いている(COMPETITIVE COEXSITENCEの部分は具体的な説明なし。競争するなかの共存の意味か?)。北朝鮮の非核化については短期的にはできないと覚悟するものの、抑止と封じ込めは可能で対話のドアを閉ざすべきではないとしている。
また限られた防衛予算のために日米の共同技術開発や同盟内で運用の効率化を図ることが求められるとともに、日本が米・英・豪・カナダ・ニュージーランドの諜報共有ネットワークであるファイブ・アイズに加入し、日米同盟を核としてアジアだけでなく欧州、インド、豪州などと網の目の連携が急務であることをレポートは提言している。このためには在日米駐留経費協定の締結を急ぎ、同盟は「重荷」ではなく「共有する戦略構想実現の手段」と捉えることが必要なのだという。朝鮮半島については、地域の安定のために過去でなく未来志向で米韓同盟の維持や日韓融和の必要性があることをレポートは示しているが、ただ私は、現実に米韓同盟から離脱しようとし、日本に対して過去の精算が終わっていないと理不尽に迫る韓国・文政権にとってこのレポートは「馬の耳に念仏」の類いに映るのではと危惧した。
最後に米国はTPPに参加すべしとした上で、経済技術協力や気候変動問題、5Gネットワークの構築などで、"The US-Japan alliance is positioned to lead in evolving multipower world"(日米同盟は多極化構造が進展する世界をリードする位置にある)と両国の役割に期待し、より対等な日米関係の構築・発展を目指すことを提言している。一読して感じたのは冒頭の読売新聞のアーミテージ氏のコラム通り、過去のアーミテージ・ナイ提言より一歩踏み込んで日本の立場をより持ち上げ、わが国のリーダーシップを今まで以上に期待していることだった。トランプ‐安倍の個人的な親密さをベースにした日米関係から、バイデン‐菅政権による同盟重視の関係へ変わる一方で、世界の警察ではいられない米国と中国の軍事大国化という現実を踏まえた提言であろう。しかし翻ってわが国の政治を見ると、国会では桜や学術会議で延々と無駄な時間を費やし、安全保障はおろか武漢ウイルス問題でも政府の施策を批難する一方で何ら現実的な対案を提示できない野党の存在がある。中共の覇権主義が世界を混沌に陥れようとする今、この提言に沿ったような戦略的な論戦を国会で聞きたいところだ。
« 鳴子温泉へ師走の旅行 | トップページ | 2020年の年末(武漢ウイルスの一年) »
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 兵庫県知事選と新聞・テレビのオワコン化(2024.11.20)
- 祝・トランプ勝利、試される日本、オワコンのメディア (2024.11.07)
- 衆議院議員選挙 自民党惨敗(2024.10.27)
- まずトランプになった 来年は日本の覚悟も試される(2024.07.22)
- 靖国参拝で自衛隊幹部が処分されたことに異論を唱える(2024.01.28)
バルクキャリアーさま、那覇空港よりおはようございます。
アーミテージ報告書を原文で読み込み、これだけの分量・熱量で論評を発信されるとはパワフルというかその情熱に感服致します。中国共産党(CCP)の脅威を肌で感じ日本の政治及びメディア報道を憂う気持ちが筆を走らせるのでしょうか、日本国を真に想う熱い気持ちが伝わってきます。ラスト3行の思い全く同感であります。
どうでもいいサクラの問題を今頃持ち出すのもトランプ大統領と太いパイプを持つ安倍前首相の復権を阻止したい中共の思惑が働いているのだと思います、それだけトランプ大統領の存在を中共が恐れている証かと。
バイデンでほぼ決まりかとは思いますが1月6日までに中共に真に対峙出来るトランプ逆転に一縷の望みを持ちたいです。
昨日は自分の目で確かめようと極東最大の嘉手納基地を見渡せる道の駅かでなの4階展望台を訪れました。戦闘機F15イーグルの離発着訓練を頻繁に行いKC135空中給油機も目にし尖閣、台湾あたりの有事に備えていると肌で感じました。
GWは来島自粛をあれだけ訴えていたデニー知事も最近はコロナ感染者が増えてもGO TO停止とは言わなくなりました。沖縄の感染者の移入率は7月から10%未満であり感染者の9割超は沖縄本島で発生しており日本人観光客の来島は感染者増に関係ないと認識したのかもしれません。
しかし、時すでに遅しでホテルも飲食店も超閑散で沖縄経済は著しく悪化し疲弊しています。失業者が増え島民は経済苦に喘ぎその不満の行き先を探しています。
そこに中共が目をつけ札束で救世主がごとく振る舞い親中のデニー知事に揺さぶりをかける可能性も十分あります。その時は地元の左翼紙琉球新報もここぞとばかりに煽動報道するでしょうね。
その様な危惧を抱きながら今年最後の沖縄を後にして東京便に搭乗するとします。
投稿: M・Y | 2020年12月23日 (水) 10時04分
M・Yさま
毎日ナントカの一つ覚えで 「感染者〇〇人」と云うニュースがバカバカしくてテレビを見なくなり時間ができたためでしょうか。ア―ミテージ・ナイ報告に何がどう書かれているか読みたくなったものです。安倍政権の功績を称え日本の指導力に期待する、という事が処々に書かれており少し面映ゆい気持ちがしますが、それが海外(除く中・韓)から日本を見る目なのでしょう。わが国のリベラルと云われるサヨクやメディアの日本憎しをもとにした評価とは雲泥の差です。
バイデンは多分失敗するでしょうから4年後にトランプが元気なら復活する可能性は濃厚だと思います。日本でも二階氏が叩かれ始めましたね。で安倍復活という可能性も十分あるでしょう。
道の駅かでなで嘉手納基地を見ることができるのですか。今度行く機会があったら是非立ち寄ってみます。中共は潜在的に沖縄は自分のものと思っています。尖閣と台湾の次に第一列島線に連なるのは沖縄ですね。中共は沖縄から米軍を追い落とすためにこれから様々な攻勢をしかけてくることでしょう。少なくとも我々はGO TO沖縄で沖縄経済を盛り立てたいです。
投稿: バルクキャリアー | 2020年12月23日 (水) 17時55分