飛鳥Ⅱ30周年オープニングクルーズに乗船して(感染症予防編)
約300日ぶりでクルーズを再開した飛鳥Ⅱの30周年オープニングクルーズ(3泊4日)からさきほど下船した。今春のダイヤモンド・プリンセス号でおきたウイルス汚染騒動以来の首都圏からの初クルーズとあって、11月2日出港当日は横浜港・大桟橋はメディアの取材クルーも目立ち、華やかな出港風景とはちょっと異なった雰囲気が漂っていた。今回の乗船受付はいつもと異なり大桟橋の奥にある衝立の向こう、CIQエリアの中で行われ、なにやら海外クルーズに出港するかの様なものものしさである。また乗船受付場所に設置された体温計で熱が37.5度以上あると乗船できずに荷物を持って帰ることになるため、今までの様に早めに大桟橋に着くなりスーツケースを預けゆっくりと乗船手続き開始を待つという訳にもいかなくなっていた。
すでに乗客は1週間前にPCRを検査を受けているのだが、船内に足を踏み入れると「考えられる対策はすべて行いました」とクルーが言う通りのかなり厳格な対策が施されていた。乗客の動線のあちこちに検温機が設置され体温を計らないと前に進めぬ上、船内ではマスク着用が要求され、飲食後にマスクをし忘れたりするとフィリピン人クルーがすかさず「マスクお願いします」と声をかけてくる。多くの人が触る備品は可能な限り置かない主義との事で、普段は大浴場に置いてあるヘアリキッドやヘアトニックさえなく、脱衣所に山積みされていたタオルは、旅館のように一人一セットが指定されたロッカーに入っていた。ぼーっと船の航跡や流れる雲を眺める私のお気に入りの場所、後部デッキのデッキチェアもすべて撤去されており、何もないチーク材張りのスペースが寂しげに広がっていた。
ダイニングやリドのテーブル・椅子は人が立つ度にクルーがアルコール消毒をしてまわり、その徹底したサービスぶりを見ると「絶対ここから感染させないぞ」という意気込みが伝わってくる。夕食は同室者2名のみの指定席で飛沫防止のため相対して座れず、斜めまたは横に並んだ配置で食べるようになっている。我々は以前のワールドクルーズで知り合ったご夫婦と一緒にテーブルを囲みたいとあらかじめクエストしておいたものの、4名で食べることは叶わず隣り合ったテーブルの透明なアクリル板越しとなってしまった。見れば大家族で乗船したグループは、部屋別の2人のテーブルが各々アクリル板で仕切られているので、次第にアクリル板越しに会話する声が大きくなっていた。
いつも夕べにはダンス会場となるクラブ2100は、フロアーに椅子を置いてしまい踊れないようになっていたのは、やっと人前でも気後れせず踊れるようになった私にとっては少々残念な措置である。それでもパームコートや飛鳥プラザではバンドの生演奏があるので「ここでも踊ってはいけないの?」と日本人スタッフに聞くと「本当はご夫婦では踊って頂きたいのですが、我も我もと参加され、ダンス会場のように密になってしまうのが怖いのでご遠慮願っております」と申し訳なさそうな答えが返ってくる。さて飛鳥Ⅱの定員は700名以上なのに対して今回はバルコニーのない7・8デッキのK・Eステートキャビンの販売はなく、乗船客は330名ほどだそうだ。このような状況下ではやはりリピーターが多いようで、普段はショートクルーズには乗らない1000泊以上のヘビーな乗客や、どこかのクルーズで一緒だった見覚えのある顔と船内あちこちで出会ったのが印象深い。
飛鳥Ⅱは本来の定員に関わらずしばらくは上限400名まで減らす一方で、混雑を回避するため夕食やショーは2回制とし「密」を防ぐ体制である。通常3~400人の乗客なら夕食やショーは1回制なのに、採算的に厳しいであろう中で大変な努力をして運航再開にこぎつけた事がわかる。いつもにこやかで少々のことなら良いですよ、と見逃してくれるフィリピン人のサービスクルーが、ダイニングエリアに入る際の検温やマスクに厳格なのは、感染症予防に関してよほど厳格な指導が為されていることの証であろう。聞けば彼らだけでなく日本人クルーも2週間に一度のPCR検査を受け、一度乗船したら休暇までの数ヶ月間は船からまったく降りられないと云うから、通常ではない非常に厳しい労働環境だ。船内は徹底的に感染症対策がなされているので乗客にも協力を求めつつ、絶対に感染者やクラスターを出さない、との飛鳥Ⅱの強い決意と覚悟を肌で感じた4日間のクルーズであった。今後、クルーズ船の安全が確かめられたら徐々に対策も緩和されるのだろうが、いつまでも思い出に残りそうなオープニングクルーズとなった。
