海運の平成30年間を振り返る
”平成の30年間を振り返る”たぐいの特集が目立つメディアである。確かに一つの時代が過ぎ去ろうとしているのは判るが、毎日の生活では西暦に慣れすぎて、「平成10年のあの事件」などと云われても、「えーと、1998年ね」といちいち読みかえるのが常だ。そうは云っても天皇陛下の御代が変わると同時に元号が変わるというシステムは、世界に誇る我が国の素晴らしい伝統だといえよう。業界誌「海事プレス」にもこのところ「日本海事産業の平成史」と銘打った記者座談会がシリーズで掲載されている。その7回目に「(平成の)この30年間で海運会社の仕事の仕方や文化も大きく変わったのではないかな。」という業界記者たちの話が載っていて、これが面白いので以下に抜粋してみる。
―「最近の海運会社の人たちは本当に忙しそうだ。アポイントの時間がなかなか取れない。」; ―「海運会社の人と飲むと、昔の課長さんや部長さんは何だか暇そうだったな、という話によくなる。朝来てスポーツ新聞を読んでいたというし(笑)。」(筆者注;すみません、私も部課長時代、会社でスポーツ新聞読んでたクチでした); ―「(かつては)基本的にアポなし取材だった。朝一で海運会社のオフィスに行き、端から順番に部長席を回る。そしてネタを聞きまくる。今では考えられないけど、本当に自由だった。」; ―「あれだけ自由に取材できる業界は、その時代でも海運くらいだったらしい。本当に大らかで自由だった。海運業界は特別だと思う。」; ―「アポなしで会社に行くと、時間がある人は15分、30分と取材に応じてくれた。」(筆者注:私もよく業界紙(誌)の記者を会社のカフェテリアに誘って、ある事ない事好き放題に喋ったものでした)などとある。そして業界紙の記者は業界が育ててくれたと、平成初め頃までの海運業界を座談会出席者たちは懐かしんでいる。
続けて、―「昔の海運界はお互いに競争しつつもお互いを認めるという、大らかな関係性があった。みな一緒に飲みに行っていたし、会社の中で言えない悩みをライバル企業の人に話してたよね。」(筆者注;競合他社と飲んだりゴルフもよくしたものだった。銀座には業界の担当者たちが集まるバーもあったし); ―「時代の流れとはいえ、寂しさを禁じ得ない。…やはり昔の雰囲気は最高だった。残念だけど、これだけは元に戻ることはなさそうだ」などとコメントが続く。この座談記事を読み、私よりはるかに若い記者たちでも、最近の海運界から感じる雰囲気が私とまったく同じでちょっと嬉しくなった。私は今も業者として元いた会社に出入りするが、現役連中に「ルールはわかるがもっと融通を利かせて大らかにやれよ」「ほんの20年前まではこうだったんだから」などと言っても、コンプラアイアンスから1ミリも動かない彼らからは化石を見る様な目で睨まれてしまう。
こういう視点で平成の30年間を振り返ると、海運界でも「ポリティカル・コレクトネス」やら「コンプライアンス」あるいは「ハラスメント」などという言葉が使われだし、ついにはこれらが跳梁跋扈する様になっていった嫌な時代が平成だったと言えよう。まあ一年に何回も弁護士が行う講習会に呼び出され「これがハラスメントにあたる」とか「これをやったらコンプライアンス違反になる」などと、最悪の事例を大げさに教え込まれたら、普通の人間ならチャレンジする前に面倒だから余計な事には手を出すのやめようと思うに違いない。「失われた20年」などと云われ、日本の企業が中国や欧米の会社に遅れるようになったのは、米国型株主資本主義やガバナンスの流行に加え、「ポリテカル・コレクトネス」「コンプライアンス」「ハラスメント」などという考えに日本中が染まったからだ、と私は考えている。せっかく「令和」になり新時代が来たのだから、欧米流のこんな概念のくびきから逃れ、少々脱線しても自由にものが喋れ、現場の融通が利くような日本型の良き社会に「逆行」してほしいものだ。
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バルクキャリア様
以前もコメントさせていただきました者です。小生も海運業界に身をおいて四半世紀になりますが、特にこの10年で大きく雰囲気が代わったことを肌身に感じております。ガバナンスとやらで手続きに時間がかかり、スピード経営はどこへやら。かと思えば昨今流行りの効率化の大合唱。海運特有ののんびり加減は過去のものとなりつつあります。もうあの「古きよき時代」には戻れないのでしょうね。
長々と失礼しました。今後もブログを楽しみにさせていただきます。
投稿: viviogx -t | 2019年4月26日 (金) 21時15分
viviogx-t様
お久しぶりです。コメントをありがとうございます。かつて「給料は安いが自由な海運会社」だったものが、今では「給料は世間並みになったが自由も世間並」の業界になってしまったのが寂しいです。不況が永くとも金融機関・船主・オペレーター・荷主など関係者が、お互い融通しあいながら生きた日本式のビジネススタイルはもう望めないのでしょうね。viviogx-t様はまだ現役バリバリと推察しますが、元気に臆せず細かい事は気にせず融通を利かせて奮闘される事をお祈りします。
投稿: バルクキャリアー(ブログ主) | 2019年4月26日 (金) 23時55分