バレンシアの商品取引所
チビタベッキアを出た飛鳥Ⅱは、スペインのバレンシア、次いでマラガに寄港した。私には生まれて初めてのスペインの地だ。これまで訪れた事のある中南米諸国などスペインの旧植民地の印象からして、本家本元のスペインはなんとなく雑然としているのではと想像していたのだが、どうしてスペイン本土は我が思いこみよりずっと美しい国だった。町を走るクルマも無闇に飛ばすわけでなく、横断歩道でも歩行者優先ルールがきちんと守られていて、やはりスペインは当たり前だが西欧の国だと改めて認識した。
さてバレンシアの旧市街で見学した商品取引所(ラ・ロンハ)は15世紀末にできた町の名所である。いかにも歴史を感じさせるそのラ・ロンハの中の大きな一部屋は、当時は国際的な海運貿易で生じたトラブルを裁く仲裁の場として使われていたという。今でも海運取引に関連する争いは、裁判所で裁くより各地の民間の海運集会所に委ねるのが普通なのだが、そのやり方がすでに15世紀末にあったとは知らなかった。現在もっとも権威があるとされるのがロンドンのバルチック海運集会所で、こちらは17世紀末から活動しているから、それより遥か以前にスペインでは同じ事が行われていたわけである。
今では世界の海運に関する商習慣や書式、たとえば貿易の基礎となる船荷証券などは英国法がもとになっているので、海上貿易を制し商習慣を確立させたのはイギリスだと思いがちである。しかし考えてみると古くから新大陸に植民地を持ち、そこから莫大な富を得ていたのがスペインやポルトガルであった。スペインに海運集会所があったという事は、海上交通のルールを制していたのは当時はイギリスでなくスペインだったという証しであろう。こうして世界を制していたスペインが宗教改革から始まる近代化によって北ヨーロッパの国々、特にイギリスに圧倒されゆく西欧の近世史や諸国の興亡をラ・ロンハの薄暗い大部屋で一人思い起こしていた。
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