ハリファックスの大爆発
飛鳥Ⅱは5月22日、カナダ東岸ノバ・スコシア州ハリファックスに入港した。ハリファックスはヨーロッパから大西洋を横断する航路では、北米東岸における最短の地で、タイタニック号遭難の際にも多くの生存者や犠牲者が運ばれたところだ。ここはまた第一次大戦中の1917年に、船舶同士の事故から引き起こされた「ハリファクスの大爆発」事件でも有名な場所である。飛鳥Ⅱが停泊したクルーズ船ターミナルからほど近い場所にある大西洋海洋博物館に行くと、「ハリファクスの大爆発」特別展示コーナーが開設されていたので、今回ゆっくりとこの事件の経緯を知る事ができた。
時は第一次大戦のさなか、当時、北米から戦場のヨーロッパに向かう物資の集積地として、あるいはドイツのUボートに対する連合軍船団の集合場所としてハリファックス港は大いににぎわっていた。港の入り口には夜間Uボートの進入を防ぐ対潜ネットが敷設され、これが開く朝の時間帯は港内は入港船と出港船がラッシュする上、多くの漁船やフェリーが行き交っていたと云う。事件のおきた12月6日の朝、ノルウエー籍イモ号はパイロットに蕎導され、次港のニューヨークでベルギー向けの援助物資を積むべく、空船で港の出口に向かっていた。一方フランス船モンブラン号は、ヨーロッパに向かう軍需物資や火薬、甲板上にはベンゼンのドラム缶を積み、ハリファックスで船団を組むためにパイロットが乗船して入港しようとしていた。
さて飛鳥Ⅱが停泊した客船ターミナルやコンテナターミナルがそうであるように、当時もハリファックス港は主な荷役の設備が港の西側(入り口から見て左側)に位置していた。その上この港は地理的にも奥に向かって西に屈曲しているため、混雑している港に入ってくる船舶はしばしば本来の海上交通ルールとは逆の左側通行(右舷同士でのすれ違い)で航行していたそうだ。今でも飛鳥Ⅱから見ているとコンテナターミナルに向かう船が、港内に入ると早くから針路を左にとって岸壁に向かっていたが、入港船が早めに左に進路をとるのが同港の伝統的な慣習なのであろう。
12月6日の朝、出港するイモ号は、入港船舶が本来の海上規則とは違って左側を航行するのを見越して、港内の左側を通って港の出口に向かって進んでいた。これに対して入港するモンブラン号は、本来の規則通り航路の右側を通って港に入ってきたため、両船は船首同士が向き合うことになる。モンブラン号が汽笛一発を発してイモ号に注意を促すが、イモ号は汽笛2発(左に回頭する)むね応え、この応酬を幾度かしつつお互いが進路を譲らないうちに両船は急速に接近してしまったとされる。もはや衝突が不可避となった時点でモンブラン号がハードポート(左に大回頭)、イモ号がフルアスターン(全速後進)をかけるも、モンブラン号の右舷にイモ号の舳先が深く食い込んでしまった。
この時、モンブラン号のデッキ上に積まれたベンゼンが衝突の火花で着火したため、同号は直ちに大火災を起こしてしまう。炎に包まれたモンブラン号の乗組員が退船したため、同船は無人のまま漂流、そのまま陸地に接近するうち、消火のために集まった消防や見物客の前で、積荷の火薬類に火がうつって船は一瞬にして大爆発をおこした。この大爆発で水辺にあつまった人達を含め2000人が死亡し9000人が負傷、町のほとんどが一瞬にして瓦礫と化したと云う。海洋博物館には灰燼となった町の多くの写真や「一回の爆発で犠牲になった人々の数は広島以前では最大」との説明が展示され、爆発事故の凄まじさを伝えてくれる。
飛鳥Ⅱに帰って、もと外航船の船長をしていた乗客にこの話をすると「パイロットの間では先輩・後輩とかキャリアの違いで微妙な駆け引きがあるんですね。狭い航路ですれ違う時などは、あのパイロットは強情で絶対に譲らないから、こちらが早めの変針しておくか、などとブリッジではそれぞれ微妙な心理が作用しているんですよ」との事である。なるほどパイロットが乗船した両船が最後まで互いに進路を譲らなかった裏にはそういう事があったかもしれない、と本職の話に納得したのだった。
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