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2020年1月30日 (木)

「草花たちの静かな誓い」宮本輝

20200130

数年前に新刊で出版された宮本輝の「草花たちの静かな誓い」が、集英社から文庫本となって出たので早速読んでみた。私には2年前の「田園発 港行自転車」(2018年2月2日ブログ)以来の宮本輝である。物語は主人公である日本の青年が、アメリカに住む亡き叔母の莫大な遺産を整理するなかで、死んだことになっていた叔母の一人娘、すなわち彼のいとこに関する秘められた謎を解いていく筋書である。今回は珍しくカリフォルニアが舞台となり、かつ推理小説仕立てとなっているのが特徴だ。なぜアメリカなのかは、物語がすすんでいく中で解き明かされ、題名の「草花たち」も作中で違和感なく役割が与えられて宮本輝らしい嫌みのない小説になっている。謎解きといっても「息も継がせぬ場面の連続」ではなく、いつもながら「時間の流れ」を大切にした筋書で、いかにもと思わせるストーリーだ。


それにしてもこの小説の舞台設定とアメリカ生活に関する記述は、我々が彼の地を訪れた際に「なるほど!」「そうだよね!」と感ずるようなことが網羅されていて話の展開に厚みを加えている。叔母の家がロサンジェルスの高級住宅地パロス・ベルデスであるならば、作中に登場する弁護士や日系のガーデナー、プエルトリコ人の家政婦、旧ソ連系の探偵などがいかにも多く存在していそうだし、そういう彼らの会話から移民の国「アメリカ」の実態が垣間見えるように巧みに書かれている。アメリカで久しぶりに運転する際の右側通行に慣れるまでの緊張感や、このブログでも書いたように「日本人はコストコと呼ぶが、アメリカ人のほとんどはコスコと発音するのだ」などの記述も読んでいてニヤっとさせられる。プロットをつくるにあたり、作者は現地を訪れ人々の生活を注意深く観察したことがうかがえる。


謎解きの中で明かされるのは、幸せの絶頂から突如として不条理の世界へ陥ったが、強い「愛」の力で運命に抗おうとする叔母の生きざまと、それを支える人たちの勇気である。人間の業(ごう)の深さと、それに対する愛の強さをモチーフにするいつもの宮本輝ワールドが、ここでまた披露される。もっとも純粋なミステリーではないから、読者は小説半ばで筋の展開がだいたい読めるのだが、南カリフォルニアの情景や美しい植物、それに善意に満ちた周囲の人間模様が、凛とした生きた亡き叔母の行動を浮き立たせ最後まで読者を飽きさせることはない。物語の最後はプー太郎だった主人公が叔母の遺産をもとにアメリカで本気で事業を起こすという設定で、これも世代間の贈り物が若者の再生や希望に繋がるという作者の意図を示唆しているようで清々しい読後だった。

 

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