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2019年2月 6日 (水)

ピースボートのエコシップ

20190206
2016年2月リオデジャネイロ(ブラジル)に停泊中のピースボート(中央・赤いファンネル)

週刊文春の2月7日号に「ピースボート570億円豪華客船計画が座礁」という記事が載っている。北欧のアークティック造船で計画されていたピースボートの新造船エコ・シップの完成が2020年3月から2年遅れになるとの発表がなされ、本当にこの計画がすんなり進むのか疑問を呈している。2015年にピースボートが発表したエコシップは、太陽光発電などで二酸化炭素の排出を約4割減らすとされているが、この造船所はしばらく客船も建造していないところだし、建造契約も決まらない段階でエコシップに乗りたい人から金を集め、就航が遅れるのを知りながら募集を続けた姿勢が問題だと記事は報じている。


ピースボートと云えば、辻元清美と云う私の嫌いな政治家が始めたプロジェクトで、中古の客船をチャーターして世界一周クルーズを催行していることは広く知られる通りだ。飛鳥Ⅱのワールドクルーズでも、以前にピースボートで世界を回ったという人たちに幾人か合ったが、誰でも料金を払えば乗れるものの、船上では「憲法改正反対」とか「環境保護」などを訴えたりするそうだから、ちょっと気持ちの悪い船でもある。ただJTBのサンプリンセス世界一周チャータークルーズが「ピースボートよりは高いが飛鳥Ⅱのワールドクルーズよりは安い」と喧伝するように、料金面では我が国の世界一周クルーズである種の指標になっているのも事実である。


ということで、一体何がおこっているのか興味が湧いてピースボートを主催するジャパングレイスという会社のホームぺージを読むと「新造船計画の遅延は安全基準の変更に伴うものであり」週間文春の「『計画が座礁』という表現につきましては、実情を著しくゆがめる表現で」「新造船の建造計画は新日程において順調に進んでおり、新日程でのお客様の募集も再開しております」とある。また同社の別のページには「週刊文春での報道について」としてアークテック造船所とは造船契約を締結しており、その造船所は過去に客船の実績があり、現在エコシップの募集はしていないし、エコシップ予約金の使途は造船契約に充てる予定はあるが、全員に払い戻しても資金繰りに何ら影響はない、と記載されている。


ピースボート側の主張に沿って調べてみると時系列的にこういう事になる。

  1. 2015年10月にピースボートがエコシップを2020年4月に投入すると発表

  2. 2017年5月にピースボートよりアークティック造船所にLETTER OF INTENT(LOI=発注内示書)が出される

  3. 2017年6月IMO(国際海事機関)で2020年1月以降に「建造契約」する客船の構造要件の変更が決定(浸水しても船の全損にならない区画を従来より拡大させる事など)

  4. 2018年央 アークティック造船所よりエコシップを新基準に合致させるために引き渡し遅延をピースボートに打診

  5. 2018年末 ピースボートと同造船所が正式に2022年4月に引き渡すことで合意

という事になるが、ここで幾つかの疑問が湧いてくる。
  1. 契約から完成まで普通の貨物船でも最低2年はかかる。仮に2015年10月以前から内々で打ち合わせを開始していても、デザインも推進方法も新しいコンセプトの船をつくるのに、当初の4年半という工期はあまりにも短かすぎないか。最初から2022年引渡しありきでなかったか。

  2. 新基準に合致させる新造船は2019年末までに契約をしておけば免れるから、それまでに契約を済ませてしまうのが造船・海運の常識で、コストのかかる新しい基準にわざわざ合わせる例はこれまで聞いた事がない。造船契約で合意していた建造費用はアップするし、引き渡し遅延のペナルティは誰が負担してどう扱うのか。

  3. そもそも造船契約は交わされたのか。法的効力のあいまいなLETTER OF INTENT(発注内示書)は交わしたとピースボートは公言しながら、正式に契約した事が発表されないのはなぜか。(船価は守秘義務があるも、契約したこと自体は特段守秘する必要はない)

  4. 今回の遅延に関して造船所がピースボートに出したLetter(英文)がホームページで公開され、そこには「我々の造船契約に基づきプロジェクトは進展中」とあるも、ビジネスレターなら「何年、何月、何日付けの造船契約に基づき」と書く筈なのにその記載がないなど体裁が奇異。

  5. これまでのチャーターから自社の運航になるから、船舶管理はじめ運航やホテル部門のクルー手配や乗り出し諸準備は当初計画の2020年に向けてすでに開始されていたはずだが、どうなのだろうか。

などなど疑問がつきない。


さて造船所への支払いは分割払で、契約時は(双方の信用力などによっても異なるが)船価の10%程度を造船所が受け取ることが多い。通常は船主はこの資金を自己資金でまかなうが、570億円とされる船価ならば契約時支払いは57億円である。キャッシュがよほど潤沢でないとこの資金を準備するのは困難だろうから、ピースボートはその引き当てもあって週刊誌が指摘する全額前払いのエコシップのクルーズ代金を集めていたのだろう。一方で造船所では自己都合で船が出来なくなった場合の返金保証(REFUNDMENT GURANTEE、造船所側の銀行による保証になることが多い)が準備出来ず、これが契約を遅らせる要因になっていたのかもしれない。仮にすべてうまくコトが運び、造船契約がすでに交わされているとすれば新基準に合わせる必要はないのに、両者は敢えて安全性向上ために設計を変更して引き渡しを遅らせた事になる。そうだとすれば造船業界でこれまでに聞いたことがないことが起こっているわけで、今後どう話が展開していくのか野次馬根性全開である。

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