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2019年1月12日 (土)

にっぽん丸のグアム事故

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2008年正月乗船した「にっぽん丸グアム・サイパンクルーズ」 アプラ港着桟中、今回衝突したと思われる対岸桟橋を船尾からのぞむ (画面左に見えるのは飛鳥Ⅱの船首)

商船三井客船(MOPAS)の「にっぽん丸」(22,000トン)が、昨12月30日夜「ニューイヤー グアム・サイパンクルーズ」でグアム・アプラ港を出港する際、操船を誤って対岸の米軍岸壁に衝突し、岸壁に300万ドルと云われる損害を与えたと報道されている。この事故で本船の船尾右舷下部にも大破孔が生じ、堪航性の維持が困難なため現地で修理が必要になってクルーズは中止、乗客はMOPAS手配のチャーター機などで帰国したそうだ。不幸中の幸いは乗客・乗員に死傷者がなかった事だった。事故後に船長のアルコール検査を行ったところ、船員法に基づく安全基準を超える濃度が検知されて問題になっているところである。


私が初めてクルーズ船に乗ったのが20年前、MOPASがかって運航していた「ふじ丸」で、以来同社の「にっぽん丸」にもたびたび乗船してきたので、他人ごととは思えない事故である。これまでも内外のクルーズ船に乗って狭水道や難しい場所にある岸壁に行き、そのたびに各船長の操船ぶりに拍手を送ってきたのだが、今回はどうしたことだろうか。クルーズ船は、離着岸の際に船長が自ら船橋ウイングのジョイスティックで操船するので、もし本当に「にっぽん丸」の船長が当時酩酊して操船を誤ったのならばこれは大問題である。後進離岸で行き足がつき過ぎたという噂もあるが、ただ船長の指揮下とはいえ、パイロットが乗船してタグが本船をアシストしている状況で、なぜ対岸の岸壁に衝突したのか、事故の解明にはまだ確認しなければならない点が多い。


私は永らく海運に携わって貨物船の海難事故に幾度となく関わってきたが、ニュースを聞いて客船ではこういう場合にどういう事故処理が行われるのかにわかに気になった。ということで、まず「にっぽん丸」の旅客運送約款を読んでみると、その第6条に「天災・火災・海難・本船の故障その他やむを得ない事由が発生した場合には、予定の航海の中止、短縮の措置をとる事がある」とある。また第13条で「前条に基づき航海を中止・変更などの措置によって生じた損害はその賠償する責めに負わず」とされ、第16条で「航海を中止した時は、既航海の部分は徴収し、未達の分は払い戻す」としている。


海難事故を起こした場合にはそれまでの運賃は頂きますが、その後は知りません、自力でなんとかして下さいというのが「建て前」になっているようだ。他の日本船2隻「飛鳥Ⅱ」や「ぱしふぃっく・びいなす」の約款を見ても内容は同じで、「航海過失は免責である」というヘーグルールなどに代表される海運の伝統に根ざした運送約款だと理解できる。ただ事故が船長の飲酒による過失によるものだと認定され、乗客が損害賠償を申し立てた際に、「航海過失の免責」を盾に約款通りの対応をMOPASがとれるものだろうか。この点を知人の海運に関わる法律家に意見を聞いたところ、「それは程度問題・ケースによる、ただし約款の準拠法が日本法なので、日本の法廷ならば損害賠償が認められる事はありうる」との事。


一方この事故で蒙ったMOPASの損害については、船体の破孔は船体保険で、300万ドルとされる岸壁の損傷はPI保険(船主責任保険)でカバーされるであろう。乗客に関する保険としてかけている船客傷害賠償保険は、旅客の死亡・障害・疾病などで賠償責任を負った際の保険のため、今回は適用されるのだろうか?特約がない限り、帰りのチャーター機の費用などはMOPASの持ち出しになるであろうが、その他、本クルーズ後予定されていた数航海のクルーズが中止せざるを得なくなった期待利益に関する保険や、オフハイヤー保険(船舶の休航に伴う損害をカバーする保険)のような保険をMOPASがかけていたのかはわからない。


事故当初MOPASは約款に基づき、事故までの運賃は徴収、事故以後のものは返金するとしていたが、その後対応を変えクルーズ代金全額返戻するとしたそうだ。クルーズ代金全額を返金し、乗客の帰国費用まで商船三井客船が支払った場合、かなりの金額をMOPASは自腹で支出したのであろう。ネットであっという間に事故の対応が拡散する時代、これからも日本で客船ビジネスを続けていくために「約款にない道義上の責任」をとったものと思われる。あるいは飲酒上での操船となれば、「航海過失免責」とも主張し難い事を考えたのかもしれない。


戦後、航空機時代が来て、郵船が客船の運航から遠ざかっていた時にも、細々ではあるが南米移民船以来、途切れずに客船事業を続けてきた商船三井である。正月の繁忙期に即座に大型機をチャーターし、代金全額を払い戻した事も彼らの矜持なのだろう。今回の事故を契機に副船長を配置するなどMOPASは体制をたてなおし、これからは安全なクルーズ船事業を提供して欲しいものだ。

日本のクルーズ船は離着岸の際、船長自らウイングの操舵スティックで操船する
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