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2020年7月 6日 (月)

還暦からの底力

20200706

出口治明と云うなぜか今評判の人物による講談社現代新書である。新聞の広告によると多くの大型書店のベストセラーランキング第1位で「大反響!たちまち20万部」なのだそうだ。還暦はとっくに過ぎたし、普段この手の本、たとえば「定年後の生き方」などのジャンルにはあまり興味が湧かないのだが、新聞広告の大きさや本屋の店頭にプロモーションで高く積まれた本書をみて、にわかにどんな著者なのか興味を覚えて読んでみることにした。出口氏は大手生保の役員のあとネット生命保険会社を立ち上げ、今は九州で新しい試みをする大学の学長であると本のカバーに記されている。なんでも稀代の読書家である、という事をどこかで読んだ気がするし、世界や日本の歴史に関する本も書かれているようだ。ただ以前は経済人、今や教育者の身で極めて忙しそうなのに「古今東西の歴史・文化なんでもござい」で「知の巨人」などと聞くと、池上彰のような百科事典やウイキペディアのコピペの達人ごとき、どこかうさん臭い人のような気がしないでもない。


本書の中身としては、高齢者が保護されるべきという考え方は誤りで、次代を担う若者のために高齢者は体力・気力・境遇などに応じて能力を発揮すべし、「変態オタク」系を養成したり、多文化共生を目指す教育なども取り入れるべし、女性の活用やプロモーションは法的強制を伴っても断行すべしなどと、よく聞くメディア受けする主張が述べられている。また老若問わず生きていくのは読書が必要で、なかんずく古典を読むことは知識 x 考える力 = 教養であり、それが国の力になるとの自論も展開される。まさに読書家たる氏らしい提案である。「人生の楽しみは喜怒哀楽の総量で決まる!」と書かれている通り、高齢者は自らを老人などと規定せずに積極的な生き方をすることを薦めており、総じて本屋の店頭で手に取って購読を決めた時に予想した通りの内容であった。本書は大筋において趣旨は理解できるものの、一方で「還暦本」と言っても年齢が紡ぎだす人生の味わいなどにはほとんど無縁で、出口氏のエネルギッシュな生き方や考え方だけが伝わってきた。


出口氏は本書で自分は保守主義だと規定したうえで、保守とは「人間はそれほど賢くない」という前提に立って、理性や理想を重視するよりは伝統や慣習を重視する考え方だとしている。私も保守の定義についてはその通りだと同意する。しかし氏は現在の憲法は「いまの憲法でそれほど困っている人がいる」とは聞いたことがないから「手をつける必要」はなく「わざわざ寝た子を起こさなくてもよいというのが本来の保守主義の考え方であります」(P.188)と書中で論理が一気に飛躍したのには驚いた。これで本当に保守主義者なのか?現憲法の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」などとする前提は、ただの「理想」で決して保守思想とは相いれず、ましてわが国には中国や朝鮮の「公正と信義」を信頼してきた伝統などは一切ない。いま眼前では中国の覇権主義、北朝鮮の拉致や核問題、武漢ウイルスでの市民生活の行動制限など、憲法に関わる「困ったことが沢山がおきている」のに「それほど困っていない」とはどういう認識なのだろうか。斯様にこの種の本によくある牽強付会の主張も散見され、また謙遜しているようで実は自慢につながる挿話もちらほらあったのがやや興ざめであった。どうも「知の巨人」などと言われる人の本は苦手である。

 

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