11月24日追記:妻の乗船記/PCR検査と船内の感染症対策詳細
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コメント
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オープニングクルーズ乗船と旅行いつもと違い緊張感もありお疲れ様でございました。
レポートありがとうございます。感謝申し上げます。
このような異常に監視され制約されたクルーズいつまで続けるのでしょうか、私だったら精神的に持ちません
し、腹が立つて怒りまくって八つ当たりするかもしれません。(笑)
まだ時化で船が揺れたり遅れたりするほうがましです。
のんびり、まったりの自由にできるクルーズが戻ってきて欲しいと願います。
投稿: にっぽん丸 | 2020年11月 6日 (金) 09時57分
バルクキャリアーさま
旅行業において最も武漢ウイルス禍のあおりを受けたクルーズ業界ですが、飛鳥Ⅱオープニングクルーズの出航や清水港に寄港する報道をテレビ等で感慨深く拝見しました。
日本を代表するフラッグシップが11か月ぶりに運航再開となると大変な注目でしたね。それ故に大変な努力を経て絶対に失敗させたくない(感染させたくない)という運航側の意気込みが本記事から十分伝わってきました。
諸々の制約がある中で今回のクルーズに参加された方々は、筋金入りのクルーズ愛の持ち主で楽しむというより「応援してやろうじゃないか」という気持ちが強かったのかなとも感じました。今後においては実績を積み重ね諸々の制約が緩和されてごく一般の人がクルーズを気軽に楽しめる時代が到来することを旅を愛する者として願います。
昨夜は那覇の国際通りで仲間と飲んでいましたが相変わらずの閑散ぶりで現地経済は非常に厳しいです。沖縄は今年20回以上来ていますが、今後も微力ながら経済に貢献出来るようにお互い頑張ろうと気勢をあげた次第です。那覇空港ANAスイートラウンジより
投稿: M・Y | 2020年11月 6日 (金) 10時37分
M・Yさま
飛鳥Ⅱの船内の努力は正に「絶対に失敗は許されない、感染が起きたら日本のクルーズは終わりだ」の意気込みを感じさせてくれました。それゆえこちらは少々窮屈なところもありましたが、その心意気を感じて協力しよう、大いに応援しようという気持ちになりました。
運航再開後の今が一番制約も厳しく、これで安全が確認されれば徐々に緩和するつもりだとスタッフも言っております。状況が改善することを祈りましょう。
那覇も元気がないのですか。早く経済が戻って街に活気が戻ってくれば良いですね。沖縄にも久しぶりに行ってみたいね、と家内とは話しております。
投稿: バルクキャリアー | 2020年11月 6日 (金) 20時43分
にっぽん丸さま
たしかに下船後一日目の今日は、いつものクルーズとは違う疲れを感じています。いつもは遊び疲れ、はしゃぎ疲れですが、今日は緊張から解放された疲れとでもいう感覚です。
ただ高い代金は別にして、次の休暇まで何か月も上陸さえできないクルーのことを考えると、乗客が喜んで下船したことを伝えるのが何より彼らへの応援になると思います。このクルーズに乗船できて良かったといまは思っています。
これで安全が確認された暁には、徐々に船内の制限も緩和されるはずです。自由なクルーズができるものもう少しの辛抱ではないでしょうか。
投稿: バルクキャリアー | 2020年11月 6日 (金) 20時57分